第212話 3人娘(立花 柚美)
「はぁぁ・・・。悠馬先輩・・・。」
私、立花柚美は一人自室のベッドの上で憧れの先輩を思う。
毎日の様に会えて同じ時間を過ごして私の気持ちはどんどん大きくなっていく。
最初は憧れ、配信、歌に魅了されてファンになり同じ学校に通いたいが為だけに必死に努力した。
そうして、夏の見学会でまさかの邂逅を果たして仲良くもなれてしまった。
「流石にそろそろ起きないと怒られるかな・・・。せっかくの休みなのに寝てるのは勿体無いよね。」
私はのそのそとベッドから出て部屋を後にしてリビングまで行ってビックリした。
「やぁ!おはよう、柚美ちゃんっ。」
「へ・・・?き・・・・。」
「き?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は悲鳴を上げてリビングから直ぐに出て部屋へと逃げ込んだ。
だって!なぜか分からないけど悠馬先輩がいるんだもん!なんでぇ?!聞いて無いよ?!
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「えっと・・・お騒がせ&お見苦しい物をおみせしました・・・///」
着替えて顔を洗ったり寝癖を直したりしてリビングに戻ってきて直ぐに私は悠馬先輩に謝る。寝起きの姿なんて見られてもう顔が真っ赤である。
「いやいや、気にしなくても良いって。抜けてる柚美ちゃんも可愛かったよ?」
あんな姿を可愛いと言われてもあんまり嬉しくないのです・・・。
「全く、いつも言ってるでしょう?部屋ならともかくリビングにはどんなお客様が居るか分からないんだからきっちりとしなさいって!」
「まぁまぁ、自宅でそんなに気を張ってても休まる場所が無い訳ですし、そこまで目くじらを立てなくても。」
そうだーそうだー!自宅で部屋以外で気を張りたくないぞー!
「いえっ!立花家のものとしてそれは許されません。ましてや・・・。」
「おっと・・・これは逆効果だったか・・・。ごめん、柚美ちゃん。」と先輩は申し訳なさそうな顔で私にこそっと言ってくるけど、普段の私が悪いんで・・・。
「えっと・・・先輩に会えたのは嬉しいんですけど何でここに?」
「あぁ、それは・・・「それよそれ!柚美の言う通り素敵な男の子だったわ!」・・・あはは・・・。」
お母さん邪魔!!!
「買い物に出てたんだけどな、帰りに荷物持ちを手伝ってな~。」
「そうなのよ!買いすぎて困ってたら手伝ってくれたの!話を聞いたら柚美の先輩で前から言ってた男の子だって分かってね!折角だからお礼も込みでお茶でもって誘ったの!」
「まー・・・そう言う訳でごちそうになってたって訳だ。」
「そう言う事だったんですね、本当にびっくりしましたよ・・・。」
「ごめんごめんっ。それにしても柚美ちゃんの家って大きいって言うか何かしてるの?」
「はい、えっと・・・「私が茶道の教室をしてて・・・。」・・・もうぅー!お母さんあっち行っててよ!!!いい加減邪魔!!!」
「ちょっと?!邪魔って何よ!邪魔って!」
「良いからあっち行ってて!」
そう言いながら私はお母さんの手を引っ張ってリビングから追い出す!お母さんだって若い子とお話したいのにぃー!と・・・知らないっての!
「すいません、お待たせしました・・・。ほんとお母さんってば・・・。」
「面白いお母さんで良いじゃない。」
「本当、すいません。いつまでも若いつもりの母で・・・。えっと、何の話でしたっけ?」
「あははっ。元気なのは良い事さ。えっと、柚美ちゃんの家が何をしているのか?だったな。」
あぁ、そうでした!そうでした!お母さんのせいで何だったか?ってなったよもうっ!
