第210話 仕置き

SIDE 1-D


「ちょっと・・・、犯人あんただったん?里香!」


「マジで何てことしてくれたん?!」


お昼に始まったいつもの放送、その放送に現われた悠馬先輩・・・そこから始まる大暴露・・・この一週間ずっと先輩の手の平の上で踊らされていたのを私は理解してしまった。


私、深山威みやまい 里香りかが悠馬先輩の妹である逆月菜月にしていた事、その犯人である事が全校生徒に暴露された・・・。


「いやぁ~・・・この一週間ずっと繰り返した根性は凄いと思うよ~?他に向けろよ!とも思うけどな!」


「あんたのせいで1年が全部睨まれたじゃん!何考えてるの?!悠馬先輩の身内に手を出すとか!!死にたいなら一人でやってよ!!!私等全部を巻き込むな!!!」


胸倉を掴まれて友人に怒鳴られる、その後、無造作に椅子に放られた。


えっぐいって・・・ここまでするの?何も全校生徒にばらさなくても良いじゃん・・・。


「んでだ!理由なんだけどぶっちゃけ本人にしか分からんよな!俺に敵対したって事実だけで充分は充分なんだが、俺の予想も一応話して置こうと思う。」


先輩の話に皆が耳を傾けてるけど私はそれどころじゃない・・・、これで友達も全部失って全校生徒に睨まれまくる・・・。


「はは・・・睨まれまくる程度ならまだ良いか・・・。」


「そもそもの始まりは菜月が5人目の男子をフッた後からだ、その相手は1-Dの向井 渚って男子だ。ここから導かれる一番可能性の高い予想としては・・・渚くんを取られた!と思った深山威 里香の逆恨みだな。つまり深山威 里香は向井 渚が好きで好きでしょうがない!って事だろう。」


ビクンっと私は理由の一つをずばり当てられて体が反応する。

それを向井くんが驚いたような顔で見つめて来ていたのだけは分かった。


「それと、菜月がコネ入学って話だが・・・あり得ないからな?そこは全生徒に認識して貰わないと困る。なぜかと言うとだ・・・、先輩!俺の代わりにこれ見て読んでください。」


「はいはいー!悠馬きゅんのお願いなら官能小説だって読んじゃ・・・いったぁぁぁい?!「馬鹿な事言ってないで早く悠馬きゅんから渡されたもの読みなさい!」・・・あーぃっ!えっと、今年度の入試の首席は東原 優理ちゃんなのは皆が知ってることだけど・・・実は!次席は菜月ちゃんでーーす!点差も3点差!・・・ってすごすぎない?優理ちゃんも勿論だけど菜月ちゃんもさ・・・。」


「って事で、菜月がコネ入学はありえないのだよ。大体にしてそんな不正を俺が許す訳ねーじゃん。仮にそんな話出たらその時点で全教師を正座させて半日は説教するわ!それと、この考え方は俺の事も侮辱してるからな?後、菜月がモテまくるから~って点は完全にただの逆恨みだな!深山威 里香の努力が足りないだけだわ!」


何もかもバラされて・・・全部否定されて・・・逃げたい・・・。


「うん、悠馬くん。その辺でね?皆さんこんにちわ。生徒会長の高坂 明日香です。最初に言った通り、昇降口と下駄箱の監視カメラは基本的に動いてません。登校時間外だけは不法侵入などを防ぐ意味で人感センサーで起動はしますが、その程度です。」


「もっとバラしたいのに~。」


「ゆ・う・ま・く・ん?「へいへい、黙ってますよ。」全く・・・、では深山威 里香さん、貴女のした事はすべて証拠付きでこちらが握っています。無駄な抵抗はせずにこの後、生徒会室に来なさい。分かりましたね?」


「逃げるなら逃げても良いぞー?そん代わりネットに全部ばらまくだけだしな。」


「悠馬くん!見て見ぬふりはここまでです。これ以上は許可しません。」


「分かってますって。放送室を使うのと、モニターに全部映すのをスルーしてくれただけで感謝してますよ。」


先輩たちの間で何かしらのやり取りがあったみたい・・・まぁ、当然か。

悠馬先輩が特別扱い・・・いえなのは今に始まったことじゃ無いし。


「兎に角、直ぐに来るように。それと、他の生徒、クラスメイトの皆さんは彼女を責めるのは止めなさい。責め立てたい気持ちも分かりますが・・・ね。」


「あぁ、そうそう。言葉で済ますのはここまでだから?明日香会長が言ったように深山威 里香の移動を邪魔するなよ?想定より遅かったら1-Dに乗り込んで血の海にしてやる・・・。」


