第236話 頑張る陸

あの日から毎日、お昼と放課後に練習をしている。

お昼は、一人でだったり作者の悠馬先輩からこうした方が良いとかのアドバイスを受けながら、練習してる。

放課後は部室にお邪魔して通しての練習なんかを繰り返して居た。

そして・・・。


「それじゃ、今日からクランクインですー!」


「よろしくお願いします!!」


「陸くんは主人公を演じるけど、無理はしない様に!やって貰えるだけでもこちらは助かってますからね!」


「は、はい!確りとやり切らせてもらいます!先輩の顔に泥を塗るわけには行かないので頑張ります!」


「俺達も協力はするから頑張ろうぜ!」


「こちらこそ!よろしく!」


もうそこからは怒涛の流れ。カットは沢山入るわ、セリフ間違いだったり演技が駄目だったりで、本当に大変だった。


「カット!カット!そんなんじゃ蓮夜の絶望も悲しみも怒りも憎しみも分からないよ!!」


「すいません!!もう一回お願いします!」


「勿論!それじゃー・・・行くよ!」


「彩音ぇぇぇぇぇ!何で?!どうして?!」


過去を仲間達に話すシーン・・・幼馴染との死に別れるシーン・・・。

何度も何度も、やり直しになる。何度やっても、上手く行かなくて・・・。


「カット!・・・そんなんじゃ伝わらないよ!!!」


「すいません!もう一度お願いします!」


ちきしょう・・・全然こんなんじゃ・・・!


「ん~・・・今日はここまでかな。これ以上は流石に意味ないと思う。先に他の人のシーンの撮影しましょう。陸くんは一旦、休憩してね。」


「は、はい・・・すいません・・・。」


情けない・・・本当に情けない!悠馬先輩のシナリオなのに上手く出来ないなんて!


「はいっ!陸くん。あんまり落ち込まないで。」


双海先輩が飲み物を俺に渡しながら隣に座る。


「双海先輩・・・ありがとうございます。それと、すいません。」


「んーん。一番難しいシーンだし仕方ないよ!ここさえ乗り越えてしまえば大丈夫なんだからさ!あんまり落ち込まないでっ。」


そう言われても・・・俺だって悠馬組と稲穂組の一員なんだ・・・だから・・・。


「そんなにうまく行かないのに気になるの?」


「はい・・・だって、自分からやりたいって言ってやらせて貰ってるのに、こんなに・・・。」


「うん。でもさ、頑張ってるじゃんっ。陸くんの事、凄いと思うよ本当に!経験無いのに頑張ってくれてるもん。」


「それは、でも・・・今年の一年てか男子は俺と条件は変わらないですし。自惚れていた訳では無いですけど、自分が情けないです・・・。」


「あのね?確かに皆が皆、気合いが入っていて半端な演技ではオッケーは出ないよ?でもさ、私達はプロでは無いんだよ?」


「それは・・・わかっていますけど、手は抜きたく無いんです。悠馬先輩のシナリオってのは勿論ですけど、それ以上に見た人に感情移入もして欲しいし、悲しみで泣いて欲しいし、感動で泣いて欲しいんです。」


「そっか。ふふっ。何か嬉しいなぁ〜・・・そんなに真剣にやってもらって。」


「いや、それは、だって・・・。うん。俺だって悠馬組と、稲穂組何です。そんな俺が悠馬先輩の作品で手抜きなんて出来ません!」


「全く・・・気負いすぎだぞ?陸。」


「え?!悠馬先輩??」


声がした方を向くと悠馬先輩が立って居て、俺と双海先輩の方に歩いてくる。


「ほら、差し入れ。双海先輩、皆にも配ってください。」


そう言って、双海先輩に飲み物が入った袋を渡す。


「ありがとー!配ってくるね。」


「頼んます。でだ・・・上手く行かないのか?」


「はい・・・蓮夜と彩音の別れのシーンがどうしても・・・。経験も無いし。」


「そりゃそうだっ。こんなの俺だって経験無いっての!それでも、想像する事は出来るだろう?例えば・・・家族が目の前で殺されるのを想像するとか、好きな人が・・・って想像するとか方法は色々あると思うぞ?」


想像する・・・でも、こんな想像なんて・・・。


「と言っても、難しいのは難しいよな。」


そう言って悠馬先輩は遠い目をしながら、他の皆を見ている。

なんて言うか、その目は・・・失くしたものを見ているような?