「さっき少しお母さんが言いましたけど茶道の教室をしています。えっと、旧家ってやつでして家で教えたり、講演会に出たり等ですね。」
「ほぇ〜・・・凄いな。廃れたりしないでちゃんと続いているのって凄いと思う。あれ?って事は柚美ちゃんは旧家のご令嬢って事かぁ〜。凄い子と仲良くなったもんだな、俺も。」
「いやいや、悠馬先輩がそれを言いますか?大企業の社長令息じゃ無いですか・・・。」
おっとぉ〜そうだった!そうだった!!と、子供っぽい純粋な笑顔で言われて私はまたしても赤くなってしまう。
「と言っても、俺は跡取りとかでも無いし、気楽なものだよ?政略結婚とかも母さんが嫌ってるから無いしね。」
「なるほど、愛央先輩達が悲しむことが無いのは良い事です。それなら大変なのは菜月ですか・・・。」
「ん〜、どうなんだろな?継いでくれれば嬉しいけどって程度じゃ無いかな?母さんも無理に継がせるつもりは無いって言ってたし、他にやりたい事があるならそっちを優先で良いって言ってたからね。」
「そうなんですね・・・。何か羨ましいです。」
「羨ましい?」
「はい。私には選択肢は無いですから・・・。」
「ふむ・・・本当にそうなの?」
「え?はい、そうですよ。悠馬先輩が旧家のご令嬢とおっしゃった様に古いですからね、途絶える訳には・・・。」
「それは思い込み何じゃないの?」
思い込みと言われて少しイラっとした私はキツイ目に自然となり悠馬先輩を見た。
けれど・・・悠馬先輩の目は凄く真面目で、適当でも、フザケてもいない事が直ぐに分かった。
「聞いてみたら良いんじゃない?丁度、聞き耳立ててるみたいだし?ね?」
「えっ?!「何で分かったんです?」・・・お母さん。」
「まぁ、理由としては、いくら学校の先輩とは言え、見ず知らずの男と年頃の娘を二人っきりには出来ないでしょう?ましてや、旧家のご令嬢だ。」
「そうなの?お母さん。」
「まー・・・ね・・・。それで、柚美は後は継ぎたくないの?」
「えっと・・・そういう訳じゃ無いけど・・・。それで良いのかな?って疑問もあって・・・。」
お母さんが真面目な顔で私に聞いてくる、今までこんな話をしたこと無かったから、声は小さいけど思ってる事を話した。
「そう。今までこんな話をしたこと無かったものね。子供だと思ってたけど考えられる様になったのね。」
うぅっ///恥ずかしくなってきたぁ〜・・・。
「何かやりたい事あったりする?」
「んーん。特に無いんだけど。あのね?クラスに稲穂くんって男の子が居るんだけど、その人は将来はパティシエになりたいって言ってて、学校でもお菓子研究会とかって部活まで立ち上げたりして、努力してるのを見て、私は何がしたいんだろう?特に努力も、自分で判断をしたりしなくても決められたレールがある・・・。でも、そのレールに乗り続ければ問題なく悩むことも無く進路は決められるって気付いたら・・・何か情けなくなったって言うか・・・。」
「そうね。柚美には乗り続けたら間違いないレールが用意されてるわね。それが嫌なの?」
嫌って言うか・・・それで良いのか?って疑問が大きくて・・・自分で決めた事じゃ無いのに将来、後悔をしないのか?と不安が・・・。
そんな事を考えていたら悠馬先輩が参加してくる。
「レールに乗るのってそんなに悪い事か?」
「どう言う意味ですか?」
私の質問に悠馬先輩は凄くまじめな顔でお母さんの用意してくれたお茶を一口飲んだ。
「ん?そのままの意味だよ?レールってさ、言ってしまえば道だろ?」
「道・・・?」
「あぁ、その人の歩む人生って名前の道がレールだろ。」
どういう事だろう?
「このまま立花の家を継ぐレール、違う道を行くレールの二本があるとして、違いは何か?」
何でしょう?二つの道の違い・・・?お母さんは分かってるのか静かに悠馬先輩を見つめた後、私に視線を向けてほほ笑んだ。
要領を得ない顔をしてる私を見て悠馬先輩は話を続けた。
「先が見渡せるか否か・・・だよ。」
「あっ!」
「立花を継ぐ道は既に到達点と到達する為の道が見渡せている事、逆に違う道に進むレールは、全くの未知であり、まるで濃い霧に包まれているかの様に先を見渡す事が出来ないレールだ。」
それは・・・不安しか無い・・・。
「な~んてな。怖い言い方をしたけど本来、未来はそう言うものだ。人は自分で考える為の頭、道を切り開く為の両手、そして・・・切り開かれた道を進む為の足があるんだ。」
そうだ、何の為の頭で、何の為の腕で、何の為の足なのか・・・未来に進んでその先に・・・。
「そして子を為すにしろ為さないにしろ、人は次世代に何かを残す。どんな未来を選んでもそれだけは変わらないと思う。だからこそ、何も残せないのはとても怖いし寂しいし悲しいと思うから、柚美ちゃんがどんなレールを選んでも後悔の無い様にすれば良いと思う。お母さんだって、きっと・・・。」
「えぇ、悠馬さんの言う通り。柚美が未来に、次世代に何かを残せるなら私は貴女の選んだ選択を尊重します。」
お母さん・・・悠馬先輩・・・。
「はぃ・・・はいっ!」
私はどうしても涙腺が緩むのを我慢出来なくて、涙声になりながらも返事をする。
だって・・・私の好きな人は、憧れの人は本当に・・・本当に凄い人だって思ったから。
そして、お母さんも・・・厳しいところもあるけどそれは全て・・・私の為だったと本当に理解出来たから・・・。
「柚美ちゃんが今の用意されているレールに納得出来ないのは、自分で決めた事では無いからだと、俺は思う。」
ぁ・・・そうかも・・・、子供の頃から導かれるようにそうなるんだって思い込んでいたんだ私。
だから、納得出来なくて・・・。
「だから、これから沢山、沢山、悩んで答えを出すと良いんじゃ無いかな?用意されているレールにのって進むにしても自分でそれを選んで、違うレールに進むにしても・・・一度、進むレールを変えて戻って来ても良いんだしね。それは、これから自分で決めれば良いと思うよ。」
「はいっ!!!ありがとうございますっ!」
本当にこの人は・・・目の前に居るのにとても遠い人だ、この短い時間だけで私の悩みに答えを、光を差し込ませた。
でも、何時か・・・何時か必ず絶対に、愛央先輩達みたいに自信を持って隣に立てる様に・・・憧れの先輩達の様な女性になってみせる!
そんな事を、私は心の中で決心して、自分の道をしっかりと決めようと気持ちを新たにしたのだった。
降って湧いた休日の悠馬先輩との邂逅だったし、最初は驚いたけど・・・。とても素敵な時間になったのでしたっ。
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