第194話 そして季節は回る

そして、退院の日。

そこには去年の繰り返しの様な光景が広がっていた。


「退院おめでとうございます!またいつでも来てくださいね!!!」


「いやだから・・・病院側がそれは駄目でしょうに・・・。」


去年もこのやり取りやったなぁ~・・・。


「やっぱり外の方が気持ち良くていいな~、寒いけど・・・。」


「検査入院とは言え、入院は入院ですしね。皆さんの反応も間違えてはいないんですけど・・・。」


「大げさは大げさだよね・・・?」


「うんっ。それは間違いないねっ。」


「皆さんすっかりと兄さんに魅了されてますからねーこればかりはもうどうしようもないと思います、と言うか兄さんの責任です。」


「似たような事を去年も母さんに言われたなぁ~・・・。とりまーそろそろ・・・。」


俺はスタッフさん達の方に向き直りながら去年と同じ様にまた頭を下げる。


「お世話になりました!また来週に結果を聞きには来ますけど、取り合えずありがとうございました!」


そうして、去年とは違って、愛央、志保、清華、菜月を連れて病院の敷地から出ながら色々と会話をして一緒にいれなかった時間を埋めるかの様に俺達は過ごすのだった。


母さんはどうした?って・・・来る気まんまんだったんだけどね?秘書さんに首根っこ掴まれて会社に連れて行かれました。

何でも、母さんが居ないとどうしようもない会議が入ってたらしく「私も悠ちゃんを迎えにいくのーーーーーー!」、「はいはい。既に恋人も居るんですからいい加減に息子離れしましょうね?」っというやり取りをしながら連れて行かれたそうだ(菜月談。)


そして、俺達は家に帰る前に皆で喫茶店に寄る事になりそれぞれで注文を済ませ、一息ついた。


「はぁぁ・・・何とか終わったな~・・・。入院生活は疲れる。」


俺の言葉に皆して苦笑いだ。


「でも、兄さん。これで何も無いって分かったらそれで良いじゃ無いですか。それに何より去年の原因も分かれば・・・。」


「そう言えば、最初は倒れたんだったね。そっちの原因とか分かれば良いね。」


「忘れていたわけでは無いですが、何も今まで無かったので大丈夫だと思ってましたね。」


「そっちの原因って何だったんだろうね・・・。原因不明ってのが一番怖いもんね。」


「柚希さんもそれ言ってたよ。」


でも、言えないからな・・・愛央達にはいずれは話しても良いかも知れないけど、菜月にも母さんにも絶対に話せない理由だ。

それは、あの時から変わらない俺の罪・・・、そしてずっと背負い、受け続けないといけない罰だからな。


「兄さん?」


「ん?あぁ、ごめん。たださ、もう一年になるんだなーって思ってね。」


「そうですね。あれから一年です。この一年は本当に早かったと感じました。」


「この一年は、母さんと菜月と和解?して、その後は愛央と志保と知り合って・・・モールで清華と知り合った。」


「うんっ!あの日の出会いは今でも覚えてるし絶対に忘れないっ。」


「良いのか?だってトイレ前だぞ?」


「そうだけど!それはそれ!」


「そうか、俺も同じだ。そして、試験が終わって志保と知り合えた。今だから言うけど、愛央とは正反対だなーって思ってた。」


「ふふっ、良く言われます。凸凹だからこそうまく嵌まってるんだと。」


「凸凹って・・・っ。愛央が元気な子なら志保は物静かな大和撫子って感じだったしな。芯も強そうだって思ったのは間違えてなかったけど。そして、モールで清華と知り合ってだね。」


「うんっ。あの日の悠馬くんの背中は今でも目に浮かぶよ。」


「自分でも思い切ったなーって思うよ。あれだけの人の中に飛び込んでだしなー。」


「ほんとですよ!どれだけ焦ったと思うんですか!!!!」


「ごめんって菜月。でも、そのお陰で今があるんだしね。3人も姉が出来たじゃん?」


「兄さん・・・それで許されると思ってますか?」


「シラネシラネオレシラネ。」


全く!っと俺の隣で頬を膨らませながら怒ってる菜月を宥めてる俺を3人がほっこりとした顔で見てた。


「な、なんだよ3人共その顔?」


「いーえっ!何でもありませーーーんっ。」


「そうですっ!何でもないですよーっ!」


「うんうんっ!気にしないっ!気にしないっ!」


全く・・・ほっこりって言うか生易しい顔しやがって・・・。


その後、ワイワイと話しながら過ごしてから俺達は店を後にした。


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「そう言えばですが、菜月さんは清蘭を受験するんですか?」


家に向かって街を歩いてた時に志保がそんな事を言ってきた。


「はいっ!勿論です!絶対に皆さんの後輩になりますっ。」


ふんすっと拳を握りながら答える菜月が微笑ましい。


「菜月もだけど、健司もだし柚美ちゃんと千里ちゃんと涼ちゃんもだなー。」


「そうだねー、稲穂くんは合格は間違い無いけど3人も合格出来たら良いねっ。」


「だね、絶対に楽しくなるしね!」


今よりも更に賑やかになるのは間違い無いし健司以外にも男子が増えるかも知れない。

それを考えると、少し楽しみだ。


「菜月には俺達が付いてるからな、間違いなく合格できるだろうけどあの3人は大丈夫かなー?絶対に倍率やばいよね?」


「間違いなく。私達の時の比ではないはずです・・・。」


「0.001とか行ったりして・・・。」


「笑い事じゃ無くありえそうだよね・・・。」


「俺のせいだけどな!後悔はしてない!!!」


「全くもうっ。皆にはがんばれ!としか言えないよねぇ~。」


そんな事を話ながら俺達は賑やかに帰宅する、こんな何でもない日常に幸せを感じながら。


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そして、一週間が経過して、俺と菜月、母さんの3人は改めて病院に来てる。


「では、検査結果を話させていただきます。」


そんな担当医師の言葉に母さんも菜月もごくりと息を飲んだ。


「何も問題がありませんでした。」


その言葉にホッと二人が息を吐く。


「あの、去年の頭痛の原因の方は・・・?」


母さんが安心顔から一転、心配そうな顔で医師に聞く。


「そちらに関しては・・・何も分かりませんでした。脳にも異常は無く身体も健康そのものでしたから。」


「そうですか・・・。」


「先生、大丈夫なんですよね?俺の身体に異常は無いんですよね?」


「はいっ!それは間違いないですねっ!」


「母さん、菜月。去年の事は気になるけどこの通り俺は大丈夫らしいからさ。余り心配しないでくれな?」


「それは無理!悠ちゃんの事はいつでも心配してるの!」


「そうです!兄さんの事は常に心配です!」


「ぐぬぅ・・・。はぁ・・まー良いや。心配されてるだけ良いと思っておく。」


俺の悔しそうな顔に医師も一緒に居た柚希さんも母さんも菜月も声を殺しながら笑ったのだった。

皆の笑顔が見れただけでも良しとしようかな。


そして・・・冬が過ぎ、季節は廻り・・・新しい春がやってくる。

俺達は2年に上がり、後輩が入って来る・・・さぁ!新しい季節の始まりだ!


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