第217話 繋いだ手は離さない!
SIDE 2-A教室前
「逆月君!一年生と殴り合いをしてると報告がありましたが?!」
「はて?殴り合いって何の事です?」
「あのねぇ?その怪我は?」
「あぁ、これすか!これはちょっと勢い余っただけですよ。その証拠に他は何とも無いでしょう?」
「そんな言い訳が通用するとでも?」
「思ってませんよ?だって唯のじゃれ合いですもん。男子なんてそんなもんですって!勢い付いてお互いに怪我する事もありますよー!女子から見たら喧嘩に見えるでしょうけどっ!」
思いっきりすっとぼける!唯のじゃれ合いにしないと向井がヤバい事になる。
折角、答えを得て頑張ろうとしてるんだからこれで停学なんて事になったら、深山威が泣く。
だから、唯のじゃれ合いで片付けないといけない。
俺は教師を真っ直ぐに見つめる、教師も俺を見詰めてくる。
「はぁ・・・。分かりました。後で向井くんにも話は聞きますが、今は逆月君の言う通りだと思っておきます。」
「ありがとうございます。お騒がせしました!皆もごめんな!この通り!」
皆に向けてちゃんと頭を下げて謝って・・・愛央達を見ると、いつの間にか菜月も健司達も来ていた。
「あれ?菜月も健司達もどうした?」
ドンっと菜月が思いっきり抱き着いてくるのをしっかりと受け止めて・・・。
「どうした?」
「ごめんなさい・・・。私の・・・私のせいで・・・こんな・・・。」
まーったく、責任感じすぎだっての。菜月は何処にも悪いところ無いだろうに。
「はいはい、菜月は何も悪くない、悪くないよ。こうなったのは偶々さ。」
ポンポンっと背中を軽くたたきながら慰めて居ると志保が居ない事に気付く。
「あれ?健司達は騒ぎを聞いて来たってのは予想も付くが・・・志保は?」
「えっと・・・天音先輩は、やる事が出来たと言って何処かに・・・。」
「そうか・・・。それじゃー迎えに行くか。」
「迎えって悠馬は何処に行ったか分かってるの?て言うか!!!先に保健室!!!」
「そうだよ!怪我してるんだから!それとお説教!!!」
愛央と清華がそんな事を言ってくるが、その後ろで柚美ちゃん達もうんうんっと頷いてる。
「いや、先に志保だ。おそらくD組だろう。向井にもじゃれ合いだったって言わせないと駄目だしな。」
俺は菜月を剥がして歩き出す、そんな俺に対して愛央も清華も後ろから文句を言ってくるけど、取りあえずは無視だ!無視!さて・・・どうなったかな?
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SIDE 渚
喉が渇く。緊張が凄い。皆に注目されながら深山威に話さないといけない。
こんなに緊張するの何て初めてだ。
「深山威・・・。」
「向井くん・・・。その・・・大丈夫?腫れちゃってるけど・・・。それに先輩を殴ったって・・・。」
「あぁ、これか・・・。大丈夫・・・では無いや。さっきからズキズキする・・・。先輩の一発、キッツいわ〜・・・。俺のは全然ダメージ与えられなかったのに。」
「ごめんね・・・。私のせいだよね・・・。ごめんね・・・。」
ぽろぽろと涙が溢れてる深山威が謝ってくる。
先に言われた・・・情けなさ過ぎ・・・俺。
「俺が勝手に暴走しただけだから!それより!その・・・ごめんっ!!」
「え?何が・・・?」
俺の言葉にきょとんとした顔をして見てくるのを何か可愛いなと思いながら言葉を紡ぐ。
「俺のせいで大変な事になってるのに、助けられなくて、気にしながらも話し掛けられなかった事と、辛い目にあってるのに、手を差し伸べられなかった事・・・本当にごめんっ!!!」
俺は思い切り頭を下げて深山威に謝罪する。
「待って!向井くんは何も悪くないよ!私の状況は自業自得だし私が勝手に暴走した結果なだけだから!だから!!」
「いや、そもそもにして深山威があんな事しちゃったのも俺を・・・その・・・好きって・・・。」
「ぅ、ぅん///」
「だから!まだ間に合うなら許して貰えるなら俺に深山威の事を教えて欲しい!」
「え・・・。でもそれは・・・。ダメだよ・・・私と仲良くしたら向井くんまで・・・。」
深山威は下を向いて悔しそうに寂しそうな雰囲気になってる。
