アドレセンスドッジボール

あろはそら

第1話

「リョウガいけー!」

「いいぞいいぞ、もっとやれー!」


 さんさんと照りつける太陽はスポットライト。周りからは期待の大声援。

 昼休みのドッジボール。それは俺の独壇場。

 クラス一のスポーツマンである速水はやみも、俺を相手にすれば苦戦する。


 俺たちのクラス5年2組は、毎週水曜日の昼休みにクラスメイト全員でドッジボールをすることになっている。親交を深めるためだ。


 これは俺にとって最高の決定事項だった。

 体を動かすこと全般は好きなのだが、飛び抜けて得意なものがあるわけじゃない。

 しかし俺にとって、ドッジボールは唯一胸を張ることができるスポーツだからだ。


 今日もコートに残っているのは俺一人。相手コートには速水一人。チームの勝敗は俺にかかっていた。


 外野からのパスで受け取ったボールを、素早く速水へ投げる。

 俺からのボールをキャッチした速水もすぐさま投げる。

 両者一歩も譲らない激しい攻防に、外野は大盛り上がりだ。


 すると誰かの声が耳に入った。


「リョウガ、中石なかいしさんだ!中石さんを狙え!!」


 中石?

 よくよく見ると、相手チームのコートの端にぽつん、と中石が突っ立っていた。

 てっきり外野なのかと思ってしまっていた。


 つまり、現在俺のチームは2対1で負けてしまっている。


 校舎の時計を確認すると、昼休み終了まで1分を切っていた。

 まずい。このままでは負けてしまう。


 俺はひたすらボールをキャッチし、速水に向かってボールを投げ続けた。


 もう限界だ……

 そう思うと同時に昼休み終了、試合終了を告げるチャイムが校庭に鳴り響いた。


 俺たちのチームは負けてしまった。



 相手チームの勝利の歓声に背を向けながら、俺はボールを持って校舎へと向かう。


「リョウガ、惜しかったなードンマイ」


 味方チームから慰めの声がかかる。


「悪い、最後焦っちゃったわ。次は負けねーから」


 するとクラスのおちゃらけ男子が口を開いた。


「てかどうして中石狙わなかったんだよ。あいつなら当てられただろ?」

「……。俺は女子には当てない主義なんだよ」

「え?でも他の女子はバンバン当ててたよな?」


 こいつ、勉強できないくせにこういう所は頭回るんだよな……


「俺は速水を倒したかったんだよ。中石じゃ張り合いがないだろ」

「ふーん」


 そう言って納得したかと思うと、ニヤニヤと俺を見つめてきた。


「なんだよ、にやついて。気持ちわりーな」

「リョウガって、もしかして中石が好きなのか?」

「は?!」


 予想外の言葉に思わず大声をあげてしまった。


「な、なんでそうなるんだよ」

「ふっ、なに動揺しちゃってんの。めっちゃ顔赤くなってるし。まさか本当に好……」

「違うから」


 少し強めに言うと、これ以上触れてはならないと思ったのか、へいへーいといい加減な返事をして立ち去っていった。



 その後教室に戻ると、大勢の男子から「リョウガって中石が好きなのか?」「意外とおとなしい子が好みなんだな」とか質問攻めに遭った。


 あいつが言いふらしたんだろうな……。


 とりあえず適当にかわして、俺は席に着いた。























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