第5話 退院して

「んぅ〜〜〜!!はぁぁっ!外だー!って・・・さむっ!」


あれから更に4日、検査だ何だでそれくらいの期間入院していた。


1月も半ばを過ぎて後半に入ろうとしているところであるから寒いのはあたり前だけどね。

ここからが忙しいし余裕も無くなるのは間違いない、菜月が春から中3でひとつ上が俺だから、現在15歳、春から高校生らしい。

実際は行かなくて家庭学習で毎週出される課題をクリアして提出する方法ってのを続ける人が多いと雑誌には書いてあった。

その次に男子校に通い高校生活をする男子、共学校に通い生活をする男子っと分かれるらしい、男子校に行くのが殆どってのを見て驚愕したのは新しい記憶である。


年頃男子なら共学校通いだろー?!JKよ?!JK!!ましてやこの世界は男子が少ないからなのか女子のレベルが総じて高い!それなのにむさ苦しい男子校に行くなんて全く理解出来ません!

なので、俺は共学校に進学するとは決めたけどまだどんなところがあるのかを知らないからそれを調べて母さんに手続きを頼んだり必要なものを買ってもらったりと、やることは多いのだ。


「ふふっ。気持ちよさそうね、悠ちゃん。」


語尾にオンプが付きそうな言葉が隣の母さんから飛んできた。


「そりゃーそうでしょ。寒いのは寒いけど、開放的な外だもん、温かい院内も勿論良いけどやっぱり人間は外に出て光合成しないとね!」


「光合成って、植物じゃないんだからっ、もうっ。確かに必要なのはわかるけどっ。」


そう言ってくすくすと笑う母さんと一緒に俺も笑って、車に荷物を積み込んだ。


「さて、それじゃ・・・。本当にお世話になりましたっ!!」


ガバッとしっかりと腰を折って担当医と担当看護師の柚希さんに挨拶。

その後、病院の他の職員さん達(何故か皆で見送りに来てる。)にも挨拶。

病院を見上げてみると、窓から手を振っている患者さん達にも手を振って挨拶を済ませた。

でもさぁ〜・・・・。


「見送りは嬉しいですけど、何で皆さん揃って・・・?」


「仕方ないじゃ無いですが、悠馬くんの優しさに触れたり話を聞いたりした皆さんが退院出来て嬉しいのと会えなくなるのが寂しいのとで少しでもっとなった結果がこれです。」


「ある意味、これは悠ちゃんの責任・・・。」


「ぇぇえ・・・。そんな事言われても普通に当たり前のことをしただけだよ俺・・・。」


リハビリでは無いけど入院している間、院内を歩いたりしていたのだ、その時に階段でお婆さんの荷物を持つのを手伝ってあげたり、購買の店員のお姉さんや、入院してるおばさま達、お婆さん達の話し相手になったり、菜月に頼んで来る前にケーキを買ってきてもらってそれを二人で看護師さんや担当医師さんとかに渡したり等などしてたら、こうなってしまった訳だ・・・。


「いやまぁ〜、嬉しいのは嬉しいですけどね・・・。」


苦笑いをしながら後頭部を掻いてると母さんから声がかかった。


「そろそろ行きましょうか、悠ちゃん。」


「うん、名残惜しいけど何時までも皆さんを拘束するのもね。・・・っと言うわけで、本当にお世話になりましたっ!!」


そう言って、車に乗り込もうとした俺に「退院おめでとー!」「元気でね!!また会おうね!!」「何時でも戻ってきてね!」っと声がかかる・・・。


「いやだから!戻ってきてね!は駄目でしょ!!」


っと、皆で大笑いをして、車の窓から手を振って、母さんの運転する車でお世話になった病院を後にするのだった。


…………………………………………………………

SIDE 葵


今私は車を運転しながらチラチラと悠ちゃんを見ていた。

当の本人は、窓の外を見て町並みや通行人を眺めていた。

私も仕事があって、常に側に居たわけじゃ無いけど、菜月や、医師、看護師さん達からの話で色々やっていたのは知っている。

お婆さんの話し相手やお手伝いとか、優しい行動に関しては文句は無いしむしろ流石は悠ちゃん!!って褒めるところだけど、それなりに若い人やおばさま達からも人気が高くなってた事、警戒心が怖いくらいに低くなってるいることに関しては心配を通り越して手遅れになるような事にならなくて良かったと心から思う。


「母さん、俺が心配?」


「えっ!?どうしてそう思ったの・・・?」


「そんな顔してたからね。それに俺が何をしていたのかは聞いてるんでしょ?だから、何もなくて良かったってのと、心配だなってところでしょ?」


「そうだけど何で分かったの?」


「そりゃ、分かるって。自分がやってたことだし、さっきからチラチラ見てたし幾ら何でも気付くよ。」


「ご、ごめんね!見ちゃったりした。」


「んーん。それは構わないよ。安心してって言っても無理だろうけど、俺だって無警戒じゃないよ、自分からおかしいやつとかには近づかないしさ。それに思うんだ。」


「思うって?」


「ニュースとか見ててさ、女性が男性に〜とか男性の態度がどうの〜とかそれを見て思ったんだけど、無理やりとかになるのは当然の結果何じゃないのか?ってさ。あ、でも擁護してるとかじゃないからね?」


「うん、それは分かるけど・・・。」


「相手が横暴で傲慢、それならこちらも下手に出る必要無いだろ!ってなるのが、その手の犯罪の答え何じゃないか?ってさ。社会に出てない子供が何言ってんだって思われるかも知れないけどね。」


「思うわけ無いでしょ!」


「んっ、ありがと。それでね?それなら自衛をするって意味でもこっちから優しく対応してれば余程舐めた態度を取ってくる奴ら以外は優しさで返ってくるんじゃない?ってさ。」


「母さんだって、優しい人にはその優しさを返すでしょ?」っと悠ちゃんは言った。

でも、確かにその通りだ、全員が全員では無いにしても誰だって優しさ、思いやりには同じく優しさや思いやりで返す、それは男女共に変わらない。  


「そうね・・・、確かにその通りね。全員が全員では無いけど基本的にはその通りね。」


「だから、優しいってのとは違うんだよ、俺の行動はそういう意味があるってだけの話。まぁでも・・・。」


「でも?」


「それだけってのは寂しいし疑う事だけになるのは良くないよね、難しいけど。心配してくれるのは嬉しいし俺も出来れば心配はかけたくないけど心配するなってのは無理なのは分かってるし俺も母さんの立場なら常に心配は尽きないと思う。うん、まぁ・・・何言いたいか分からなくなってきた・・・・。」


「もうっ、何よそれ。でも、何となくは分かったかなっ。悠ちゃん!やりたい事なんでもやりなさい、応援するからね!遠慮しないで何でも話してちょうだい。駄目な事はしっかりと駄目って言うからっ!」


「うんっ。母さん、ありがとうっ。」


そう言って悠ちゃんは素敵な笑顔を私に見せてくれた後、照れたように窓の外に視線を向けるのだった。


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