底冷えするような先輩の声に全員がビクンっと反応して身体をすくませた・・・。

悠馬先輩、YouMa様が怒った時、キレた時の恐ろしさは誰もが知ってる事。

口撃ですら凄い事になるのに・・・血の海にするとまで言ったから私は半殺し程度では済まない結果になるって事だろう・・・。


既にエッぐい状態だけど・・・これ学校を辞めたとしても・・・辞める程度で済むなら良い方だよね・・・。


そんな事を考えてる間に放送は終了したらしく周りから「早く行け!」、「ボケっとすんな!」と声が飛んできて私は意識を戻して急いで移動を始めた。


「行ってきます・・・。」


ボソッと小声で話して席を立ってチラっと向井くんに視線を向けたら・・・「・・・っ。」と何かを言いたそうな顔と心配そうな顔をしてるのだけが印象的だった・・・。


……………………………………………………………

SIDE 1-A


兄さんやりすぎ?ですよ・・・。

これじゃ、どっちが悪者か分からないですって・・・。


「先輩の言った事ってほんとかな?話でしか聞いた事無いよ、痴情のもつれ?みたいなの。」


「それは違うでしょ。別に取り合った訳じゃないんだしさ。」


うん、私も彼女の事は知らないし向井くんともあの後に何かあった訳でも無い。


「とは言え、これで解決だね。」


「だな。良くて停学、悪くて退学かな?」


「後は強制転校とか?」


そんな話があっちこっちから聞こえてきた。

停学、退学、転校・・・どれになったとしてもそれは自業自得だから私がどうこう言う必要は無い・・・無いけど・・・。


「菜月?どしたの?」


「菜月ちゃん?」


私には何も出来ない、する必要も無い・・・でも・・・でもっ!!


「ごめん!少し行ってきます!」


理由くらいは知る権利はある筈!


「いってらっしゃい?」とクラスメイトからの声を背中に受けて私は廊下に飛び出して、急いで生徒会室に向かった。


…………………………………………………………

〜生徒会室〜


「さて、この処分に何か異論は?」


「ありません。」


「そう。今回は特に備品を壊した、菜月さんに対して暴力を振るった等はしていない為、この程度で済みました。ですが、次はありません。良いですね?」


「あの、本当にすいませんでした。」


「それを俺等に言っても意味ねーだろ。お前が頭下げる相手は菜月と、巻き込んだ渚とD組の全員にだ。」


「はい。しっかりと謝りたいです。」


「失礼します!!兄さん!明日香会長!退学だけは許してください!お願いします!!!」


彼女に理由を聞こうとしていたら菜月が大慌てで飛び込んできた。


「先ずは落ち着け菜月。」


「でも!私は特に怪我をさせられた訳でも私物を壊された訳でも無いですから!余り重いのは!」


「最初から退学は無いから安心して。先ずは落ち着きなさい。菜月ちゃん。」


「は、はぃ・・・良かった・・・。」


「なんで・・・何でよ?!私はあんたに酷い事したのに!何で?!何でそんな事言えるの・・・。」


「と言われましても、ひどい言葉は言われましたけど、別に殴る蹴るの暴力を振るわれた訳でも無いですし、私物を壊された訳でも無いですからね。」


「だからって!!」


「ですので、理由だけは教えてください。私の何が気に入らなかったのか。」


菜月は決して激高はせずあくまでも静かに真摯に質問を投げかける。

俺はそれを静かに見届けていた。


「最初は、何人にも告白されてるのを見て、流石はYouMa様の妹だなって程度だった・・・。」


ゆっくりと、静かにポツポツと語り始めるのを俺も菜月も会長も黙って聞いていた。


「だけど、5人目になって、それが私の好きな人だったのを見て・・・何様なの?って思ってしまって・・・。」


「それで、アレですか。」


「うん。こんなの直ぐにバレるって分かる筈なのに、菜月さんに手を出したら先輩達を全部、敵に回すって分かっていたのに・・・止められなかった・・・。本当にごめんなさい。」


