第8話 みんなの趣味
さくらは、ひまわりの学習支援のスタッフが人手不足であり、相川にスタッフとして手伝ってもらえないかということを話した。
「学習支援かぁ……昔、学習塾でバイトしたこともあるし、人に教えるなんてなんだか懐かしいなぁ。今はジャングルジムの仕事以外特に何もしてないから時間もあるし…、よし!その話、俺でよければ引き受けるよ」
相川はやる気なり、ひまわりの学習支援スタッフを快諾した。
次の土曜日、さくらはひまわりで山下理事長に、相川の話をし、山下理事長も人手不足である学習支援にスタッフが入ってくれることを喜んだ。こうして、毎週土曜日に相川が学習支援スタッフをすることが正式に決まった。
季節は初夏になり、少しずつ暑さが厳しくなってきた。
「皆さん、これよかったら食べてください」
A市案件の仕事中、安田がみんなにカップアイスを配ってくれた。
「今、打ち合わせから戻ってくる途中で美味しそうなアイスが売ってたから買ってきたんです」
「わ〜、ありがとうございまーす!!」
甘いものが大好きな綾菜が満面の笑みでカップアイスの蓋を開ける。そこから、少し仕事を休憩し、アイスを食べながらみんなで話し始めた。
「皆さん、休みの日はどんなことしてるんですか?趣味とかあるんですか?」
安田がみんなに質問する。
「私は父の介護をしつつ、ゴミ拾いしてアクセサリー作るのが趣味だから、休みの日はそんな感じかなぁ……」
「綾菜ちゃんはいい趣味があるわよね。私は大して趣味と言えるものはないかなぁ……休みの日も結局主婦は家事があるしねぇ」
邦恵が言う。
「俺は最近、NPO法人ひまわりで学習支援のスタッフをしてるから、それが趣味っていうと変だけど、すごく楽しいよ」
「相川さん、利用者のみんなからもわかりやすいってすごく評判がいいんですよね。私もひまわりに行って、利用者のみんなと話したりボランティアやゲームするのが休みの日の過ごし方かな……」
さくらが笑顔で話す。
「僕は、料理が好きだから家でも作ったりするけど……あとはスポーツ全般好きだから、スポーツ観戦ぐらいかな」
奏太は調理師らしく料理が趣味だというが、スポーツも好きだという。
「僕は……最近はこれといった趣味がないですね」
勇樹は特に趣味が思いつかなかった。
「安田さんは、なにか趣味とかあるんですか?」
勇樹が安田にも聞いた。
「僕は、学生時代陸上部だったこともあって、今でも走るのが大好きなんですよね。休みの日は近所の公園を走ったり、たまにマラソン大会にも出たりしますよ」
「へー、健康的な趣味ですね。僕も体動かすのが好きだから、一緒に走りたいですね」
奏太が安田の話に食いついた。
「是非、一緒に走りましょうよ! 僕も、一緒に走れるランニング仲間を探してたんですよ!」
「いいですね! 勇樹くんも、趣味がないなら一緒に走ろうよ。ランニングは気持ちいいし体にもいいし、楽しいよ」
勇樹は奏太に誘われ、一緒に走ることになった。
ある日曜日。安田、奏太とランニングをする約束をしていた勇樹は、B市内にある大池公園の入り口にいた。待ち合わせ時間少し前に、安田と奏太も到着した。今日は3人ともランニングするためのスポーティーなファッションだ。
大池公園は、その名の通り公園の中央に大きな池がある公園で、B市内で有名なランニングスポットである。池の周りがランニングコースになっており、休日には沢山のランナーが走る姿が見られる。
「とりあえず、3人でのんびりランニングコースを走りましょう」
安田がそう言い、3人で色々と雑談しながらランニングした。勇樹はあまり乗り気ではなかったが、話しながら景色を見て走っている内に、意外と楽しいと感じ始める。
「ハァハァ……いい運動になりましたね」
勇樹は久しぶりにした運動で爽快な気分になった。
「ランニングいいですよね。大池公園を出て北側へ少し歩いたところに、1階が銭湯で2階がカフェになってる所があるんですよ。これからそこに行って汗を流しませんか?」
安田はよくこの辺りを走っているため、詳しい。
3人で銭湯に入り、ランニングでかいた汗を流す。そのあと、2階のカフェに移動して3人でランチをした。
ランチも食べ終わり、
「また定期的に3人で走りましょう」
安田が言い、奏太と勇樹も頷いた。
——いつの間にか真夏のピークになり、外ではセミの鳴き声が騒がしいほどだ。A市案件の仕事も残り2ヶ月半ほどになっていた。
いつものようにA市案件のメンバーがパソコンに向かって仕事をしていると、
「皆さん、一度手を休めてもらってもいいですか?」
安田がやってきた。みんな仕事の手を止め、安田の方を見た。
「皆さん、今はA市からの依頼で仕事をしていただいてますけど、そのA市が、今年市政100周年なんですね。それで、今度100周年イベントが大々的に開かれるんです」
「100周年なんだ。おめでたいですね」
奏太が言うと、
「そこで、せっかく縁あってA市の仕事をしているジャングルジムにも、その100周年イベントに何かの企画で参加してほしいとの話が来たんです」
「へー、すごい!」
「何かの企画って、企画の内容はなんでもいいのかしら?」
「流石、邦恵さん。いい質問ですね。企画内容はこちらで自由に決めていいそうなんです。ただ、一度企画が決まったらA市に確認をして、OKが出たらそのままその企画をやっていいという流れになります」
「なんだか、前にやった桜ヶ丘パークマルシェ以来でワクワクしますね」
勇樹は久しぶりのイベントに胸を躍らせた。
「マルシェのときみたいなアクセサリーや食べ物のブースをやりますか?」
相川が提案するが、
「今回は、前回とは違ったことやった方が面白くない?」
綾菜が言い、
「そうですね、せっかくなら今回はマルシェのときとは違うことをしましょうよ」
と安田。
「マラソン大会みたいなの、どうです?最近僕たち走ってますけど、体を動かすと気持ちがいいし、楽しいじゃないですか」
奏太が安田や勇樹を見て言う。
「A市のイベントでマラソン大会を開催するのって、楽しそうですね」
さくらも賛同する。
「いいこと考えた! マラソン大会をやるなら、綾菜ちゃんが普段やってるゴミ拾いを合わせたプロギングをやるのはどうでしょう?」
勇樹が言うと、
「プロギング?」
みんなが首を捻る。
「プロギングっていうのは、ジョギングとゴミ拾いを合わせたもので、最近人気が出つつあるんですよ。全国各地でプロギングのイベントが開かれてたりするんです」
「へー、勇樹くん詳しいのね」
邦恵が関心する。
「それいいんじゃないですか?綾菜さんの趣味のゴミ拾いと、僕や平井さん、中山さんの趣味のジョギングが合わさってて、しかも環境問題にも取り組めるからA市にも提案しやすいですし」
と安田。
「じゃあ、今度のA市100周年イベントはプロギングで参加決定だね!」
綾菜が声を弾ませる。こうして、A市100周年イベントにジャングルジムでプロギングを企画する案がまとまった。
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