第204話 健司の相談
「それで?なんの相談だ?」
部活紹介の次の日の放課後、俺は前の晩に悠馬さんに連絡して相談があるから時間をとれないかと話したら快く時間を取ってくれて二人で中庭で話してる。
「えっとですね、部活の事なんですけど・・・。」
「あぁ、見学は今日からだろ?見て回れば良いんじゃないか?」
「そうなんですけど、それとは別に何ですけど・・・。」
「どうした?遠慮しないで聞きたいことは聞けって。」
言いよどむ俺に悠馬さんは、そんな事を言ってくれる。
「あのですね?お菓子研究会とかってありますか?」
「ん~?・・・あぁ〜・・・そう言う事か・・・。ん〜、家庭科部とか料理研究会って名目の同好会とかは確かあったはずだけどお菓子だけってのは無かった筈だな。」
「やっぱりですか?」
「夢の為のだろ?立ち上げるなら立ち上げるで良いと思うぞ?」
「はい。家での練習だけだと足りないと思ってて折角ならって・・・。」
何となく恥ずかしくなった俺は顔を赤くしながら下を向いてしまう。
「顔上げろ。立ち上げるって事は部長になんだから、堂々としとけ。」
「あ、はいっ!なんか分からないんですけど恥ずかしくなってしまって・・・。」
「男子なのにお菓子とかって思う程度なら辞めちまえ。」
悠馬さんの遠慮の無い言葉に俺は言葉を失う。
「だがな?俺は健司の作ったお菓子は好きだぞ。諦めたくないなら胸張って顔上げろ。馬鹿にされようが否定されようが好きな事は好きな事なんだから、文句あんのか?!って堂々としとけ。」
「うすっ。」
一人でも認めてくれる人が居る、楽しみにしてくれてる人が居るなら俺は・・・。
「まぁ、先ずは皆で見て回れ、立ち上げるにしてもそれからでいいだろ?」
「ですよね。何かしなきゃって思ってしまって。」
気持ちは分からなくも無いけどな〜っと悠馬さんは笑った。
それに、釣られて俺も笑っていると休憩をしに来たのかB組の人達が現れた。
「あっ・・・先輩!こんにちわですっ!!」
「ん?おうっ。こんちわ、休憩か?」
「はいっ!お邪魔しても良いですか?!」
「当然だ。気にせずに休め。」
「ありがとうございます!えっと、稲穂?も良いかな?」
「勿論。確かB組の人達だよね?A組の稲穂健司、よろしく。」
「こちらこそ!何を話してたんだ?」
「あぁ、えっと・・・部活関係の事を相談してた。」
「何処に入ろうか〜?みたいな感じ?」
「いや、立ち上げようかなってのをね。」
俺の言葉にB組の男子達はポカーンっとした顔をしてこっちを見つめてきた。
「ぇぇ?部活を立ち上げるの?マジで?」
「すげぇ〜なぁ〜・・・稲穂くんってマジですげぇ。」
「そ、そんな事無いよ?!本当に良いのかな?って判断しきれなくて悠馬さんに相談してたくらいだしさ!」
「いや、だとしてもだよ。」
「あぁ、俺等はそこまで考えなかったしさ。思いつきもしなかったし。」
そこはやっぱり、悠馬効果なんだろうなぁ〜・・・って思う、本人に言ったら、んなわけあるか!って突っ込まれるだろうけど。
「俺さ、将来はパティシエに成りたいって思ってるんだけど、家での練習だけじゃ足りないって思ってて、それなら学校に通うんだし部活動って形でやれないかな?って思ったんだ。」
「いや、既にやりたい事が決まってるのも凄いと思うしそれに向けて努力してるのも凄いと思うぞ?」
「あ、ありがとう。ってか、男がそんなもんって馬鹿にしないの?」
「は?する訳ねーじゃん!マジですげーと思ってるし、何かを見付けられたらって思って、先輩に憧れて進学した程度なんだからこっち。」
「そうそう!稲穂を尊敬するよ!もしも馬鹿にするやつが居たとしたらそいつは嫉妬してるだけだろ?」
「だな!進学したばかりで既にやりたい事も決めてて真っ直ぐな稲穂に嫉妬してるだけだわ。そんなん居ても気にする事ないない。」
「あ、ありがとう・・・。」
これは流石に嬉しくて恥ずかしくて顔を赤くして下を向いてしまう。
「健司の作るお菓子は美味いぞ。」
「そうなんすか!?てか食べたことあるんですね?!」
「あぁ、作る度に上手くなってるし美味くなってるから、本当に向いてるんだと思う。」
「ゆ、悠馬さん・・・。ありがとうございますっ。」
「だからって訳じゃ無いが、もっと自信持て。お前は凄いやつだ。」
うぅぅ・・・目が潤むのを止められない・・・。
「必要なら俺の名前も書いておけ、健司の為なら力になる。」
「はいっ!!!本当にありがとうございますっ!」