「向井くんの気持ちは嬉しいよ。でも、それに甘えたら向井くんまで、だから・・・だから・・・。私は向井くんを見ていられたらそれで良いから・・・っ。」
そんな事を深山威は言いながら涙を堪えて笑顔を向けてきた。
「そんなの関係ない!逆月先輩に言われたんだ。誰かを助けるなら誰かを助けない覚悟を持てって!俺は深山威を助けた事で皆からハブられるのを、怖がってた!それを見て見ぬ振りしてた・・・。言われて気付いてそれでも深山威を助けたい!って気持ちは変わらなかったんだ!だからっ!」
俺の言葉をボロボロと涙を溢しながら聞いてくれてる。
「こんな情けない俺を許してくれるなら俺に深山威の事を教えてくれ。まだ、自分の気持ちも良く分かって無いけど・・・それでも知りたいんだ!知ってほしいんだ!」
でも、だって、と決心が付かない深山威をどうしたら良いか、俺には分からなくて焦りだけが大きくなって・・・。
「良いではありませんか。」
「天音先輩・・・。」
声に振り向くと優しい顔で俺達を見ながら近づいてくる。
「男性が、貴女の想い人が貴女を知りたいと、自分を知って欲しいと言って居るのです。仮に孤立したとしても今度は一人では無いのです。」
「それは、そうですけど・・・。でも・・・。」
「深山威里香さん、貴女は嫌なのですか?一緒に居て欲しくは無いのですか?」
「そんな訳無いです!逆月先輩が逃げ道として辞める事を禁止してないのは分かってます。それでも私は辞めたく無かった!もう私の気持ちが届かないとしてもせめて在学中は恋をした人を見ていたかったから!!だから!」
「それなら、答えは出ているでは無いですか。」
「それは・・・そうですけど・・・「んじゃ決まりだな!」・・・えっ?!」
「改めてよろしく!先ずは友達からで良いかな?まだ、深山威の事分かってないし俺の事も知って欲しいから!だから、よろしくっ!」
天音先輩にまで背中を押されたんだ!ここは俺から行かないと情けないどころじゃ無いって思うから!
俺は、笑顔で深山威に手を差し出す。
後は、この手を取ってもらうだけっ!
「えっと・・・本当に?良いの?」
「おうっ!」
おずおずと、俺の手を握ってくれて深山威の温もりと女の子の手の柔らかさを感じながら少し照れくさくなって、ちょっと赤面。
でもさ、頼むから泣き止んでくれないかな?流石に目の前で泣いてる子の事をどうしたら良いのかは分かんないぞ?!
「ほれほれっ!抱きしめて慰めろ〜!頑張れ男の子っ!!」
「えぇ?!逆月先輩?!ちょっと、いきなり何を?!てか誂わないでくださいよ!!」
何時の間にか先輩達が来ていて一部始終を見られていたらしく、めっちゃ誂ってくる!!
「まぁ、思うところはあるけど、今は取りあえず!頑張れ!男の子!!」
「そうだねぇ~。ここで頑張らないと男の子じゃないぞ~?」
くっそぉ・・・!思いっきり楽しそうにニヤニヤとっ!
そりゃぁ・・・ここで抱きしめても拒否られないとは思うけど!!思うけどさ!!!
「はぁ。さっさとしなさいっ!」
「うわぁ?!」
ドンっと背中を天音先輩に押されて俺はそのまま深山威を結果的に抱きしめる事になった。
だってそうしないと深山威が倒れてしまうから・・・。
「ぁぅぅっ///」
「ご、ごめんっ!直ぐ離れるからっ!」
直ぐに離れようとする俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「み、深山威・・・?その・・・。」
「ありがとう・・・。ありがとう、向井くん・・・。」
俺を抱きしめたまま、静かにお礼を言いながら泣いている深山威を俺はそのままに、優しく・・・まるで強く抱きしめたら壊れてしまうんじゃないかと不安になりながら抱きしめた。
「やれやれ・・・。やれば出来るんだから最初からやれっ!向井!」
「あっ!はい!」
「俺とお前はじゃれ合っただけ!その結果、勢いがついて殴る感じになっただけ!良いな!?」
「えっ?!いやでもそれはっ!!!」
「悠馬さんが、そう言うのです。それで良いでは無いですか。まぁ・・・そうで無ければぶっとばしますけどねっ。」
ひぃぃいぃ?!もの凄い良い笑顔でめっちゃ物騒な事言ってきた?!
「「勿論、私もだからねっ!!」」
うへぇぇ・・・星川先輩も伊集院先輩も物凄く良い笑顔で言いやがった!!