ポロポロと涙をこぼしながら只々、謝るのを静かに眺めていた。


「分かりました。兄さんの言った通りだったんですね。でも、謝って貰いましたし、反省もしてるのは分かりましたから。もう誰にもやらないでくださいね?」


「はいっ。ごめんなさいっ。ごめんなさぃっ。」


「もう大丈夫です。許しますから、顔を上げてください。」


やれやれ、菜月も甘いのは変わらんな。


「あの、会長、兄さん。その・・・処分の方は・・・?」


「停学二週間。」


「それだけですか?」


「いや、今回の事で教師を介入させたく無かったけどそう言う訳にも行かないからって理由で停学処分も付いた。」


「も?ってどういう事ですか?」


「インフルエンザ、その他の伝染病、冠婚葬祭、以外での欠席不可。多少の熱なら登校してもらう。それを三年間続けてもらうってのが本来の罰だ。」


「え?それだけですか?」 


「あぁ、なんなら一発殴っておくか?見なかった事にするぞ?」


「いえ・・・。それは大丈夫ですけど・・・。軽いと言うか当たり前の事なので疑問に思ったんです。でも、重くなくて良かったですね!」


菜月の無邪気な答えに里香の顔は真っ青である・・・。

俺も明日香会長も本当の意味に気付いて居ない菜月に苦笑いしながら、時間は過ぎていき、取りあえずではあるが、解決と言う事になった。


……………………………………………………………

〜放課後〜


「それで、何であんな罰にしたの?悠馬。」


放課後、俺を筆頭に愛央達、菜月達、柚美ちゃん達は健司の部活、お菓子研究会の部室に集まっていた。

 

「そうですよ、はっきり言って殴り飛ばしても良いと思いますよ?」


「志保・・・黒い黒い。それは兎も角、私も疑問かな、悠馬くん。」


「俺は・・・えっぐいなって思いましたけどね・・・。」


「どゆこと?稲穂くん。」


健司の言葉に優理ちゃんが疑問を投げかけた。


「いや、だってさ?先ずは全校生徒への公開処刑でしょ?そこから好きな人もバラされて、更に三年間、しっかり通えってさ・・・。」


「全校生徒に睨まれてるわ、腫れ物扱いだわ、クラスとか居ないもの扱いだろ?きっと。」


「全部自業自得とは言え、学校っていう閉じた世界でそれはエグいなんてものじゃ・・・。」


「別に俺が腫れ物扱い、居ない者扱いしろとは言ってないからな?その辺は他の生徒のさじ加減だろ?それに、通い続けろとは言ったが、辞めるなとはいってねぇし?」


「悠馬さん・・・それは屁理屈・・・。」


「屁がつこうが理屈は理屈だ。」


「「「いやいやっ!」」」


「これからの状況は地獄かも知れないけど、私の時と違って自分からやった事だし、同情は出来ないかな・・・。イジメよりキツイかも・・・ね・・・。」


「確かに気分的には良くないですが自業自得ですし関わる気は起きません。」


「そうだね。自業自得なんだよね・・・。」


「何にしても関与するのはここまでだ。これ以上は回りの人間次第さ。」


俺の言葉に頷きながらも、愛央達は余り良い結果とは思っては居ないみたいだが、それ以上に菜月にした事の結果である以上は、仕方無いと思う事にした様だ。


ほんと、この手の問題は解決しても気分が悪いのは変わらないわ。

皆を見ながら俺はそんな事を思うのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これで一応の終わりになります。

学校と言う閉じた世界で周りに人が居るのに、自分を誰も見ない、見てくれないってのが一番の地獄だと個人的に思いましてこの形にしました。

賛否はあると思いますがボコボコにする結果にしても、喉元過ぎればでは意味が無いので継続ダメージで決して忘れない様にと言う形です。


一応ではありますが・・・男子と女子にそれぞれ名前を付けたので一人のキャラクターとして救済の話も思いついては居ますが・・・書こうかどうかは悩んでます。 この辺は皆さんの声次第にしようと思っています。

気分のいい話では無いですがお読みくださりありがとうございました。

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