第3話最弱魔王は決意します(後編)

 ラヴィーが泣き止む頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 「なんかごめん。私のせいですっかり暗くなっちゃった」

 「全然平気だ。それよりもその...なんて言うか俺も知らなくてごめん」

 「いいの、私も強く当たっちゃってごめんなさい。魔王だからって決めつけて...皆が皆魔王カインじゃないのに」

 「いいんだ。それにラヴィーが正しいよ。おれはその..自分で言ったら変だけどビビりだし、泣き虫だし、最弱だけど他の魔王は違う。人を平気で傷つけるし殺したりする。ラヴィーが普通なんだ」

 「そうね。魔王は残虐で悪趣味な連中ばかり、その中でも魔王カインは特に残酷な男だったわ。今でも覚えてるの、目の前で家族が殺された瞬間を」

ラヴィーはそう言うと震える手で両手を掴んだ。俺は実際にその光景は見ていないが想像は出来た。こんな時何か言葉をかけられたらいいが俺は何もかけられる言葉が思いつかなかった。下を向いた俺にラヴィーはため息をついて言った。

「ラヴィー?」

「なんて顔してるのよ」

 「え?ちょっと何して..んだよ」

ラヴィーは俺の頬を掴んだ。ラヴィーは笑って俺の頬をいじり俺はされるがままになっていた。満足したのかラヴィーは手を離すと腹を抱えて笑った。俺は頬を押さえながらラヴィーを見た。

 「ぷっ、あはははははは」

 「おい?人の顔で笑うなよ」

 「だって変な顔なんだもの」

 「だからってそんなに笑うなよもう~」

 「ごめんごめん、ついね」

ラヴィーは涙を手で拭うと俺の方を向いてこう言った。

 「でもありがとうクラウド。あなたのおかげで元気出たわ。あなたは魔王らしくないわね」

 「それ褒めてないよな」

 「いいえ、褒めてるの。だってあなたは他の魔王と違うでしょ?」

 「どこが?」

 「泣き虫でしょ、最弱なところでしょ、それから~」

 「ああ~聞きたくない~」

俺はとっさに耳をふさいだ。ラヴィーの言う一言が心に刺さる。ラヴィーはというと俺の様子を楽しんでいる。

 「そして誰よりも優しいところよ」

 「ラヴィー?」

俺はラヴィーの言葉を聞いて彼女の顔を見た。彼女は笑って俺にこう言った。

 「あなたは優しいわ。この星で誰よりも、そしてもちろん魔王の誰よりもね。私が出会ったのがあなただったらよかったわ。そうしたら少しくらい魔王のこと、あなたのことを好きになれたかもしれないわ」

 「え、ラヴィー...それって告白みたいだよ」

 「は!!ち、違うの。そういう意味じゃなくてほら、友達としてね!1だから...もう~」

ラヴィーは自身の言ったことに気づいて顔が赤くなり慌て始めた。そしてなぜか殴られる。

 「痛い、なんで!1」

 「もう、クラウドが悪いんだからね!!」

 「俺なの!!理不尽」

俺がそう言うと互いに顔を見合わせた。お互いの顔を見るとおかしな顔をしていたので笑いあった。

 「決めたよ。ラヴィー俺は...」

俺は覚悟を決めて自分の意思をラヴィーに話した。ラヴィーは話を聞いて俺にこう言った。

 「なるほど、クラウドらしいわ。私はあなたの意見に賛成よ。その意思をフィオナに伝えてきたらいいんじゃないかしら?」

 「フィオナに?でもどこにいるか」

 「フィオナはあそこにいるわ。いつもの所に、あなたと出会ったあの森にいるわ」

ラヴィーは指を指しながら言った。ここからそう遠くない森だった。今から行っても大丈夫だろうかと考えていたらラヴィーに背中を叩かれた。

 「行っても大丈夫よ。それにその森はあなたの家なんだから。私は大丈夫。あなたのおかげで元気が出たから速く行ってあげて」

 「分かった。ラヴィーも気をつけろよ」

 「ええ、それじゃあまた」

 俺はそう言うと森へ向かった。離れる際に振り向くとラヴィーがこちらに手を振っていた。俺もラヴィーもお互いに見えなくなるまで手を振りあった。歩くこと数分後に森にたどり着いた。

 「ここが俺に家か...自然が豊かで魔王って感じがしない」

辺りを見ると緑の自然に囲まれて鳥の鳴く声など動物たちが住んでいた。動物たちは俺と目が合うとこちらに向かって集まってきた。驚いたが動物たちは俺に懐いていたのかじゃれあってきた。とてもかわいくて癒される。動物たちに体を舐められてくすぐったくて笑った。

 「ちょっと、くすぐったいってあははは~」

 「相変わらず仲がいいな、クラウド」

 「フィオナ!!」

話しかけられた方へ顔を向けるとフィオナが立っていた。俺はフィオナの所に行こうとしたが動物たちに囲まれて、いや押しつぶされて動ける状態ではなかった。フィオナに助けを求めるとフィオナが動物たちに話しかけたことで動物たちは離れていった。