ヒュンってした!色々とヒュンってしたぁ!!!
「やっぱりここに居たんだな、志保。ありがとうな。」
「いえ・・・お礼を言われる事では・・・個人的な感情で走ってしまっただけですから・・・。」
「それでもだっ。ありがとう、志保のお陰で俺の望む結果になった。」
天音先輩は逆月先輩に寄り添い、嬉しそうに恥ずかしそうにしながらも隣に立てる事が本当に幸せだと言う様な雰囲気になってる。
「志保義姉さん、ありがとうございました。」
「はいっ。ですが・・・暴走しただけですので・・・///」
「それでもですよっ。義姉さんを信じてよかったです。」
「もうっ///菜月さんもその辺で勘弁してくださいっ///」
「えへへっ。はーいっ!」
「全く・・・何処に行ったのかと思ってたら・・・。」
「志保に美味しいところお互いに全部取られちゃったね?愛央っ。」
「だねぇ~。清華さんっ。」
「向井くん?どうしたの?」
先輩達のやり取りを見ていた俺を不思議そうに深山威が疑問をぶつけてくる。
「いやさ・・・先輩達の雰囲気が良いなーって思って。お互いに信頼し合って居て思い合ってるって分かるなぁーって思ってさ。」
「そうだね・・・。私もいつか・・・っ///」
「ん?何て言ったの?」
「な、何でもないっ///」
後半はぼそぼそとした声で良く聞き取れなかったから聞き直したら何か顔を赤くしながらそっぽ向かれた・・・。
「向井!」
「はい!」
「選んだ選択は軽く無いぞ?お前が望んで掴んだんだ。その手を離すなよ?」
っ!そうだ・・・俺は深山威の手を掴んだんだ、だから・・・どんな形であれ掴んで終わりじゃないんだ。
「はいっ!分かってます。どんな結末になっても俺からは離してなんてやりません!」
俺の言葉に逆月先輩は満足そうに一つ頷いてくれて・・・。
「深山威さんもですよ?貴女に手を差し伸べてくれた方が居る。そして、貴女はその手を自分の意志で掴んだのです。」
「は、はい・・・。」
「しがみついてでも掴み続けなさい。」
「はいっ!」
「取り合えず・・・保健室行くか?お互いに怪我してるしなっ。」
そう言って先輩は無邪気な笑顔で先を歩いていく・・・。
俺もそれに倣って付いていくけど、深山威が隣で支えてくれてて、まだまだ良く分からないけど・・・少なくても・・・嬉しかったのだけは間違い無かった。
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その後、俺達は保健室で治療を受けた、先輩は3女神にめっちゃお説教されてて・・・菜月さんとか稲穂とか他の子達からも何やってるんですか?!って責められてた。スルーしまくってたけど・・・っ。
ついでに、何でこんな怪我を?って質問に先輩は「じゃれ合ってたら勢い余っただけ。」と徹底して意見を変えなかった。
先輩が何でそんな事をしてるのか分からなかったけど、後々その理由を知る事になる。
もし、俺が感情だけで殴りかかって返り討ちに合ったって事にすると、停学処分になっていたかもって話だったから先輩は一貫してただのじゃれ合いで貫き通したらしい。
結局のところ・・・最初から最後まで俺は守られていたって訳だ・・・。
ほんと・・・かっこ悪いわ・・・俺。感情だけで突っ走って、殴って返り討ちにあって、しかも処分を受けない様に守られて・・・。
最初に断られた時は幻滅したけど、間違いだったって言うか俺が子供なだけだったって気付いた。
「はぁぁぁ・・・ほんと勝てねぇなぁ~・・・。」
「何が?」
「いやぁ~・・・逆月先輩にさ・・・。」
「あぁ・・・うんっ。勝てないよねぇ~・・・。本当に凄い先輩だっ。」
俺と深山威は結局のところ、友人に落ち着いてる。
深山威は俺に対する気持ちに変化は無いけど、俺はまだ恋愛感情を持ってるのか自分でも分かってない。
そんな状態で付き合っても深山威に失礼だから先ずはって感じだ。
こんな風に考えられる様になるなんてなぁ〜・・・。
俺の事を不思議そうな顔をして見ている深山威を見ながらそんな事を思う自分を不思議に思いながらも、休みの日にデートで来た喫茶店での時間をゆっくりと深山威と二人で沢山の事を話しながら過ごしていた。
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後は、後日談になります。
長くなりましたがお付き合いください!
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