第73話 男子を折る悠馬

「兄さんーきたよー!」


「悠ちゃんきたわよ!」


お昼を少し過ぎたあたりに母親と菜月が来店してくれた。


「二人共いらっしゃい~。カウンターしか開いて無いけどいい?」


「「勿論!」」


「葵さんと菜月さんもいらっしゃいませ。」


「志保さんお邪魔しますー、これ兄さんに頼まれてたものです。後で食べてください。」


二人の事は志保が対応してくれるみたいだから俺は次のお客さんの所に向かった。


「いらっしゃいませ。3名様ですね、こちらへどうぞ。」


母さんたちがカウンター席に着いた後に丁度テーブルが開いたからそっちに案内したんだけど、珍しくも男子を連れたご家族だった。まぁ・・・甘やかされてるのが見て分かる見た目だったけどな。


「ご注文がお決まりましたらお呼びください。ではっ。」


「あのっ!YouMaさん!」


「何でしょう?」


俺が離れようとしたら直ぐに男子が俺に話しかけて来た。


「えっと・・・あの・・・。」


「どうかなさいましたか?お客様。」


「えっと・・・あの・・その・・・。」っと何時までも要件を話さない事に少しイラっとしながらも静かに待っていたらお母さん?が声をかけてくる。


「ごめんなさいね、YouMaさん。この子がどうしても会ってみたいと「うるさいな!俺が話してるんだから黙ってろよ!」・・・ごめんね。」


はぁ・・・こいつ、まだキレるのは早いけどちっと不味いかもしれんっと思っていたらいつの間にか俺の隣に菜月が立っていた。


「おい!お前何を隣に立ってるんだ!俺の邪魔をするな!女のくせに!」


「黙れ・・・・。俺の妹に何て口開きやがる。」


「え・・・女なんてどう扱っても良いでしょう?この記事だって記事用のネタでしょう?YouMaさん。」


「聞こえなかったか?黙れと、言ったはずだが?こいつは俺の妹だ、俺の妹に舐めた口をきくな、俺が許可するまで無意味に吠えるな、俺の質問にだけ答えろ。」


底冷えする声で俺はこの男とその家族を睨みつけると声と雰囲気にびびったのか素直に座り直したのを見下ろしながら話す。


「お前には何が出来る?一人で何が出来るんだ?お前が今生きているのは一緒にいるご家族のお陰では無いのか?」


「あの、それは・・・。」


「答えろ。」


「はい・・・。姉と母親が世話をしてくれてるからです・・・。」


「そうだよな?仮にお前ひとりで生きて行かなければならなくなったらどうなる?」


「それは・・・。」


「食事の一つも出来ないのではないか?あぁ、買えば良いとでも思ってるか?その金は何処から持ってくる?国からの支援を頼るか?その支援で今よりも、もしくは今と同じ水準の生活が出来るのか?」


「無理です・・・。無理だと思います・・・。」


俺の質問に小声になって涙目になりながらなんとか答えてるこいつに自分でも話しててイライラするのを抑えられなかった。


「そうだよな?つまりお前は一人なら死ぬしか無い訳だ。では次だ、無人島と言わなくてもお前のほかに人が居なくなったらどうだ?食べ物を買う事すら出来ないのではないか?」


「はい・・・その通りです・・・。」


「スーパーでもコンビニでも直ぐに食べれるものを作っているのは誰だ?もしくは食材を作っているのは誰だ?」


「それは・・女共です・・・。」


ここまで聞いても女共か・・・。


「ならば何故そんなに傲慢になれる?男だからか?男である以外に何も出来ないお前はそんなに偉いか?そんなにブクブクとデブって家族がお前を見捨てたら誰が喜んでお前の世話をする?」


「いや、それは・・あの・・・。」


「あぁ、種の保存って意味で種馬扱い位は出来るかもしれんな。と言ってもそんな不健康じゃ種馬としても用無しだな。さて・・・改めて聞こうか、お前はそこまで偉いのかね?価値があるか?」


俺の質問に答える事すら出来なくなって、あの、その、えっとっと言葉にならないで縮こまってる。


「それと、ご家族もご家族だ。こんなになるまで甘やかして傲慢に育ててこいつが将来犯罪を犯したらどう責任を取るのですか?あぁ、家の子じゃない!こんなやつ知らない!っとその時は捨てれば良いから関係無いか。」


