第227話 大切な場所で・・・
SIDE 健司
「二人共おめでとうっ!!」
「想いが届いて良かったねっ!里香っ!」
「ありがとうっ!本当に嬉しくてっ。幸せだよぉ。」
花火が終わり、余韻に浸っていた俺達は、花火の途中に告白して正式な恋人同士になった二人を祝福した。
深山威さんは東原さんに抱きついて泣いていてそんな深山威さんを1年の女子達が囲んで祝福したり涙を拭いていたりしてるのを、俺は複雑な顔で見てた。
「稲穂、その・・・ありがとう。」
「何が?俺は何もしてないよ?」
「そんな事無いよ。俺の事も里香の事も受け入れてくれて仲間にいれてくれたろ。俺達がどれだけ感謝してると思ってんだ。だから、ありがとうだ。」
違うよ・・・それは二人が頑張ったからであって、悠馬さんが認めていたから、深山威さんが東原さんを頼ったから、そうなっただけで俺は何もしてない。
「やっぱり俺は何もしてないよ。向井くんが悠馬さんとぶつかって戦ったから、深山威さんが東原さんを頼って、東原さんが受け入れたからってだけだよ。だから俺はお礼を言われる事なんて何も・・・。」
グッと拳を握りしめる。俺は自分の情けなさ、不甲斐なさに怒りが込み上げてくる。
向井くんは、答えを、自分の気持ちを見付けて、勢いもあったかもだけど、直ぐに告白した。
それなのに、俺は悠馬さんに背中を押されるまで、告白すらしようとしなかった。
今だって先を越された事が少し気になってしまって居るし、情けない!!って本当に自分が嫌になる!!
「稲穂・・・分かった。でも感謝はしてる事を忘れないでくれ。それと稲穂なら絶対に大丈夫だよ。」
男子達が俺の回りに固まって「次は健司だな!」、「お前なら大丈夫!」、「応援してるからな!」って、言ってくれている。
「うん。今日は駄目かも知れないけど、必ず伝えるよ。俺だって何時までも情けないままは嫌だ。」
そうだよ。向井くんが羨ましいなら俺も追いつけば良い。
駄目で元々なんだから、怖がっていたら何も始まらない、変わらない。
悠馬さんだって、星川先輩に告白した時は怖かったって言ってたじゃ無いか。
駄目だったら今までの関係も壊れるかもだけどそれならそれで仕方ないし、他の誰かに取られるかも知れない方が嫌だと。
だから、俺は愛央に告白したって、あんな放送までしたんだってそう言ってたんじゃないか。
俺の目標は悠馬さんだ!だからこそ何時だって背中を追いかけてるんだ!
だけど!だけど!出会いも!今までも!今日も!悠馬さんの世話になってるままじゃいつまで経っても追いつけない!
せめて自分の好きな人位は自分の力と努力で手にしないと駄目だと思うから!
「健司、それと皆もだけど花火も終わって遅くなってしまったけど、後少しだけ付き合ってもらえないかな?」
俺がそんな事を考えて居ると、悠馬さんが俺達に向かってそんな事を言ってきた。
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健司のやつ・・・何を気にしてるんだかね。
「あの、悠馬さん。」
「どうした?志保。」
「もし悠馬さんが宜しければなんですが・・・あの場所に行きませんか?」
志保の言うあの場所か・・・、それはつまり・・・。
「俺は良いけど、志保こそ良いのか?」
「はい。今の稲穂さんには必要な場所だと思いましたので。」
「ん~・・・?志保さんの言うあの場所・・・?あぁ!もしかしてあそこ?!」
愛央の言葉に志保は一度頷く。
「愛央は知ってるの?」
「多分ですけどね?志保さんが言っていて頷いたのであの場所に思いつくのは一箇所だけかな。」
「そっかぁー。私だけ知らないのは何かなぁ~・・・だけど今日行けるなら良いかっ。」
「と言ってもあいつら次第だけどな?まぁ、声はかけてみるよ。もう少し様子見てからね。」
「そうですね。今、声をかけるのは無粋でしょう。」
「ありがとうな志保。あそこは俺達の中でも志保には一番大切な場所だろう?」
「はい、そうですね。ですが・・・今の稲穂さんにはあの場所は必要かと・・・。」
うん、それは確かにな。健司の背中をあと一つ押す為にも、何を考えてるのか、何を思っているのかは分からないが・・・志保にとって大切な場所であるあの場所、そして・・・俺が志保に過去を聞いた場所でもあり、志保の気持ちを受け入れた場所でもある・・・あの高台。
志保があの高台に健司を皆を連れて行きたいと言うのなら・・・俺には否は無い。
「それじゃ・・・あいつらの様子見て提案だな。」
俺達は1年組の様子をゆっくりと眺めながらタイミングを見計らってた。
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SIDE 健司
「健司、それと皆もだけど花火も終わって遅くなってしまったけど、後少しだけ付き合ってもらえないかな?」
俺達に近寄って来た悠馬さんはいきなりそんな事を言ってきた。
「実は、私のお願いなのですが皆さんをお連れしたい場所があるのです。」
「天音先輩のですか?」
「そうです。折角、友人たちが集まっているのですからこの機会を逃すのもと思いまして・・・。」
「って事でな?どうだろ?」
俺達は悠馬さんと天音先輩の言葉に後に顔を見合わせる。
「私達は良いですけど・・・ねぇ?」