 「ありがとう、フィオナ」

 「礼には及ばないよ。しかし相変わらず動物たちは君に事が好きなようだ」

 「急に囲まれて驚いた」

 「この森は君と動物たちが暮らす森だからね。動物たちも感謝しているんだ」

 「俺、魔王なのに怖くないのかな」

 「なら、この森と動物たちについて少し話をしようか」

フィオナはそう言うと森を進んだ。そこには、小さな家が建っておりここが俺の家なのだと知った。隣には同じような家が建てられていた。

 「この家は誰が住んでるんだフィオナ?」

 「そこは私が住んでいるよ、クラウド」

 「え、ええええええええ!!」

 「驚くことじゃないだろう?クラウド。やはりまだ調子が悪いのかい。一応君が魔王だから君に何かか起きた時に対応できるようにするためにここに住むって決めたじゃないか」

 「そうだっけ?」

 「そうだ。話を戻そうか、この森は悪しきものが住むことのできない森〈命の森〉と言われているんだ」

フィオナが言うには、この森はこの星の命の源であり自然や動物たちが多く暮らしているのだ。そこにある日魔王・クラウドが怪我をしてこの森に迷い込んだらしい。その時動物たちは魔王・クラウドを最初は怖がっていたが優しく手当てをしてくれたのだ。魔王・クラウドは怖がって近づけなかったが森と動物たちのために礼としてこの森を守っていた。動物たちが怪我をすれば手当てをしたり、困っていたら助けたりしていたらしい。互いに助け合っていたが魔王・クラウドの性格ゆえに動物たちは近づけなかったのだと言う。雰囲気が変わったことでじゃれあえて嬉しいとフィオナは言った。

 「そうだったのか、動物たちにもビビりって...」

俺が転生する前の魔王・クラウドはどんだけびびりなんだよ!!っと心の中でつっこもうとしたのに心の声が漏れた。転生したことできっと魔王クラウド・から俺に入れ替わったからだろう。それにしても動物たちにビビる魔王なんて聞いたことない。大丈夫なのかこの魔王・クラウド...内心呆れていた俺はため息をついた。

 「クラウド?疲れたのかい」

 「いいや、大丈夫だよフィオナ」

 「そうかい、ならいいんだ。少し聞いてもいいかい?」

 「いいけど何を?」

 「先程ラヴィーから連絡をもらって君がそろそろこちらへ来ることだと言われたんだ。それと例の大会の大会のことについても...聞かせてくれないかい、君の考えについて」

 フィオナにそう言われた俺はラヴィーに言ったことを思い出して答えた。

 「わかった。フィオナ、俺は例の大会〈魔王バトルロワイアル〉は参加することにしたよ。でも他の魔王みたいに人を傷つけたり、殺したりなんかしない。俺は守りたいんだこの星を。この森やこの森に住む動物たちやフィオナ達を、それにラヴィーの家族を殺した魔王・カインは許せない!俺は弱いけどだからって逃げたくないんだ。俺はこの星を守るために戦うよ」

俺はフィオナにそう伝えた。フィオナは真剣に俺の話を聞いてくれた。

 「クラウド、それでいいのかい?後悔はしないのかい。君はそれを選択すればこれから君は多くの魔王たちと戦うことになる。それはこの星の皆とは違い残虐で狡猾だ。彼らを相手にすることで君は地獄を見ることになる。それでもいいのかい?」

フィオナの言葉を聞いて俺は一瞬戸惑った。フィオナの言うことは正しい。魔王たちは残酷で残虐なものたちだ。それらを相手にするのはフィオナが言うように地獄を見るかもしれない。平気で殺す連中だ。正直怖いし相手をしたくない...けど目の前で人が死ぬのは、この星の皆が死ぬのは嫌だ。俺は拳を握りしめてフィリップに言った。

 「フィリップの言う通りだ。正直怖いし出来れば相手をしたくないって思ってる。けど、ここで逃げ出すなんて俺は嫌だ。この星の皆は優しくて誰も死んでほしくない!!」

 「分かった。君に意思を尊重しよう。君がそう言ってくれてよかったよ。今日はもう遅いから明日のしよう」

俺は頷くと俺たちは互いの家に向かった。フィリップがドアを開けた時俺はフィオナに向かった叫んだ。

 「フィオナ、俺頑張るから!!大会も何とかして見せるから!!」

フィオナは驚いていたが嬉しそう笑ったあと俺に注意した。

 「ありがとう、クラウド。しかしもう遅いからね。また明日、お休みクラウド」

 「ごめん...お休みフィオナ」

俺は恥ずかしくて顔を隠しながらドアを開けて部屋に入った。その様子を見ていたフィオナは微笑ましそうに自身の家のドアを開けて中へ入った。


 次の日、目を開けるとそこはやはり異世界だった。俺は身支度を済ませると森を探索していた。するとフィオナが湖の景色を見つめていた。俺に気づいたフィオナと軽く挨拶をした後、フィオナにあることを頼んだ。その願いは...

 「フィオナ、お願いがあるんだ。俺は強くなりたいんだ。だから俺に修行をしてほしい」

と俺がそう言うとフィオナは頷いた。

 「いいよ、クラウド。今日から君に修行をつける。死ぬ気でやるよ」

 「ああ!!」

修行は大変だろうが何とか耐えて見せると思っていた。しかし今の俺は最弱魔王である。この修業でこれから何度も心が折れそうになるとは知らずに...

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