第101話 第8楽章 一つの答え
「素敵なリフレインね。」
演奏が終わり直ぐにいつの間に部屋に居たのか伶佳さんからそんな言葉が飛んで来た。
「お母さん、何時の間に・・・。」
「少し前からね、丁度良いし休憩したら?」
「ありがとうございます、何かすいません。」
「気にしないで、悠馬くん。」
俺達はそれぞれでお礼を言って伶佳さんの用意してくれたお茶とお菓子を楽しんだ。
「うぅぅ・・・夕飯前だからこんな美味しいお菓子そんなに食べれないのが辛い・・・。」
「愛央さん・・・、気持ちは分かりますけど。」
「ふふっ、余ったら帰りに包んであげるからね?」
「ありがとうございます!」
やれやれ・・・確かに美味しいから気持ちは分かるけどさ・・・。ふと、早苗さんを見ると天井の方を見ながらぼけーっとしてるのが見えた。
「早苗さん?どうかしたんですか?」
「えっ?!あ、ごめんなさい。何か簡単な事なのに気付かないものなんだなーって・・・。」
「あぁ、そんなもんですよ。気付けば簡単な事なのに悩んでる間は分からないものです。」
「そうだね、私も分かるかな~、悠馬を一度、フッて傷つけた時に・・・。」
「えっ!?悠馬さんを振るとか・・・。」
「ナハハ・・・。」っとバツの悪そうな苦笑いをしながら愛央はその時のことを語り始めた。
「あの時、悠馬から好きだって言われた時もの凄く幸せで嬉しくてこれで特別になれるって思ったんです・・・。でも、直ぐに何も特別を持たない私が特別な塊の様な悠馬の隣に立てるのか?って思っちゃって気付いたらごめんなさいと一言だけ言ってその場から逃げてしまったんです。」
「そんな事あったんだ?それなのに今はお付き合いしてるんだよね?」
「はい、志保さんに引っ叩かれて清華先輩にも怒られて悠馬が、配信で好きを舐めるな!って言ってくれて私は自分の悩みが本当に小さいなって吹っ切れたんです。」
「あぁっ!あれかぁ~・・・。あの配信の次の日は学園も大騒ぎだった、お嬢様連中と来たら・・・。」
「女子高に通う子って男嫌いってのばかりだと思ってたけどそうでもないのかな?」
「勿論、そう言う子も居るけど普通に羨ましがってるのが多かったかな、将来的にはお金に物を言わせて誰かしらは手に入れるんだろうけどあんなに情熱的な事してくれる人なんていないしね。」
「そんなに騒ぎになったんですか?他校の事なのに。」
「そりゃ勿論っ。YouMaのファンって子も多いし彼氏にしたいって人ばかりだし、それと誰なんだろー?!って騒ぎになってたし。」
うへぇ・・・これで何かで女子高に行ったりしたら凄い事になりそう・・・行かない様にしよう、うん。
「あ、あはは・・・私も行かない方が良さそうですねそれ・・・。」
「いや、流石に大丈夫よ。愛央ちゃんの心配も分かるけど何かしよう何て人は流石に居ないと思う。」
「まぁ、悠馬さんを激怒させるやからが居るとも思えませんけど・・・。」
「だとは思いたいけどな・・・。実際にそうなった時にどうなるかは分からん。何も無いのを願うだけかな~・・・って何か俺が女子高に行く流れになって無いかこれ?」
「「「た、確かに・・・っ。」」」
はぁぁぁ~・・・気にしても仕方ない事を考えてる事に気付いてため息が漏れたのだった。
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「さて、それじゃー遅くなりすぎる前にお暇しますね。早苗さんももう大丈夫でしょうし、後は本番まで頑張ってくださいね?」
「うんっ!本当にありがとうございました!絶対今日の事を忘れずに演奏しきって勝って見せる!」
「頑張ってくださいね!早苗さんのリフレインなら絶対に大丈夫です!」
「頑張ってください、悠馬さんの顔に泥を塗らないでくださいね?」
「し、志保ちゃん・・・。確かにその通りだけど辛辣ぅ・・・。」
「私くらいはしっかりと言わないといけませんからね、悠馬さんの為に憎まれ役になるくらい何でもありませんし。」
ぽんぽんっと志保の頭を撫でてそう言う事しなくて良いと言葉にしなくても伝えながらも苦笑い・・・。
「うんっ。絶対に塗らない!ここまでしてくれたんだもん。本番までに私の演奏を完璧にして見せるよっ。」
「清華先輩も連弾の方頑張ってください。」
「うんっ!ありがとねっ!」
「それじゃ、この辺で今日の所は・・・。」
そう言って俺達は清華先輩の部屋を後にして玄関まで行くと既に伶佳さんが待っていてくれて、余ったお菓子をそれぞれに持たせてくれて、俺達はお礼を言いながら伊集院家をお暇するのだった。
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SIDE 早苗
「早苗はどうする?」
「もう少しいてもいい?連弾の方も打ち合わせしたいしさ。」
「うん、いいよっ。どうせなら夕飯も食べて行きなって、ちょっとお母さんに話して来るね。」
「うん、分かった、ありがと!」
私は清華の背中を見ながら鍵盤に手を触れる。
「私の、私が奏でるリフレインか・・・。」
愛である必要は無い、必要なのはのせる強い想い、愛央ちゃんへの想いが形になった曲だから愛で無ければ駄目だと思っていたけどそうじゃなかった。
そもそもにして、私自身がいつの間にか無くしていた想い、清華に勝ちたいと言う気持ち、夢を叶えたいと言う思いをのせればそれで良かっただけ・・・。
こんな簡単な事にも気付けなかった位に私は目が曇っていたんだっと気付かされた。
「いつだって・・・誰かを・・思う・・・、その思いは、思いには多種多様な物があって当たり前で、大切なのはその気持ちに、思いに嘘をつかない事・・・。」
まったく・・・どこまで素敵なんだろ?こんなに簡単に解決されるなんて・・・ね?
「お待たせ、それじゃー何をやるか話し合おうかっ!」
戻ってきた清華に私は笑顔で頷いて本番に何をやるのかを話し合うのだった。
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「良かったですね、早苗さんの事が上手く行って。」
「まーね、でも本当に上手く行くかはこれからだし最終的な結果はまだ分からないよ。」
「それは・・・そうですけど・・・、悠馬さんは何か気になる事があるんですか?」
「勘みたいなものだけど一悶着はありそうな気がするんだよね。」
「勘かぁ~、悠馬の勘は馬鹿に出来ないもんね。んぅ~・・・早苗さんの学校に行く事になったりして?」
「しかも女装してとかですか?」
帰り道、二人揃って楽しそうにそんな事を言ってくるし、行かなきゃ行けなくなりそうだなっとは考えてはいたけど・・・女装も必要なのか?
「女装も必要ならいかねーよっ!ただ行くだけなら別に良いけどさ・・・。」
「ぇーしようよー!そして早苗さんを苦しめてる奴等の女の子として大切な物をぶっこわせー!」
「何言ってるんだか・・・。」
「悠子ちゃんなら色々とやれちゃいそうですしねっ。」
まったく、俺の彼女達と来たら・・・まぁ、楽しいから良いけどね。
「はいはいっ。良いから早く帰ろうぜー、腹も減ったし明日もあるんだしね。」
俺達は手を繋ぎながら清華先輩の家からの帰り道をゆっくりと歩いて行く。
夏が近づき日も長くなってもまだ暗くなる前の道を夕日を背にしながら。
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