立花さんの言葉に門倉さんも小河原さんも頷いてる。
「私も大丈夫です。それに興味もありますしっ。」
深山威さんも大丈夫らしい。
「えっと・・・うんっ。大丈夫です。」
東原さんも良いみたい・・・って事は後は俺達、男子次第か・・・。
男子組と顔を見合わせると皆が頷いていて・・・。
「健司に任せるよ。俺達は全然付き合うしね。」
「う、うん・・・。分かった。そう言う事なら俺も大丈夫です。」
「よし!それじゃ決まりだな。直ぐに行こう!」
悠馬さんは言葉の後に直ぐに移動を開始して俺達はその後に着いて行く。
「ここからだと・・・30分くらい歩く事になるか・・・。かといって車を出して貰うのもな・・・。護衛さん達に手間をかける事になるけどもう少しだけお付き合いください。お願いします。」
そう言って俺達を連れて歩いていくと・・・この街を一望できるんじゃないか?と言うくらいの高台の上に辿り着いた。
「す、すごい・・・。街が一望できる・・・。」
「確かに凄い!こんな所あったんだ・・・。」
東原さんも深山威さんも高台からの景色に圧倒されてる。
でもそれは二人だけじゃ無くて・・・。
「・・・っ。」
俺達、男子も同じで、声も出なかった。
「凄い!この街ってこんなに大きかったんだ!」
「ここは志保さんにとってとても大切な場所なんだよ。」
「はい。昔と言っても数年前ですけど、この街に来て誰も信じられずに居た私は、放課後は良くここに来ていました。」
景色に圧倒されていた俺達に天音先輩がゆっくりと話しかけてくる。
「私はそんな志保さんを見ていられなくて嫌がられても声をかけて、追いかけてここまで来てたんだ。」
「今だから言いますけど、最初は愛央さんの事は嫌いでした。ズケズケと歩み寄ってきて迷惑だと言っているのに、追いかけてきて。」
「沢山、冷たい目で見られたな〜。怒られもしたしっ。」
「でしたね。そんな私を避ける事も無く、話し掛けてきてくれて、そんな愛央さんに私は理由を話したんです。」
「そんな状態なのに、今は同じ人の恋人で親友をしているんですか?」
「不思議ですよね?私の理由を聞いた愛央さんは、泣いてくださったんです。私はそれが不思議で何故、貴女が泣くのか?と聞きました。そんな愛央さんは私にこう言いました。」
星川先輩はその時の事を思い出してるのか頬を掻きながら恥ずかしそうにしている。
「だって、志保さんが泣いて無いから、泣くのを我慢してるから、それなら私が志保さんの為に泣くよ。・・・と、言ってくださいました。それを聞いた私の目からは止めどなく涙が溢れて、自分は寂しかったのだと、真摯に接してくださる方を信じる事が出来ない自分の愚かさ、醜さ、勇気の無さに本当に嫌気がさしました。」
「あの後、二人してここで大泣きしたよね!もうほんとっ!人目なんて関係ないって感じでっ!」
星川先輩が楽しそうにそんな事を言ってる。多分・・・照れ隠しかな?
「ふふっ。そうでしたね・・・。小さな子供の様に二人で抱き合いながら大泣きしましたものねっ。」
「懐かしいねぇ~・・・。」なんて言いながら先輩達は話している。
それを悠馬さんと伊集院先輩も優しい顔で見ている・・・この4人の関係性は本当に・・・。
「そして・・・私はあの一件の後、悠馬さんとここに来たのです。」
「ぁ・・・。」
ここからが本題だって俺は感じた・・・。
「この場所で私は悠馬さんに過去の事を話しました。そして・・・。」
「志保に告白されて気持ちを受け入れた場所でもある。」
「ここで、二人が・・・。」
そんな大切な場所に俺達を連れて来てくれた・・・?
「ここは、俺と志保の始まりの場所でもあり、志保と愛央の始まりの場所でもある。だから俺達にとってはとても大切な場所なんだ。」
「そして、この場所に皆さんを連れて来たのは・・・私たちの仲間だと、掛け替えのない友人だと思って居るからです。」
二人の言葉に1年組は何も反応が出来なかった・・・。
でもそれは・・・嫌だからとかでは無く、憧れの先輩達に認められていると言う喜び、友人だと、仲間だと思って貰えている感動に俺達は打ち震えていた・・・。
「嬉しいですっ。悠馬先輩、愛央先輩、天音先輩、伊集院先輩。本当にありがとうございます。」
東原さんが俺達を代表する様に先輩達にお礼を言う。
それは俺が言わないといけない言葉・・・俺はずっと!知り合ってからずっと!!頼りっぱなしで今だって・・・こんな事までしてくれてるのに!!それなのに!!!
東原さんは高台からの景色を堪能している・・・。
ここで、悠馬さんと天音先輩は恋人になった、そんな場所を紹介してくれて、「お膳立てはしましたよっ。後は貴方次第です。」と俺を見つめる天音先輩の目は言葉にしなくても伝わるように見つめて来てる!
ここまでして貰えて何もしなければ、俺は多分、告白なんて出来ないと思うから・・・!だから・・・!だから・・・!!!
「東原さん・・・いや、優理さんっ!!!!」
「は、はいっ?!」
いきなり名前で呼んだ俺を驚いた目で見詰めてくる彼女に・・・俺は!自分の気持ちを!!皆に見られて居ても聞かれて居ても!伝えるんだっ!!!憧れの先輩達の大切な場所で!!!
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