第2話

 あれは確か、小学3年生だった頃。


 俺はこの年も中石と同じクラスだった。実は幼稚園の時から幼馴染みだったこともあり、この頃はお互いよく話したり、家も近いので一緒に帰ったり、放課後遊んだりしていた。


 その日俺たちのクラスは体育の時間にドッジボールをしていた。


 俺はすでにドッジボールの才能を開花させ、チームの即戦力となっていた。

 相手チームの人に次々ボールを当てていく。


 その時だった。


「きゃあっ」


 小さな悲鳴と同時に、中石が尻もちをついた。

 誰彼かまわず投げていた俺のボールが、中石の顔に命中してしまったのだ。

 背筋にぞわぞわっと冷たいものが走る。


 中石は座り込んだまま、手で顔を抑えて泣きじゃくっていた。数人の女子が中石を取り囲み、その他の児童は緊張した面持ちで見つめる。


 先生が中石に声を掛け、そのまま保健室へと連れて行った。ちょうど授業も終わりの時間だったので、俺たちは教室に戻るように指示された。


 どうしよう。大丈夫かな。謝らなきゃ……

 着替えをしながらそんなことを考えていると、クラスの男子が話し始めた。


「中石のやつ、また泣いてたな」

「あんな柔らかいボール、痛いわけない。大袈裟なんだよ」

「リョウガも気にすんなよー」


 気にするなと言われても、当事者である俺は気にしないなんてことはできなかった。


「うん……まあ後で謝っとく」

「えー謝るの?俺だったら絶対謝らないね。だってあいつ、いつもなんでもないことですぐ泣いて、人に謝罪させるんだぜ?あいつが泣き虫なだけで俺たちが悪者になるんだ。被害者はこっちだよ」

「そうそう。中石は泣き虫!」

「泣き虫中石ー!」


 そう言って男子数人が、えーんえーんと泣き真似を始めた。周りで見ているやつらはゲラゲラと笑っている。


 そんな様子を見ていると、なんだか自分が間違っているような気がしてきた。


 中石が泣き虫なだけ。


 思えば、今までも中石はすぐ泣いて、すぐ泣き止んでいた。別に大したことはないのだ。

 気にするだけ時間の無駄だ。


 そう納得した俺は、男子に混ざって共にヘラヘラ笑った。




「……っ。松木まつきっ……。松木!」


 突然、耳元で自分を呼ぶ声がした。


「っはい!!」


 反射的に立ち上がる。


「何ぼーっとしてるんだ。ちゃんと授業に集中しろ」

「はい……すみません」


 どうやら授業中に昔の出来事を回想してしまっていたらしい。

 どうせ思い出すんだったら、もっと楽しいことがよかったな……


 そんなことを考えながら、俺は教科書のページをめくった。



















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