第239話 清蘭祭1日目 思い出を乗り越えて

…?


そんなナレーションから、その映画は始まった。


私はどうするんだろう?最初のナレーションでそんな事を思う。


お話の流れは良くある流れではある。

幼馴染の恋人…まぁ、アニメ、漫画、小説、ドラマ等で良くある流れ…。

そんな幼馴染とデートした時にお互いの想いを伝えあって恋人になった、蓮夜と彩音。


「高校生なのに凄く良い演技…それに、カメラワークも凄く上手…」


高校生が作った映画…これで?冗談は止めて欲しい…アマチュアでこんなレベルでやられたら、私達プロは仕事が無くなる…


「蓮夜〜っ!早くっ!早くっ!」

「ちょっ!待てってのっ!そんなに急がなくても水族館は逃げないって!」

「そうだけど!!!一緒に居る時間は減るでしょ!だから早くいこっ!」


二人のデート風景…良いなぁ…私もこんなデートしてみたい…


「分かったから、とりあえず荷物こっちによこせ、それと…ほら…////はぐれたら困るだろ?」

「え…?あっ!…うんっ////」

「えへへ///今日は楽しもうねっ!」

「勿論だ!手…離すなよ…?」

「うんっ!早くいこっ!」


かゆ…うま…じゃない!むずむずするぅ…恋人繋ぎで歩いてるし…良いなぁ…


「ちょっと砂糖吐きそう…」


私の隣で九羅華さんがそんな事を呟く…同じ気分です…


…………………………………………………………

そして蓮夜の回想が進む…デートの終わりに蓮夜の空気が変わる…それと同時にここから何かが変わるんだって分かった。


「遅いよ……。ずっと待ってたんだよ?蓮夜は私を好きじゃないのかな?とか私じゃ女の子として見てくれないのかな?とか悩んでた。

それに他の子に笑いかけるのも凄い嫌だった。

蓮夜が告白されてるのも見た事あるし、クラスメイトからも付き合ってないなら紹介してよって言われるしっ!」

「ごめん、俺ずっと彩音に甘えてた。彩音はずっと側に居てくれるって離れないって今回失うかもって思って俺以外に笑顔を向けるかもって思ったら「んっ。」…彩音?」

「私も好き…私も蓮夜を失いたくない、ずっと側に居たいっ!側に居てほしいっ!蓮夜が大好き、ずっとっ!ずーーーーーっと前から大好きっ!だから、私を彼女にしてくださいっ。」


ぐすっ、ずずっと私も九羅華さんも涙を流してた、幼馴染と言う関係から恋人になるって言うのはきっと、凄く大変なんだと思う、それでも蓮夜はこうやって勇気を出して彩音と恋人になった…そんな二人の関係が進んだ事がこんなに嬉しいって感じるなんて…それくらい、私も九羅華さんも映画の世界に引き込まれていた。


