第205話 優理の覚悟と決意

SIDE 優理


中庭で話してから3日、この3日で私達は一通りの部活動、同好会を見て回った。

結果、言っていた通り、お菓子研究会は無かった。

このままなら、稲穂くんは立ち上げる事になると思う・・・けどあれから話せてない。

よくよく考えたら連絡先の交換もしてなかったね、私。


「よーしっ!それじゃ私は吹奏楽部の顧問に届け出してくるねー!」


「あ、ほんとに入るんだ?」


「当然!先輩みたいになりたいし!それに、見学の時に逆月先輩が顔を出してきて伊集院先輩との連弾を披露してくれて感動したもん!」


そう、二日目に見学に行った時に逆月先輩が顔を出してきてそのまま連弾を披露してくれた。

あれには見学者達は揃って感動していた、勿論、私も。


「優理はどうすんの?何処か入るの?」


「うん、どうなるか分からないけどねー。とりあえずA組に行ってくる。」


「はぃ?何で?」


「お手伝いっ!じゃ、また明日ねっ!」


「ちょっ?!ぇぇえ?!ゆ、優理ーー?!」


友達の声をそのままに鞄を持った私は教室から出てそのままA組に向かった。


…………………………………………………………


「よしっ!先ずは先生のところ行かないと!」


「ん?何でまた?」


「用紙を貰いに行ってくる!立ち上げる為に!」


「あぁ〜・・・マジでやるのな。了解、待ってるから行って来いっ。俺も協力するからっ。」


「えっ?良いの?何処か入らないの?」


「んーピンっと来るものが無くてさ。それなら健司のを手伝うの面白そうだなって思ってさ。」


「そっか。ありがと!取りあえず行ってくる!」


俺は先ずは職員室に向かうために教室を後にした。


…………………………………………………………

SIDE 優理


さってっと・・・他のクラスに入るのって何か緊張するよねぇ〜?


「失礼しまーす。稲穂くんは居ますか〜?」


放課後だから扉は開いていたから声だけで取りあえず挨拶と目的を伝える。


「あれ?どうしたの?」


そんな私に気付いて反応してくれたのは立花さん。


「あ、こんにちわ。えっとね?稲穂くんは・・・?」


「うん、こんにちわ。稲穂くんなら今は職員室に行ってるよ。本気で部活立ち上げるみたいで話をしにいったのと、書類かな?貰いに行ったよ。」


「そっか・・・それなら待ってれば戻ってくるかな?」


「だと思うよ?鞄もまだあるしね。」


「それじゃー待たせてもらってもいいかな?」


「うんうんっ。こっちこっちっ。」


立花さんに引っ張られるままにA組の教室に入って、稲穂くん達の席の辺りまで連れていかれる。


「いらっしゃいませ。多分、すぐに戻ると思いますよ。」


「あ、うんっ。ありがとう菜月さんっ。」


皆が固まってる場所に行って会話に参加させて貰いながら稲穂くんが戻るのを待っていた。


「皆は何処か入るの?」


「私は、生徒会に入ろうと思ってる。」


「私はフェンシング部に興味持ったわ。」


「俺たちは特にかな〜・・・考えてるまだ。」


男の子は決めかねてるって感じみたい、立花さんは生徒会、小河原さんがフェンシングかぁ〜・・・。


「門倉さんは?」


「私は美術部!」


「「「「武術部?」」」」


あっ、被った・・・。


「び・じゅ・つっ!!あんたら私を何だと思ってるの!?ほんと失礼しちゃう!そう思わない?男子達!」


「「「えっ?」」」


「何で驚くの?!てか!どう言う意味かな〜?詳しく聞かせてもらおうかな〜?」


「アハハ・・・気にしないで?!」


「そうそう!似合うなーとか思ってないから!!」


「ぼ、僕は思ってないよ?!」


「あ・ん・た・らぁぁ!?」


門倉さんと男子の漫才?を見させられてるけど、仲いいな〜。


「はいはいっ。その辺にしときなさい。東原さんがポカーンっとしてるわよ。」


「涼達も同罪だからね?!どうやったら美と武を間違うのよ?!耳鼻科いきなさい!?」


「ぅっ、くっ。ふふっ。」


これは駄目だぁ〜我慢できなく・・・。


「あはははっ。面白すぎるってー!何この流れる様な流れー!てか!男子も女子も仲良すぎっっ。」


「兄さんの効果ですねーそれは。初日から連れ出して馴染ませましたし?」


「なるほどっ。あれね・・・っ。そいえば菜月さんはどこか所属するの?」


先輩の事があるから菜月で良いとあの日に本人から言われたからそのまま名前で呼んでるけどちょっと恥ずかしい。


「えっと、私はバスケ部と生徒会ですね。」


「えっ?!2か所も?!」


「はい、バスケ部は学祭の時に兄さんとやった関係で誘われていますし、生徒会は普通に入りたいと思ったからですね。」


精力的だな〜、流石は先輩の妹さんだぁ〜。


「ところで、東原さんは何故ここに?と言うか、稲穂さんを訪ねて?」 


何かやっと本題に入れる気がする。

私は小河原さんの問いに何故か少し緊張しながら、答える。


「うん、あのね。稲穂くんを手伝いたいって思ってっ。」


「「「・・・・・・。」」」、「「「・・・・・・。」」」


あれ?何か黙っちゃった・・・。何で??


