第170話 奏 詩音

「え?私が・・・?歌手・・・?」


「ええ、このままモデルとしてやっていくのはいずれ限界が来るのは自分でも分かってるでしょ?」


「そ、それは・・・まぁ・・・。ですが、契約はモデル業で契約してるはずですけど?」


「ええ、そうね。だからタレントとして改めて契約をし直しましょう?」


「それは勝手が過ぎませんか?それならそれで話し合いをしてからなのが当たり前では?一方的に決めて、契約し直しましょう!ってのは・・・。」


「はぁ、あのねー。確かにモデルとして契約はしたわよ、でもそれだけじゃこれから先は困るから決めたの。大体にして事務所に所属してる時点で貴女はなの、私達は貴女達と言うを売らないといけないの、それくらいの事は分かるでしょう?」


商品って・・・いくら何でも酷すぎる・・・モノ扱いじゃん。

何でここまで言われないと行けないの?先に話し合いや説明を求めるのはそんなにおかしい事?

ふざけないでよ・・・そうだ、ふざけるな!


「だから黙って契約書にサインしなさい、これからもモデルしかして来なかった貴女を使ってあげるからっ!」


「分かりました・・・もう!結構です!!」


私はあんまりな対応に限界を迎えてテーブルを叩きながら立ち上がり部屋を後にした。

後ろから社長の騒いでる声を聞きながら。


……………………………………………………………

「まだ買い物するのか?菜月。」


「いえ、流石にこれ以上は。喫茶店で休んで行きませんか?兄さん。」


「そうだなー、流石に疲れたわ。」


「行きましょ!いきましょー!」


やれやれ、最近はあまり構えてなかったしテンション高めになってるなー。


「そういや、詩音さん?とは連絡とってるのか?」


「はい、たまにですけど話したりしてますよ?詩音さんが気になるんですか?」


少し周りの気温が下がるのと同時に菜月から冷たい視線が届く。


「その空気と目やめろー、単に何かをしてくるかな?って気になってただけさ。」


「兄さんも少しは警戒すると言う事を覚えてくれたみたいで良かったです。」


「言い方ァ・・・。はいはい、脇が甘い俺が悪かったですよー。それで?何か変な事とか要求とかは無いのか?」


「そうですねー、特にコレと言ったものは無いですね。歳の離れた姉って感じなので。」


「そうか、それなら良い。」


まぁ、俺も地雷原でタップダンスをする趣味も無いし何も無いならそれで良いや。

結論付けた俺は菜月と共に目の前の喫茶店に入り店員の案内の元、席に着く。


「それにしても漸く色々落ち着いたって感じがするな。」


「そうですね、この間まで何だかんだで忙しかったですしね。」


「菜月とこうやってゆっくり出来るのは嬉しいよ。」


「うっ///それは、私もですけど・・・///」


「何を照れてるんだ?」


「何でもありません!!兄さんはもうっ!」


「何だよ?女心と秋の空ってか?ってか、何か起こりそうとかそんな事言ってるとフラグになりそうで嫌だな・・・。」


「フラグ?何のですか?」


「何のってそりゃー。例えば、あそこでこっちを見てる人とかな?」


「え?・・・ってもしかしてあれは、詩音さん?」


「あはは・・・。お久しぶり、菜月ちゃん。悠馬さん。」


「お久しぶりです、菜月が世話になってます。良ければ一緒しませんか?」


「詩音さんお久しぶりですー!一緒しましょ!しましょ!」


「そ、それじゃ、お邪魔します。」


一度自分の席に戻り品を持って俺たちのテーブルに来た詩音さんの顔は緊張と何かが入り混じった顔をしていた。


「ごめんね?せっかく、兄弟水入らずで居たのに。」


「誘ったのはこっちだから気にしないでください。」


それからお互いの近況や世間話をしながら時間を潰してお互いに慣れたところで俺から切り出した。


「それで、何があったんですか?何か思い詰めた顔してましたけど。」


「ですね、どうしたんですか?私でも気付く位ですし余程の事ですよね?」


「えっと・・・それは・・・。」


「話しづらい事なら無理には聞きませんけど少しでも力になれるかもだしどうです?」


