第175話 今、どんな気分だ?
SIDE 詩音
「ご紹介に預かりました、奏 詩音、改め・・・詩音と言います。隣に居るのは専属マネージャーの星谷 九羅華さんです。」
パシャパシャっと沢山のフラッシュが焚かれるのをしっかりと前を見て恥ずかしく無い様に雪村社長の隣に立つ、その隣には私に着いて来てくれた九羅華さんもいる。
「こちらの詩音さんですが、モデルをしていました。知ってる方も沢山いらっしゃるでしょう。ですが、彼女は以前の事務所を退所しまして、我が社の芸能事業部に所属、マルチタレントとして売り出していきます。」
「何故ですか!?何故このような事に?!」
質問をして来た記者さんをしっかりと見詰めながら私は答える。
「皆様、驚いていると思います、この場にいらっしゃる方だけでは無くこの会見を見ていらっしゃる方達もでしょう。」
「私と詩音の二人が雪村グループと新しく契約したのには勿論ですが理由があります。」
「その理由とは何なんでしょう?!詩音さんの元の所属されていた事務所はかなりの大手ですよね?!」
「理由を説明する前に先ずはこちらをお聞きください。」
私がボイスレコーダーのスイッチをいれるとそこから流れてくるのは九羅華さんとあの社長のやり取り、私や事務所に所属しているタレントの事を道具、商品と言っている事、逆らうから破滅するのだ、違約金を押し付けた事等の言葉が流れる。
「この会話はこちらに居る九羅華さんとの会話ですが、私に対しても商品と言ったりでした、そして・・・何の相談もなくこれからの事を決め黙って商品は言う事を聞けと言ったり等のやり取りがあり、怒った私は事務所を飛び出しました。」
「その結果、契約を解除され、違約金を押し付けられたと?」
「はい、せめてちゃんと話そうと事務所に戻った私に対して、前触れも無く契約解除を通達、追い出された結果、こうなりました。」
「そして、YouMaさんから詩音さんの話を聞き折角なので我社専属のタレントとして所属して頂く事になりました。」
「やはり、YouMaとの繋がりは強いのでしょうか?!」
「いえ、今回は私共が借りを作っておりましたので、それを返すと言う意味でのお話と言うだけのものです。」
「本日から奏 詩音は唯の詩音として活動を始めることになりますので皆様どうかよろしくお願いいたします。」
「元の事務所の問題等はどうするおつもりで?!」「活動とはどの様な?!」、「これからは唯の詩音としてと言いましたが最初の活動は決まっているのでしょうか?!」
沢山の質問が私達に飛んでくる、ネットの配信画面も沢山のコメントで溢れてる、その殆どが頑張れ!から変わらずに応援します!等など本当に沢山のコメントが届いた。
「先ず、一番最初の活動と致しまして、詩音の歌手デビューから始めたいと思います、本日はこの後、披露させていただきたいと思いますので、どうかお楽しみください。」
「その曲は、作詞も作曲も一人の方がしてくださいました、お名前などは御本人との契約とお願いもあり、明らかには出来ませんが、NaMeLess《ネームレス》さんと表記しております。」
まぁ、皆、正体は分かってるだろうな〜・・・だけど敢えて触れずにメモを取ったりしてる。
「それでは、詩音。」
「はいっ!後ろのステージで発表させていただきます!」
私は直ぐに、後ろのステージに登る、それに合わせて皆も幕から出てきてくれて最初の立ち位置に立つ。
「彼女たちも詩音と一緒にデビューする、バックダンサー兼コーラスです。」
「つまり彼女達で一つのチームと言う事ですね?」
「はい、そうなります。さぁ、始まりますよ、しっかりと聞き届けてくださいね?」
……………………………………………………………
「何よこれ・・・?なんで詩音が?」
「見て分かりません?新しい事務所での再デビューですよ?しかも、貴女の目論んだ詩音のタレント化をこちらでやりましたってだけですよ?」
俺の言葉にキッ!っと思い切り睨みつけて来る。
「まさか、最初からこれが目的だったのか?!これを私に見せつける為だけに!?」
「おー中々に賢いですね。貴女が手放した詩音を雪村に繋いでお願いしたんですよ。」
「このガキ・・・!!こんな事して唯で済むと思ってるのか?!」
「ハッ!唯で済むと思ってるのか・・・ねぇ〜?唯で済まないのは貴女の方でしょ?もう忘れたんですか?詩音が何をバラしたのか。」
その言葉に自分の不味い発言を思い出したのか、直ぐに真っ青な顔になる。
「ここからが大変ですねぇ〜?詩音にはファンも沢山いる、そいつらが黙ってると思います?ましてや今はSNSも発達しているのにどれだけ対処して消そうが直ぐに倍がけで増えて行きますよ?」
「くっ!そんなもの無視して、知らないと、捏造だと・・・「しゃ、社長!!大変です!!」何事ですか!?」
「各社メディア、ファンの方々、あの会見を見た人達から問い合わせと苦情が!!!」
さぁ、まだまだ始まったばかりだぞ?今は大成するのも早いが落ちるのはそれ以上に早いぞ〜?