「そうですか・・・それは何故です?」


菜月さんが表情を消して問いかけてくる。その顔は、嘘も誤魔化しも許さないと言うかの様な顔だった。

そんな、菜月さんの雰囲気に私は息を飲みながら、ゆっくりと答えた。


「この間、中庭でB組の男子達と一緒に居るところに遭遇して、その時に話を聞いたの。」


「はい、それで?」


「私は、何かをしたくてこの学校を選んだ訳じゃなかったんだ、そりゃ勿論だけど逆月先輩の事が無い訳じゃ無いけど、明確な目的があって進学した訳じゃ無いの。」


「まー、ほとんどがそうだろうな。俺等だって先輩への憧れだけだしよ。」


「う、うん。だからね?そんな生徒達の中で、明確に目的を決めて、夢に向かって頑張ってる稲穂くんが眩しく映ったの。そして、私はそんな稲穂くんを助けたい。手伝えることがあるなら、手伝いたいって思ったんだ。私が自慢出来るって言い方は少し違うけど、この頭と、首席合格をしたって立場は、利用出来るんじゃないか?って思って。それで・・・。」


「はっきり言いますが、稲穂さんの信用度は既に高いです。」


え?何でだろ?何で既に高いの?


「逆月悠馬の友人。YouMaが心を許し側に置くことを許した男子。昨年の各種イベントでの仲睦まじい姿、何もしなくても回りが順番を譲ろうとする程の知名度。そして・・・そんな立場に甘んじる事の無い彼自身の姿勢。これらを世間はどう見ると思いますか?教師は?この学校の生徒は?」


「ぁ・・・。」


菜月さんの言葉に私は何も言えなくなる。確かにそうだ、私自身すら彼を知って、興味を持ったのは先輩の配信に出たり、遊びの話を聞いたりしてだ・・・。

その時点で他の男子とは違うと興味を持った、そして、入学式の日に知り合って・・・でもっ!だからって無条件で思ったわけじゃない!!話して話を聞いて、純粋に助けたいと!力になりたいと思ったんだ!それだけは・・・それだけは間違いない!間違えてない!だからっ!!


「改めて聞きます。何が目的ですか?カースト?人気?利用しようとしてるだけでは?稲穂さんも兄さんも、利用しようとしてるだけでは無いと言えますか?」


無遠慮な言葉、確かにぽっと出の私がこんな事を言えば利用しようとしてると思われるのは当たり前だ、私だって菜月さんの立場なら同じ事を思うだろう。


「私は、純粋に助けたい、力になりたいと思った。だから今こうやって直接話そうと思ってここに居る。菜月さんの立場なら疑うのは分かるし私も信じてくれなんて言わない。」


「そうですね。で・・・?」


「だから、先ずは見てほしい、私が、私の言った言葉の真意を。信じられるのかを・・・。そして、信じる事も信用する事も出来ないと判断したらその時は、遠慮なく排除してくれて構わないっ!」


菜月さんを始め、立花さん達もA組の男子からしても稲穂くんは大切な友人なのは伝わってくる、だからこそ初日から誘われて絡んだとは言えクラスも違う、今までの実績も無い私が関わろうとすれば疑問も持つし、疑いもする。だからこそ・・・私に出来るのはこれからの行動で証明する事しか無い・・・。それが、私のだ・・・。

私と菜月さんの睨み合いが続く・・・数分?数秒?時間の感覚は無いけど、菜月さんがフッと表情を緩めた。


「優理さんが簡単な気持ちで近づいて無いのは分かりました。まだ信頼は出来ませんが・・・信用はしようと思います。」


「あっ・・・ありがとうっ!これから頑張るっ。」


「はい。それとごめんなさい・・・試すようなことをしてしまって。」


「いいよっ!いいよっ!菜月さんの立場も皆の気持ちも分かるからっ。」


「ありがとうございます。私達にとっても稲穂さんは大切な友人ですから、よろしくお願いします。」


そう言って菜月さんも立花さん達も頭を下げた。


「俺等からも頼むよ。健司の事、俺等にとっても既に大切な友人だからさ。」


そして男の子達も・・・、そんな風に慕われている稲穂くんは凄いなと思いながらも・・・。


「何が出来るか分からないけど・・・私に出来る事をします。」


私も笑顔で皆に返事をした・・・これで第一段階は乗り越えたと思う。

稲穂くん・・・早く戻ってこないかな・・・。


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