「おしっ!少し見てろ。」


そう言って、俺から少し離れた悠馬先輩は一度、深呼吸をしたと思ったら・・・纏う空気が変わった。それを見た俺は間違いなくある光景を幻視する。

それは・・・紛れもなく別れのシーン、先輩の腕の中には見た事も無いはずなのに、一人の女の子が居て、その女の子を抱きしめながら慟哭を上げる蓮夜の姿が、そこにはあった。


「っと、まぁ〜こんな感じだけど・・・ってどうした?えっ?!何で陸だけじゃ無く皆も泣いてるの?!?!」


「あ、あれ・・・?あれ?」


気付けば俺は泣いていて・・・それは俺だけじゃなく他の部員、出演者も双海先輩も宮島先輩も同じだった。


「いやだって!先輩の演技が真に迫っててそれで・・・本当に彩音を抱きしめてる蓮夜にしか見えなくて、それで・・・。」


「なはは・・・。ありがと。こんな感じでやってみたけど少しは参考になったかな?」


ゴシゴシと、涙を拭いた俺は先輩に詰め寄って何を考えたのか?何を思いながら演技をしたのかを確りと聞いた。


「菜月さんやお母さん、星川先輩達が・・・って事を・・・。」


「本当は考えたく無かったし考えたく無いけど、このシーンは、愛する人を目の前で失うシーンだから、どうしてもな。どうだ?少しは参考になったか?」


「あ、え?はい?・・・うん、何となくは掴めたかもしれません。」


「そうか、なら頑張れ!俺の顔に泥塗るとか手抜き出来ないとかいらない事、考えるな。頭空っぽにして、やりたい様にやってみろ。陸の思う蓮夜を演じれば良い。」


そう言って、先輩は俺達から離れて行った。

俺はその背中を見ながら俺の思う蓮夜・・・と、言われた事を考えていた。


「すいません!もう一度!もう一度お願いします!!」


何かを掴めそうで、演じられそうだと感じた俺は、全員に向かって頭を下げながらお願いする。


「分かった、憧れの先輩の力は凄いなぁ〜。やれやれっ!」


みんなー!撮り直すよ!と、双海先輩の声で別れのシーンから撮影は再開。今度こそやり切ってやる!

を演じてやる!


…………………………………………………………

「カットーーー!!お疲れ様でした!これにてクランクアップです!!!」


「「「「お疲れ様でしたぁぁぁ!!!」」」」


「「「「終わったぁぁぁぁ!!!」」」」


遂に完成した俺達の作品。

俺は皆から少し離れて感傷に浸っていた。

何度も何度も撮り直した、何度も何度も討論してより良くなる様に話し合った。

何度も何度も挫折しかけて、その度に皆で励まし合って作り上げた。

そんな、思いで一人で思いに耽ってた俺に、トトトっと、軽快な足音を響かせながら双海先輩が走り寄ってきて・・・。


「陸くーーん!!」


「おわぁっ?!ちょっといきなり飛びつかないでくださいよ!!」


俺の近くに来た先輩はその勢いのまま俺に飛び付いて来たのを何とか抱きとめる。


「ありがとう!本当にありがとう!!陸くんが居なかったら完成させられなかったよ〜!うぅ・・・ぐすっ・・・。」


「ちょっ?!ちょっと?!泣かないでくださいって!!」


「だってっ!だってぇ〜!うわぁぁぁぁんっ。」


俺の胸の中で完成を喜ぶ双海先輩が声を上げて泣き始める。

多分だけど、他の人よりも責任を感じていたのかもしれない・・・合同で映研と作る事になって、映研を部に上げる為に、悠馬先輩にまで力を借りて、それで失敗、完成させられなかった何て事になったら・・・って、重い責任に苛まれて居たのかも知れない。

