第7話 涼、ひまわりに行く
意見交換会が終わり、山下理事長と話をした。ひまわりでは、引きこもりの人が社会に再び出るための第一歩として、開設時間内ならいつでも来ていい居場所スペースがあり、引きこもりやニートの状態の人達が自由に過ごし、意見交換やゲーム、ボランテア活動などをしていると聞いた。
「こんな場所があったのね」
邦恵は今まで引きこもりの息子のことで悩んでいたが、こういう場があることを初めて知った。
「悩みごとや心配なことがあったらいつでも相談に来てくださいね」
山下理事長は優しく邦恵にそう告げた。
「ありがとうございます。今までこういった場があることを全く知らず過ごしてきたので、とっても心強いです」
さくらが邦恵に、
「私も引きこもりの頃は自分がダメだと思ってたんですけど、引きこもりはダメではないっていう言葉を理事長から聞いて、すごく励まされたんです。私はよくこのひまわりに来てるから、邦恵さんももしまた一緒に来たかったらいつでも声掛けてくださいね」
と言った。
邦恵はこれまで、引きこもりがダメなことと考え、息子につい厳しいことを言ってしまうこともあった。しかし、ひまわりで話を聞き、息子に対する接し方が変わった。すると、少しずつではあるが息子との会話が以前よりも増えてきた。
「涼、お母さんね、最近ひまわりっていうNPO法人に行ってるの」
「ひまわり? NPO法人って、どんな所?」
邦恵の息子、涼が質問する。
「引きこもりの子とかニートの子とかが、自由に出入りできる居場所スペースっていうことをやっててね、情報交換や意見交換会とかもあるの」
「そんなところがあるんだ……」
「よかったら、今度涼も行ってみない?」
邦恵が、少し勇気を出して涼にひまわりに行くことを勧めてみた。
「う〜ん……そうだなぁ。そんな場所があるなら、行ってみようかな。同じような状態の人達とも話してみたいし」
涼もひまわりに興味を持ち、今度の土曜日に邦恵と共に行くことになった。
土曜日、邦恵と涼はひまわりにいた。
「あ、おはようございます」
さくらもひまわりに到着した。
実は、邦恵は元引きこもり当事者であるさくらにも涼を会わせたいと思い、ジャングルジムでの仕事のときに、今度の土曜日に一緒にひまわりに行ってくれないかと頼んでいたのだった。
この日は特にイベントはなく、邦恵は山下理事長と話をして、さくらは涼に居場所スペースの説明をした。
「この居場所スペースは、ひまわりの開設時間内ならいつでも来て自由に過ごしていい場所なんですよ。引きこもり、ニート、不登校の人達が情報交換や世間話をしたり、そこの棚にボードゲームやカードゲームもあるのでゲームをやったりして過ごしてます。曜日によってボランティア活動をすることもあるんですけど、その活動に参加するかしないかは自由ですよ」
「涼、さくらちゃん、私は理事長さんとの話も終わったから、今日は帰るわね」
邦恵が帰り、居場所スペースにはさくら、涼と、もう1人の利用者の男性の3人だけになった。
「あ、涼さん。この方はひまわりの利用者のひろさんです」
「はじめまして。ひろっていいます。25歳で、ひまわりに来始めて1年ぐらい経ちます。働いてた会社がどうしても自分に合わなくて、それからひまわりに来るようになりました。今はニートで色々と悩み中で、ちょくちょくここに来てます」
ひろは黒髪で少し髭が生えた痩せ型の顔色が悪い感じの男性だった。
「僕は松本涼といいます。24歳です。大学4年のときに、就活に失敗したといいますか……なかなか内定がもらえず、大学卒業後も就職が決まらないまま自信をなくして段々家から出られない状態になってしまったんです。周りの友人達は就職して働いてるし、自分は何をしてるんだろうと思って、気付けば引きこもりになっていました」
「ここはそういう人ばかりだから、安心してここに来て自由に過ごしていいよ。同じような悩みを抱えた人達と話して、仲間になっていったりするし、そのうちに段々と引きこもりから働ける状態になったりもできるしね」
ひろがそう話し、さくらとひろと涼の3人でゆったり話しながら過ごした。
ジャングルジムで、休憩時間に邦恵とさくらが話していた。
「さくらちゃん、ありがとうね。いい場所を教えてもらって、涼とも仲良くしてくれて。あの子、最近は引きこもりから脱却して外に出られるようになって、明るくなってきたみたい。ひまわりの人達にも仲良くしてもらってるみたいで、すごくありがたいわ」
「いえ、涼さんもすっかりひまわりに溶け込んで、最近は積極的に発言するようにもなって、よかったです」
あれから1ヶ月ほどが経ち、涼は週に数回ひまわりに行き居場所スペースで過ごしたりボランティア活動に参加したりするようになった。さくらをはじめひまわりの利用者とも友達になった。
「邦恵さん、勉強を教えるのって得意ですか?」
「え、勉強を教える?? 私は頭も良くないし、全然人に教えるなんて無理。得意どころか、すごく苦手」
邦恵は手を振り無理無理と笑った。
「そうなんですね……。ひまわりは、不登校の学生に勉強を教える学習支援もやってるんですよ。最近その学習支援で勉強を教えていたスタッフが2人辞めて、人手不足なんです。もし、邦恵さんが勉強を教えるのが得意だったら、土曜日だけでもスタッフとして来てくれたらいいのになって山下理事長とも話してたんです……」
さくらが残念そうに言う。
「そういうことだったの……。でも私は教えることは絶対できないわ。人に伝えるのも難しいし、私自身勉強が苦手だったからね」
そう言うと、邦恵は何か閃いたように「あっ!」と手を打った。
「どうしたんですか?」
「相川さんが、確かこの辺では1番優秀な大学を卒業してたはずよ。前にそんな話をしてたことがあったわ」
「相川さんですか」
「相川さんに聞いてみたらどうかしら」
そして、その日の仕事が終わり、邦恵とさくらは相川に相談を持ち掛けた。
「相川さん、ちょっと相談があるんですけど、いいですか?」
「え? 相談? なんの話??」
相川はなんのことか分からず、首を傾げた。
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