俺と菜月の提案に詩音さんは少しの間、悩んで俺達に話しかけてきた。


「実は・・・事務所から契約を切られるかもしれなくて・・・。」


「えぇぇ?!何でですか?!詩音さんの人気なら切られる心配ないんじゃ・・・。」


「社長からね、これからはタレントとしてやっていく方向で契約し直すって言われて、その最初の一手として歌手デビューを・・・。」


「凄いじゃないですか!!モデルだけじゃ無くて歌手やタレントとしてやっていけるなんて!」


「うん、そうなんだけどね・・・。」


「ある意味、出世みたいなものでしょ?何が不満なんですか?」


「それはその、社長にね?商品は黙って言うことを聞けと言われてカァーっとなって事務所から出て来てしまって・・・それで契約を切られるんじゃ無いかって思って。」


「なにそれー!そんな言い方酷すぎる!!無さ過ぎです!」


頭に来るのも分かるけど、実際に商品なんだよな、事務所からしたらさ。

言い方は悪いけど売らないと意味ないんだから本人に言うのは良くないけど・・・。


「取り敢えず二人共落ち着きなよ、社長さんの言い方は悪いけど、実際に商品なのは変わらないんだし。」


「兄さん!?!?」


「そ、そんな・・・酷い・・・。」


「だから落ち着けっての。芸能人は事務所に所属してる、事務所はそのタレントをレンタルして売上をあげてる、そのお金から所属してるタレントに給料を払ってる。つまり商品だろ?持ちつ持たれつなんてのは甘い考えだよ。大体にしてその立場に納得してるから契約してるんでしょ?」


俺の遠慮の無い言葉に二人共黙り込んでしまってるけど、1つの事実でしかない。


「と言ってもだ・・・それを本人に言うのは社長としても人としても間違えてるけどな。」


「なら私が間違えてるんですか?社長の言うとおりに商品として文句も言わずに黙って従うのが正しいと?」


「いや、そうは言ってないが今回の感じだと多分話し合いも相談も無く勝手に決められたって所でしょ?それでキレて出て来たっと。」


「う、うん・・・。」


「んでだ、まぁーこのまま契約も切られたら色々な違約金が発生して破滅すると。それが一番の心配って所なのでは?」


「はい・・・。」


「まぁ、何にしても甘ったれるなって感想しか出ないですけどね。プロの世界の事なんて分からないし?自分で選んだ道なんだから自分で足掻けと思うしな。」


「兄さん!!何とかしてあげられないんですか!?」


「無理だな、何と言っても俺は一般人だ。詩音さんみたいにプロじゃない。ただの高校生こどもなんだからな。」


「でも!兄さんならっ!」


「足掻く・・・。」俺の言った言葉に考えるそぶりをしてぼそっと呟いてるのを見届けながら菜月を宥めていたら本人が俯いて居た顔を上げた。


「菜月ちゃん待ってっ。私が甘かったのはよく理解出来たから。」


「詩音さん・・・。」


「悠馬さん、少し足掻いてみます。だからまたお話し聞いて貰っても良いですか?」


「俺みたいなガキで良いなら幾らでも聞きますし意見しますよ。」


「うんっ!ありがとうっ!戻って話してみる!」


「行ってらっしゃいー。」


「菜月ちゃんもまたねっ!」


「えっ?!えええっ?!詩音さん?!」


そのまま奏 詩音が出て行く背中を俺は見送るのだった。


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SIDE 菜月


「菜月、詩音さんに俺のフリッペとか教えておいてくれ。」


「ふぇ?!兄さん?!」


「もしもし・・・うん、ちょっとお願いをする事になるかも?」


兄さんは電話をしながら私から離れてお店の隅の方に歩いて行く。


「な、何なんです・・・?何を考えてるんですか?兄さん。」


「菜月、帰るよー。」


「えっ?あっ!はいっ!待ってくださいーっ!」


私達と詩音さんの伝票の2枚を持っていく兄さんの後を私は追いかけるのでした。

と言うか・・・詩音さん精算しないで帰ってたんですね・・・。


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