でも、この人は・・・そんな事をおくびにも出さないで、いつも笑顔で、失敗しても次に頑張れば良いと、回りを励まして・・・。

うん、凄い人だと、心から思う。だから・・・だから俺は、「ごめんなさい。」先に一言謝ってから先輩を優しく抱きしめた。


「ふぇ・・・/// 」


「本当にお疲れ様でした。先輩のお陰で俺は凄く楽しかったです。募集で参加したとは言え未経験の俺を受け入れてくれて嬉しかったです。沢山失敗したのに、最後まで励ましてくれたお陰で、やり切る事が出来ました。」


俺の言葉を先輩は静かに俺の胸の中で聞いてくれている。


「俺には分からないところで沢山の悩みや葛藤、焦りもあったんだと思います。でも、いつも笑顔で支えてくれて、本当に感謝しています。双海先輩、ありがとうございましたっ。」


「ぁ・・・うんっ///」


涙は流れてるけど俺を見上げたその顔はとても綺麗な笑顔で、俺は見惚れてしまってお互いに見詰め合う事になる。

そんな時間が少し過ぎると、先輩が背伸びをしながらゆっくりと目を閉じて・・・「うおっほんっ!!げふんっ!げふんっ!」と、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえてきて・・・俺達はナニをして居たのかを理解して直ぐに離れた。


「あのさぁ〜・・・良い雰囲気なところで申し訳ないんだけどさぁ〜・・・時と場所を考えて、更に言えばいつの間にあんたらそんな関係になってんの?」


お互いに顔を真っ赤にしながら直ぐに反論。


「ち、違います!別に付き合ってるとかそういうんじゃ無くてですね!?」


「そ、そそ、そそそうだよ?!めいが勘ぐってる様な関係では無いよ?!そりゃ・・・真剣に頑張る姿は可愛いなって思ったし、どんなに失敗しても諦めないのは格好いいと思ったけど・・・。」


「えぇ?!そうなんですか?!///」


「って?!私は何を?!///」


「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・取り合えずあんたらのせいで皆が気まずいから、いちゃつくなとは言わないけど見えないところでやってくれ・・・。あぁそれと、二人ともお似合いよっ。」


「ちょ?!めい?!だから、そんなんじゃ!!!」


「自然にキスしようとしてて何言ってんだかねぇ~・・・はいはい、あんた等も行くよー。この二人には付き合ってらんないし!完成のお祝いは学祭終わってからって事でお疲れ様でしたー!」


宮島先輩の声で皆がサッサと片付けて俺と双海先輩を置いて離れていく・・・。そのスピードは物凄く早くてこっちが何かを言う時間すら無かった・・・。


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その後、残っていても仕方ないと言う事で俺と双海先輩も一緒に帰宅しているけど、さっきの事があって何と言うか気まずい訳では無いけど何か気恥ずかしい・・・。


「えっと・・・さっきはごめんね?なんか流されたって言うかっ///」


「いえっ///その、嫌じゃ無かったので・・・///」


「っ///そ、それなら良かった?///」


んんんんっ///俺は何を言ってるんだ?!ついつい綺麗な顔を近づいて来てくっつきそうな唇に目を奪われてた事を思い出して・・・赤面した。


「あの、先輩・・・もし良ければ何ですけど学園祭、一緒に回って貰えませんか?」


「えぇ?!わ、私とっ?!」


「って、駄目ですよね・・・。すいません・・・。忘れてください・・・。」


「だ、駄目じゃないっ!てか・・・良いの?」


「は、はい!よろしくお願いしますっ!」


「こちらこそぉ?!よろしくお願いしますぅ?!」


「ぷっ。何で疑問形なんですかっ。」


あはははっと俺は笑いながら、先輩とゆっくりと歩く、少し照れ臭くなりながらも当日に何処を一緒に回ろうかと、沢山の事を話して俺達は時間を惜しむようにゆっくりと歩き続けたのだった。


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