第6章 伊集院 清華編
第93話 prelude 始まりの音色
私がそれを見たのは何時もの練習から帰宅して部屋で言われた事を考えて居た時だった。
「清華さん、貴女の音には心が、気持ちが乗っていません。結果、貴女の演奏では人に感動を与えられません。昔の貴女は何処に行ってしまったの?」
そんな事を言われても今の私には全く理解出来なかった。
今までと変わらずに演奏していただけそれなのに音に心が乗って居ないって言われても困る。
「はぁ・・・。音に心ねぇ~・・・。っと、優希から、なんだろ?」
えっと・・・「直ぐにSoo Tube開いて!YouMaで検索して動画見て!男性の演奏と歌唱動画投稿がされてる!」っとフリッペに連絡が来ていた。
「男性の演奏と歌ねぇ~・・・。男のフリをしている女性ってだけじゃないのこれ?」
いつも男性が投稿してるって話が出ても直ぐに女性が男性のフリをしているのがばれて炎上するしさ。
「出て来た、えっと・・・。あの大空の果てまでね。一先ず聞いてみようっと。」
何これ・・・・。
「これは間違いなく男性・・・だよね?それに・・・綺麗な声、技術も凄い。」
それに、楽しそう。そう、この人の演奏は凄い楽しそうだった。
「指が凄い楽しそうに踊ってる。歌も良いし何よりも音に心が・・・。」
そっか、先生の言っていた事はこう言う事かっとストンっと私の心に落ちた。
「楽しいっていつからだろう思わなくなったの。だから音に心が乗ってないって言われるんだ。」
やっとわかった、先生の言っている意味。
私はいつの頃からか演奏を、ピアノを楽しいと思えなくなっていた。子供のころからやり始めて上手くなっていってコンクールでも賞を取るようになってそれが当たり前。
出来て当たり前、賞を取れて当たり前、楽しいなんて感じる事は無くなっていた。
だから音に心がのってないと言われたのだろう。
「あはは・・・。私は何をしていたんだろう・・・。こんなに簡単な事なのにな~。」
私はYouMaの動画と歌を何度も何度もリピートして聞き続ける。
「私も・・・私もこの曲・・・。」
何度も聞いている内に私の心には一つの思いが生まれていく。
「弾いて、歌ってみたい・・・。」
ふっと、自然と口をついて出た言葉に自分でも驚きながら、耳コピしかできないけどやれるだけやってみよう。
納得の行くレベルになったらストリートで演奏してみよう。
そう、自然と今まで思いつきもしなかった事を考えながらじっくりと耳を済まして先ずは歌詞から書き出すことにした。
その行動の結果はまさかの本人との邂逅、更には楽譜データまで貰えて学校の後輩になるなんてどんな奇跡なんだろう?っと本気で思った。
「ふふっ。逆月 悠馬君か・・・。カッコいいし優しいし他の男性とは違うね。これ、優希に言ったらうらやましがれるかな?ずるいぃぃぃって言われそうっ。」
YouMaを私に教えた事も後悔しそうだなーっと思いながら楽譜データを取り込んで印刷してピアノの前に設置する。
「よし・・・・っ。次の目標は部活見学の時までに完璧にする事っ!悠馬君を驚かせてあげるんだからね!」
ついでに愛央ちゃんと志保ちゃんも!今日、悠馬君と一緒に知り合った後輩になる女の子達と悠馬君を思い浮かべながら私の指は鍵盤の上で踊り始めたのだった。
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私が次に悠馬君を見たのは入学式だった。
新入生代表挨拶、首席入学、最高得点大幅更新。
とんでもないことをして彼は挨拶をこなしていた、その姿は堂々としていながらも自信に満ち溢れて、とても輝いて見えた。
何より、壇上から私を見つけてくれて柔らかく笑いながらの挨拶は私だけではなく、在校生も新入生も教師も見惚れているのが回りを見なくても理解できたのだった。
その日は結局、会うことは叶わずに終わってしまったのだけは残念だったけど、次の日には悠馬君から会いに来てくれたのはとても嬉しかった。
制服姿も可愛いと言ってもらえて手まで握ってくれて・・・まぁ、一緒に居た子達からどういう事なのかと責められまくったけど・・・。
そして、部活紹介の日。
体育館に現れた彼はクラスメイトと談笑しながらも、愛央ちゃんや志保ちゃんにも手を振って声をかけてたのは羨ましいな〜っと思いながらも流石は悠馬くんだな〜っと関心したり、私の時にまた連弾してくれないかな〜?っと思ったり。
全部の紹介が終わり、最後に吹奏楽部の紹介。
私の番になった、勿論私はあの大空の果てまでを演奏して回りが騒がしくなるのを確認していたら誰かが近寄ってくるのが分かって私は自然と笑顔になった。
「もう、完璧。清華先輩流石です。」
悠馬君の言葉に胸の中から、嬉しさ、恥ずかしさ等の色々な感情が溢れてくるのを感じながらも自然を装い、座る位置を少しずらしたら何も言わなくても座ってくれてあの時の様に連弾をして、部活紹介は大盛り上がりで、幕を閉じた。
その後は見学に付き合ったり、何気ない日常を繰り返して、愛央ちゃんと悠馬くんが付き合い始めたり、志保ちゃんの為に危険が増えるかも知れないのにモデルまで
「悠馬くんの中で私はどんな立ち位置なのかな?ただの先輩?仲の良い女友達?それとも・・・一人の女として見てくれてるのかな?」
ふと、そんな言葉が私の口から零れた。
何気ない日常を繰り返して悠馬くんの沢山の顔を見て私の心はすっかりと彼に奪われてしまった。
愛央ちゃん、志保ちゃんと二人共恋人になったから最初の三人である私もちゃんと気持ちを伝えるんだっと改めて決心して朝の支度を終えた私は「いってきます。」っと母に声をかけて毎朝の待ち合わせ場所に向かう。
そして、彼が来る前にもう一度、一緒に待ってる愛央ちゃんと一緒に、身嗜みを整えて朝一番の最高の笑顔で私が恋をしている年下の男の子に・・・こう言うのだ。
「悠馬くんっ!!おはよっー!今日も頑張ろうねっ!」
それが、私、伊集院 清華の一日の始まりなのだ。
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