「ったく、大げさなんだよ。お前らもさ、女子しか居ないからとか、気にしてもしゃーないんだから変な意地張って無意味に喧嘩すんなよ?お互いに遠慮して言いたい事、やりたい事、我慢したって良いことねーんだから男同士で固まってても別に良いんだし、俺の時と違って少数とは言え、仲間が居るんだからな?先ずは楽しめ。・・・な?」
直通板に相談とかあるなら気楽に書き込めよー?そう言って、悠馬さんは席を立って離れていった。
そんな先輩の背中を俺達は見えなくなるまで見送っていた。
……………………………………………………………
SIDE 優理
「お?うちの組の男子じゃん?あれって・・・稲穂君だっけ?何見てるんだろ?」
説明会の次の日、私たちB組女子は数人で固まってゆっくりと見学をしていた。
運動部を中心に見て回って中庭で休憩をしようと向かうとクラスの男子と稲穂くんが同じ方向を向いてぼーっとしていた。
「ほんとだ?どうしたんだろ?言い争いとかの雰囲気では無いから良いけど・・・。」
「お~~いっ!皆で同じ方向を向いてなにしたの?」
「え?あ・・・えっとね?何て言うか・・・。」
「うん・・・、先輩の凄さ?を感じたって言うか?」
「なにそれ?どういうこと?」
「あ・・・もしかして?逆月先輩もいたの?」
私の言葉に男の子達は揃ってうなずく。
「うん、その通り。去っていく背中を見送ったんだけど目が離せなかったって言うかさ。」
「ええぇぇぇぇぇ?!悠馬先輩も居たの?!もっと早く来ればよかった・・・。」
あーらら。落ち込んじゃった・・・。てか悠馬先輩って流石に本人の許可なくそれは馴れ馴れしいでしょ・・・。
まーそれは兎も角・・・何を話したんだろう?
「ねねっ!何を話したの!!??教えてよっ。」
「いやぁ~・・・特に何って訳じゃないんだけど俺らは途中からで稲穂がね?相談してたみたいでさ。」
「ほーほー!稲穂君は何を~?」
こらこら・・・ぐいぐい行き過ぎてちょっと引いてるじゃん・・・。
「こらっ!距離感考えなって!稲穂くんちょっと引いてるよ。」
「あっ!いやっ!大丈夫。ありがとうね、東原さん。」
「あっ、うんっ。別にそんなお礼言われることでもっ///」
「おやぁおやぁ~?」
くっ。なんかニヤニヤされてるし・・・!
何て答えて誤魔化そうと考えてると、クラスの男子が興奮気味に話題を提供してきた。
「えっとな!稲穂ってすげーんだぜ!」
「ちょっ?!まっ!」
「すごいって?」
「先輩に部活の立ち上げってどうだろ?って相談してたんだぜ!!」
「ぁぁぁぁっ///言っちゃったし・・・。」
凄い・・・そんな事考えてたんだ・・・、稲穂くん、すごいなぁ~・・・。
「まじで!すっご!何々?!どんなのを考えたの!!」
「えっと・・・お菓子研究会・・・。」
ボソッと稲穂くんは自分が立ち上げようと考えてたことを話したけどお菓子研究会?
「おー!あれ?でもそれ系の部活とか同好会とかってあるんじゃないの?」
だよねぇ~?その手の部活って絶対あるんだしさ。
「えっと、悠馬さんに聞いたんだけど、家庭科部とか料理研究会とかはあるみたいだけどお菓子だけってのは無いんだってさ。」
「そうなんだ?まぁでも、確かにお菓子だけって言うのは聞いたことないかも?でもなんで立ち上げようと思ったの?」
「いやぁ~・・・///それは・・・///」
ん~?なんで赤くなってるの?恥ずかしい理由?
うん、別に恥ずかしい事じゃないし自信持てって言われたし、笑われても別にいいや・・・っと稲穂くんはぼそぼそとつぶやいてから私たちに改めて向き直した。
「俺の夢の為だよ。夢はパティシエなんだ、だから学校の部活としても練習できればって思って悠馬さんに相談してた。」
夢・・・目標の為に・・・もう決めてるんだ・・・。
「おー!すごいじゃん!自分の夢の為にこう言うのでも努力するって言うか思いつくのって!」
稲穂くんの話を聞いた女の子たちが馬鹿にするどころか本気で関心して、食べてみたいとかもう目標決めてるんだ!とか色々と話しかけたり聞いたりしてる。
そんな稲穂くんを見てると慌てながらも質問に答えたり馬鹿にしないの?って聞いたりとかしてるけど・・・その姿は自分の夢に自信をもってるって事と絶対に諦めないって感じに見えるのを見て、私はある一つの事を決めるのだった。
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