「社長!!株価が!!株価の低下が止まりません!!!!」
「何ですって?!何とかしなさい!止めなさい!!」
「出来るわけ無いでしょう?!早く対応策を!!」
「あ〜らら?大変な騒ぎになりましたねぇ〜?今はど~んな気分ですか~??楽しんでます?こんな大騒ぎで注目されまくってますし?」
「楽しい訳無いだろ!!調子に乗るなよ!ガキが!大人の世界に首突っ込んでただで済むと思ってるのか!!」
「さぁ?まぁでも、俺が一人でここに居る時点で覚悟はあるくらいは理解できないものかね?」
「こっのぉ〜・・・!あぁ、そうよ!何とでも出来るじゃないー!!ほら!あんたら!そこのクソガキを捕まえな!取り押さえて契約書を書かせてYouMaで稼げば全部解決よ!ほら!全員でかかれば余裕でしょ!早くやりなさい!それでこのガキに全部嘘ですー!って言わせれば解決よ!!ほら!ほら!YouMaをレイプさせてあげるから!やりなさい!」
そんな社長の言葉に社長室に居た面々は揃って顔を見合わせ同じタイミングで頷いた。
そして・・・。
「「「やる訳無いでしょう?馬鹿ですか?」」」
「は・・・?何を・・・?」
「普通に犯罪だし、YouMa様にそんな事出来る訳無いじゃん。」
「つーかもうあんたの言う事聞く必要無いし?」
「な、なな、あんたら・・・クビよ!クビ!二度と業界で働けると思うなよ!!!!」
「はぁ~・・・クビならクビで結構です、払われてない残業代の請求するのでよろしくー。」
「てか、こうなったらもうあんたに何の力も無いじゃん。同じ脅ししか出来ない訳?」
「くっ、くくっ、あはははははっ。」
「何がオカシイ!!!」
「いやぁ~・・・滑稽だなっと思いましてね?」
「この!全部全部!お前のせいだろう!!!!」
その言葉と共に拳を振り上げて俺の顔を目掛けて思いっきり殴りかかってくる。
見てた人も「ちょ?!」、「何を?!」っと声を上げるが俺は敢えてそのまま動かなかった。
バキッ!っと鈍い音がして、「キャー!!!」っと悲鳴も上がるが俺は特に吹っ飛ぶ事も無く、そのまま拳を顔で受け止めた。
「ふっー、ふっー。どうだ!素直にこっちの言う事を聞け!お前みたいな調子に乗ってるやつはなー!黙って大人のおもちゃになってれば良いんだよ!お前はただの道具!商品!なんだからな!!!断るなら更に続けるぞ!分かったか?!クソガキ!!!」
「はぁ~・・・やっちゃった・・・。」
俺は何事も無かったかの様にソファーから立ち上がり社長にあるものを見せる。
「これなーんだ?」
「え・・・?スマホ・・・?なにっ・・・ぇ・・・まさか・・・放送・・・?」
「ピンポンピンポン~!だ~いせ~いか~いっ!」
「そ、そんな!だって通知なんて何も!!!」
そう、俺が胸元のポケットから取り出したスマホには今のやり取りが数万人に見られた状態での生放送が流れてる。
そこに流れるコメントには「早く通報して!YouMa様が殴られた!」、「クソガキとか好き勝手言いやがって!夜道歩けると思うなよ!!!」、「全部悪いのお前だろうが!!!」、「YouMa様を道具だの商品だの言いやがってフザケルナ!!!」、「詩音の事だけでも許せないのに!こんな事まで!!マジでゴミ!」等など・・・。
「そらねー、このアカウント俺のメインのじゃ無いし、妹に話したら喜んで協力してくれてね?このアカウントから放送するって事と、ある事務所に乗り込むって事をYouMa板に書き込んで貰ったりな?」
「な・・・何で・・・そこまで・・・!詩音一匹の為に?!ここまで乗り込んで来てこんな事までするの?!何でよ!!!!????」
「俺は言いましたよね?妹が詩音と仲が良いと・・・。俺が動く理由なんてそれだけで十分なのさ。」
「そんな事で・・・?ここまでの事を・・・?」
「あんたには分からないさ、自分の事務所に所属してるタレントやスタッフを道具や商品としか考えてないあんたにはね。」
俺の言葉に悔しそうにこっちを見ているがその目の光は弱くなってる、何かをしようとも、もう最悪にまで堕ちてる以上、何をしても無駄だと言うのは理解出来てるみたいだ。
「さって・・・貴女達はどうします?こいつと一緒に落ちます?それともこっちに付いて生き残ります?」
「勿論!協力させていただきます!」
「全部ぶちまけてやります!」
「取り合えずこいつは縛っておきますねー、理由はどうあれ暴力事件に発展しましたし、色々な書類を処分されても面倒ですからね。」
「ご協力に感謝しますよー。っと・・・皆もありがとう!嫌なシーン一杯見せてごめんね!」
俺はそう言って一先ず生放送を終わらせる、そしてちゃんと誰かが通報してくれたらしくパトカーのサイレンの音が聞こえ始めるのを認識しながらテレビの向こうで全力の歌とダンスを披露してる詩音の雄姿を俺は目に焼き付けたのだった。
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