だから…だからこそ…この後のシーンが…本当に辛かった…


「彩音ぇぇぇぇぇ!何で?!どうして?!」

「うそ…嘘ですよね?!彩先輩!!!やだぁ!嫌ですっ!!こんなの駄目ですよーーーー!!!」

「ご…めん…ね?やく…そく…守れ…なさ…そう…」

「もう良いから!話すな!大丈夫だから!だからっ!」

「えへへ…れん…や…泣い…てくれ…るん…だ…」

「当たり前だろ!泣かない何て無理に決まってるだろう!!!もう!しゃべらなくて良いから!」

「や…だ…なぁ…せっか…く…おめかし…した…のに…なぁ…」

「買いに!一緒に買いに行きましょうよ!何処にだってお付き合いしますからぁ!だから!」


二人とももう助からないは多分分かってるんだろうね…だからこそ…


「えぐっ…やだ…やだぁ…やだよぉ…」、「こんなの…やだぁ…何で…?何でぇ…?」、「ぐすっ、えぐっ…大丈夫だよね…?やだよぉ…このままとか…」


もう会場のあっちこっちから嗚咽が聞こえてきてる。

確いう私も涙が止まらない、隣の九羅華さんも同じく。


「これは…辛いね…それに演技も凄くて余計に感情移入してしまう。」


九羅華さんが私にだけ聞こえるように零す。


「ごめ…ん…ねむく…つか…さ?一緒に…おかい…もの…いこ…う…ね?」

「はいっ!はぃっ!何時だって!何処にだって!一緒に!行きますから!」

「れ…ん…や…?…い…る…?」

「居るよ!ずっと一緒に!彩音とこれからもずっと!ずっと!」

「うれし…い…な…わた…し…のせ…い…で…めい…わ…く…」

「思ってない!彩音の事で迷惑な事なんて!今までもこれからも!絶対に無いから!ずっと!好きだから!彩音を愛してるから!いらない心配だから!」

「う…ん…わ…たし…も…あいし…て…」


蓮夜の顔に触れていた手がストンと地面に落ちた…それは…彩音の命が尽きたと言う証で…


「ぁぁあ…あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


蓮夜と司の慟哭が場内に響く…その声は心を引き裂くかの様な叫び…魂の慟哭…聞いてるだけで涙が止めどなく零れ落ちてしまう叫びだった…


「あ~…これは駄目だ…ほんとに無理ぃ…」


「そうね…ドラマとかでも同じようなシーンはあるけども…こんなになる事無いのに…」


そう、良くある話なのに、テレビで見てもこんな気持ちにはなった事は無いのに…


「私は!蓮夜くんが好き!彩音さんの事を知って、起こったことを知っても変わらない!私は彩音さんには成れないけど、蓮夜くんと一緒に歩いて行く事は出来るから!だからっ!」

「これからは、私が側に居る。絶対に一人にしないから!一緒に歩いて行こう?ずっと一緒にっ!蓮夜くん!貴方が大好きです!」


「とても、とても強い女の子だよね…有希那ちゃん…」


「えぇ…とても、とても強い子ね…私も出来るかな…?同じように答えられるかな…?」


「ちょっと自信無いかな…気持ちは変わらないと思うけど…同じように側に居る事出来るかは分からないな…」


最後まで見て本当に思う…このシナリオを書いた悠馬くん、そして映画へと完成させた演劇部と映画研究会、蓮夜を演じた…出演者の中にあった名前…陸くん。


「凄いね…私、畏敬の念を覚えたよ…」


「分かるわ。この作品に関わった人達…本当に凄いわ…」


…?


最初のナレーションの後にもう一言、付け加えられた…それを聞いて思った。

彩音が居た公園は、蓮夜が想いを仕舞い込んだ場所なんだろうきっと…だから、彩音もあそこに居続けた…彩音も消えたくなくて…あの場所にずっと居ながら見守っていたんだろう…そして、有希那と改めて歩くと決めたから、彩音もあの公園から出る決意をした…それくらい、あの二人は強い想いで繋がっていた……

最後まで見た私と九羅華さんは本当に、この映画に関わった人達に対して心からの敬意を持った。


「凄かったね…これが高校生が作ったなんてね…」


「本当に…あの子達、スカウト出来ないかしら…?」


スカウトって…いやでも、気持ちは分かる、それくらい凄かった。


「やばかったね…高校生が作った映画…」、「YouMa様のシナリオってだけで興味持って見たんだけど…」、「それをこれだけの形にして、こんなに泣かされるなんて…ね。」、「うぅぅ…泣きすぎてやばい…」と、見ていた人達の感想も似たり寄ったりだったけど…私もメイク落ちまくっててちょっとこのまま外に出たくない…


「取り合えず…化粧直ししましょうね?お互いに不味い事になってるし…」


二人揃ってトイレに駆け込むけど、考えてる事は皆、同じで凄い混んでいた…


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「ふぅ…何とか落ち着いた…」


トイレから出て来た私は少し離れた場所で九羅華さんを待つ。


「はぁぁ…見た人は感動したって本気でボロボロ泣いたって言ってくれてたけど…確かに、泣いた後とかあったり泣いてる人とかも居たけど…ちょっと自信無いなぁ~…」


あれ…?あの子って…蓮夜を演じた陸くんだよね?何か悩んでる?


「えっと、陸くんだよね?蓮夜を演じた。」


「は、はいっ!映画を見てくれたんですね!ありがとうございます!!………って?!?!?!」


あっ、私の事に気付いたかな?てか知っててくれてるっぽい?