「「そんな事しません!こんなんでも可愛い息子(弟)です!」」


「だそうだが?これを聞いてお前は何も感じないのか?」


こいつもご家族も俺の言葉に何も言えなくなって黙り込んでしまってるを見下ろしながら背中に庇ってた菜月が前に出て声をかけた。


「その記事に書いてる事は本当ですよ。兄さんは私達にも優しいし、他のご友人にも周りにも優しいです。でもそれは下心がある訳じゃ無く、自分が好きに色々な事を出来るのは周りや社会の人達が普段頑張ってくれてるのを知ってるからです。だから記事の通り感謝を忘れない様にしてるんです。」


「え・・・?本当なんですか?」


「あぁ、本当だ。俺がこんな風に好き勝手に出来るのは母や妹のサポートや周りの支えがあるからってのを理解しているからだ。だから俺は常に感謝を忘れないってだけだ。」


「感謝・・・・。」


「俺の真似をしろとは言わん。だがな、お前が普段好き勝手にわがまま放題を出来るのは今一緒に居る姉と母親のお陰じゃないのか?」


こいつは決して馬鹿じゃない、俺の言った事の意味を考えこんでるのを見てそう感じたから更に話を進めた。


「お前さ、何かやりたい事とか夢とか無いのか?」


「ぁ・・・夢って言うかやって見たい事はあります・・・。」


「言ってみろ。」


俺達のやり取りを聞いて店内もシーンっとして見守ってるのが気にならないと言えば嘘になるが・・・。


「その、パティシエになりたいって、やってみたいって思ってるんです。昔に母さんが買ってきてくれたケーキを食べた時に自分でも作れるようになりたいっておもって・・・。」


「そうか、ならそれを叶えるために今のお前は何かしているのか?」


「何もしてません。」


「菜月、あれ持ってきてるよな?こいつに出してやって。」


俺の言葉にって顔をしながら離れて行って俺が持ってきてくれって頼んでいた物を取りにカウンターに戻って行った。


「その夢を叶える為の金は何処から出る?母親や姉の稼ぎから出るのでは無いのか?

良いか?俺達、男が好き勝手出来るのは全て世の中の女性が頑張ってくれているからだ、これはどれだけ言い訳しても変わらない。そして優しさってのはな、自分にも跳ね返ってくるんだ、自分が優しくあれば相手も優しくしてくれる。お前だって、無理やり言う事を聞かせようとするやつや乱暴な奴に何て何もしてやりたいとは思わんだろ?それと同じだ、だからこそ俺の周りは静かなんだよ、別に狙ってる訳ではないが俺の優しさが周りを穏やかにしてるんだ。と言ってもこれは俺もここ最近で理解したけどな。」


「優しくすれば優しさが返ってくる・・・。」俺の言葉を吟味してるいるかの様にぶつぶつと考えてる所に「兄さんお待たせしました。」っと菜月が持ってきたのを受け取って目の前においてやった。


「あの、これは?「食ってみろ。」・・・はい。」


「いただきます・・・。」っとぼそっと言いながら目の前のケーキをゆっくりと食べ始めて直ぐに・・・。


「美味しい・・・。」


「それ、俺が作ったやつだ。」


「え・・・?ええええええ?!本当ですか?!」


「あぁ、俺が作ったやつだ。ちなみに特にどこかで勉強したとか修行したとかも無い。俺が言いたい事理解出来るか?」


「えっと・・・。自分で努力すればこうなれるって事ですか?」


「あぁ、そうだ。独学でもここまで出来るんだ。俺みたいになれとは言わない、でもな?母親や姉、お前が今の生活を出来るのは間違いなくその二人のお陰だ。だからその二人に位は感謝して生きろ、それなら難しく無いだろう?」


「はい・・・。」


俺の言葉を聞いてこいつの母親が声をかけてきた。


「あの、YouMaさん、ありがとうございます。私達も男の子だからってだけで甘やかして居ました。それじゃ駄目なんだと気付けました、だから、ありがとうございます。」


「やりたい事あるならちゃんと言って、協力するからさ。あんたの作ったお菓子食べてみたいよ、私。」


「うん!うん!ごめんなさい、ごめんなさい。」っと泣きながら家族に謝ってるこいつを見ながらもう大丈夫だなっと判断して離れる事にした。


「では、自分はこれで。」


「あの!俺も!俺も!YouMaさんみたいに作れるようになって見せます!そしたら食べて貰っても良いですか?!」


「楽しみにしとくよ。それとちったぁ痩せろ。お菓子作りは体力勝負だぞ。」


そう言って菜月を連れて離れてカウンターの方に戻るのだった。


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