第2話 葵と菜月

SIDE 葵


ピッピッピッピッ……

綺麗で静かな病室に電子音だけが響く。

私は最愛の息子の手を握りながら静かな時間を過ごしていた。


「気付けなくてごめんね……ごめんなさい、悠ちゃん……」


取り乱した私とは違って娘の菜月は冷静に対応して救急車を呼んでくれた。

私が取り乱しすぎたのが原因ではあるんだけど一段落した後、菜月も大泣きして、今は泣き疲れて眠ってる。


「お願い、目を覚まして……私の命と引換えでいいならいくらでも差し出します、神様……どうか……」


そして、悠ちゃんが眠ったまま一週間の時間が過ぎた……


…………………………………………………………

SIDE 菜月


「悠ちゃん?!ゆうちゃん!!起きて!いや!いや!お願いよー!!」


ママが取り乱してるのを見て私は逆に冷静になれた。

兄さんが心配じゃ無い訳じゃない、私だって泣きたい、でもママがこの状態じゃ手遅れになって最悪だってあるかもしれない。

私は急いで部屋に戻ってスマホから救急に連絡して、指示を仰いで到着を待つことにした。


「ママ!良い加減に落ち着いて!!ママが取り乱したままじゃ兄さんが!ママにしか出来ないことあるでしょ!!」


「な、菜月ちゃん……うん!!悠ちゃんを見てて!!」


そう言ってドタバタとママは部屋から出ていって色々と準備を始めたようでした。

そして、私は……


「にぃ…さん……ぅぅっ……ぅぐっ。」


泣かない、まだ泣いちゃ駄目。

今泣いたら止まらなくなるから泣いちゃ駄目。


「せめてこれくらいは……」


何も出来ない自分を恥じながらも床に倒れたままの兄さんを横向きにして、頭を自分の太ももに。

その姿勢のまま、私は救急車の到着をまだかまだかっと思いながら待つことになりました。


そして、無事に病院について検査をして目が覚めるまで入院することになりました。

私はそこで緊張の糸が一度切れてしまい我慢してた涙がとめどなく流れて、気付けば泣き疲れて寝てしまいました。


それから……毎日、放課後に兄さんのところに行き目覚めるのを信じて待つことに……

私とママの願いもむなしく兄さんが倒れて一週間が立ちました。


…………………………………………………………

SIDE 葵&菜月


「ママ……」


「大丈夫、先生の話を聞きましょう。悠ちゃんは絶対に大丈夫。」


まるで自分に言い聞かせるように私は菜月にそう話す。

今、私達は悠ちゃんの担当医師の部屋の前に来ている。

あれから一週間、いつ悠ちゃんの心臓が止まるのかっと恐恐としながら過ごしていた。

そして、これからの事の話、精密に検査して一週間かかった事のお話を聞くために菜月とここまできた。


コンコンっ


「「失礼します。」」


「逆月さん、先ずはお座りください。」


先生に促されて私達は椅子に腰掛ける。


「それで、先生。ゆうちゃ……息子は大丈夫なのでしょうか?」


私の言葉に菜月は手を握ってきて……それに答えるように私も握り返す。


「順を追って説明しますね。先ず、血液検査、レントゲン、MRI等あらゆる検査の結果、異常は見当たりませんでした。実に健康な身体をしています。脳波の方も特に異常もありません。」


説明を聞いて私達はホッと一息をついた。


「それなら何故、兄さんは目覚めないんでしょうか?」


「問題はそこなんです。異常が無いにも関わらず目覚めない……本当にただ寝ているだけなのです。まるで心が起きるのを拒んでいるかのような……」


目の前が真っ暗になった……起きるのを拒んでいる…?


「ママ!!」「逆月さん!!」


あまりの答えに椅子から落ちそうになった私を菜月が支えてくれて先生も申し訳無さそうな顔でこちらを見ている。


「すいませんでした、軽率でした……」


「いえ、はっきりと言ってもらえたほうが助かります……」


下手な希望をもたされるよりは言われたほうが良い…心構えが出来ている、いないは別として……


「それともう一つ、倒れた時に頭を押さえていたっと言ってましたよね?それは激しい頭痛に耐えるようなものでしたか?」


「はい、兄さんは頭痛を抑えるみたいに押さえながら倒れました。」


呆然としている私を見て菜月が代わりに答えてくれた。


「これは可能性の一つなのですが……」


「何ですか?はっきり言ってください、先生!」


「分かりました、先ずは最悪のケースをもうお分かりかもしれませんが、このまま死ぬまで目覚めない可能性があります。もう一つは目覚めたとしても記憶障害があるかもしれません。お二人を分からないっという可能性があります。」


死ぬまで目覚めない?目覚めても記憶が無い…?

そんなのどちらも辛すぎる…でも……でもっ!!!


「目を覚ましてくれるなら…記憶が無くても、目覚めてさえ貰えるなら……っ!」


「私も、兄さんが私を忘れるのは辛いです、でも、寝たままなのはもっと辛いです。兄さんの声が聞きたいです、頭を撫でて欲しいです……だから目覚めてくれるなら記憶位は…位はっ!」


そこまで話して菜月は我慢の限界を向かえて私の胸に飛び込んで泣き出した。

私も菜月を抱きしめながら頭を撫でて同じく涙を流した。


「分かりました。私達も最善を尽くします。必ず、目覚めると信じて待ちましょうっ!」


部屋には私達親子の嗚咽の声と無情にも時を刻む時計の針の音だけが響いていた……

どれくらいそうして居たのだろう?誰かが廊下を小走りしているパタパタと言う音が近づいて来たと思っていたら。


ガラガラガラガラ……バンっ!っと勢いよく扉が開き悠ちゃんの担当でもある看護師さんが息を切らせながらこう言ったのだ。


「はぁはぁ……!はぁはぁっ!目を覚ましました!逆月悠馬くんが目を覚ましました!直ぐに来てください先生!」


っと、私と菜月は言葉を理解するのに時間がかかってしまいぼーっと看護師さんを見詰めていた。


「お母さんと妹さんも一緒に!目を覚ましたんですよ!」


「「ほ、本当ですか?!」」


「本当にです!さぁっ!」


「「はいっ!」」


私達は笑顔で直ぐに荷物を持って悠ちゃんの部屋に向かう事にしたのでした。


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前のとは違いシリアスっぽい入りにしましたけど・・いかがでしょう?

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