「あの…詩音さんですよね…?」


「うんっ!そうだよっ!初めましてっ。映画凄かったです!本気で感動しました!」


「ぇっ///そのっ///あ、ありがとうございます…///でも…」


「どうしたの?何か気になる事あるの?」


「えっと…その…何て言うか…」


「詩音!ここに居たのねっ。あれ?この子って陸くん?」


「そうそう!今さっき歩いてるの見かけて声かけたの。でも、何か悩んでるみたいでね…」


「初めまして、詩音のマネージャーの星谷九羅華と言います。蓮夜くんの演技凄かったですよ…本当に本気で泣きましたからっ。」


「ありがとうございます…実はですね…本当にあれで良かったのか?と疑問が尽きなくて…悠馬先輩には陸が思う蓮夜を演じれば良いと言われまして、それであの形になったんですけど…本当に良かったのかな?って思いまして。見に来る人はYouMaのシナリオだから主人公はYouMaを投影してるんじゃ無いかと思ってしまって、それで…」


成る程ね…確かに興味を持って見に来る人は最初は悠馬くんを投影した蓮夜を見に来てるんだろうけど…見てる内にそれは変わる。


「確かにその点はあるでしょうね。」


「ですよね…やっぱり間違えたかな…悠馬先輩を演じるべきだったかな…でもなぁ…悠馬先輩を演じるとか無理だし恐れ多いし…」


「ふふっ。」


「むっ…笑う事無いじゃないですか…酷くないです?」


「ごめんねっ。別に馬鹿にした訳じゃ無いよ。陸くんの考えがもうプロだなって思って。」


「どう言う事ですか?」


「悠馬くんに言われたんでしょ?陸くんの思う蓮夜を演じろってさ。」


私の言葉に陸くんは少し不満そうな顔をしながらも頷いてる。


「あのね、私達から見ても凄く良い演技だった。だって、物凄く世界に引き込まれたし、物凄く悲しくて本気で涙を零した…そして何より、とても感動した。」


「そうですね…向上心があるのはとても良い事ですが、あの映画を見て沢山の人が悲しみ、感動し、涙を零したのは事実です。」


「確かに最初はYouMaのシナリオだからと言う理由で見に来たんでしょうけど、最終的には陸くんを始めとした演劇部と映画研究会の作り上げた作品で感動したのが…だよっ。だから…もっと自信持って大丈夫!芸能人の私が保証するよ!」


「沢山の俳優や女優を見て来た私も保証します。とても素敵な演技あり、とても素敵な作品でしたっ。」


「まぁ…まだまだ若手の私が言っても信用無いかもだけど…」


なはは…と少し恥ずかしくなりながら、頬を書いてちょっと誤魔化す。

上から目線でものを言ったけど…私もまだまだだからなぁ~……


「ぁ…ありがとうございます!そう言う世界で生きてる二人にそこまで言って貰えて、自信付きましたっ。お二人の言葉…とても響きました。本当にありがとうございました。」


そう言って陸くんは私達に向かって頭を下げて来た。

何て言うか…悠馬くんの後輩だからなのかな?礼儀もしっかりしてるし、ちゃんと会話も出来るし…世の中の男性が皆こうならどれだけ幸せななんだか……


「ところで、話は変わってしまいますが、もし宜しければこちらにご連絡ください。」


九羅華さんが陸くんに名刺を渡す…本気でスカウトするつもりなの…?


「あ、あの…これは…?事務所の番号とか色々書いてあるんですけど…」


「興味がありましたらご連絡ください。将来の進路の選択肢の一つで構いませんから。必ず連絡しろと言う事でも無いですし、もしもこちらに興味がありましたらで構いませんので。」


「え?えぇ?!えっと…その…ありがとうございます…?」


いえいえ…それほど、あの映画の貴方に興味を持ったと言う事です…と、話を締めくくって私達は陸くんに挨拶して、離れる。

ふと後ろを見ると、いまだに呆然としながら私達を見送る陸くんの姿があって……ちょっと面白くて、笑いを堪えるのが大変だった。


その後、私と九羅華さんはあっちこっちを見て回って、愛央ちゃん達の所、清華ちゃんの所と達に挨拶をして回った後、1日目を精一杯楽しむのだった。


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