第四十一話 踊る一寸法師(10)
炎が燃え上がる。組んだ丸太の間でちろちろ龍の舌のように光る。
小人たちの影絵は暗く低く踊った。
フランツたちが近付いたとき、既に踊りは始まっていたのだ。
飛び跳ね手足を振り子のように振り機械的に動き始める小人たち。
一列に並んで後退し前進し、輪になって広がり、見たこともないような動きを繰り返す。
「今から斬るのか」
ファキイルが訊いた。
「いや、オドラデクと合流する」
手に持った例の壺にフランツは耳を当てた。
「今向かってますよ。踊りの輪に加わるようしつこいんですが」
腹話術のようにいつでも声を送れるとうそぶいたオドラデクも小声で答えた。
「炎を上手く使えないか」
声の聞こえるほんの手前まで近付いて木陰へ隠れながらフランツは囁いた。
「炎ですかぁ」
「小人を残らず焼き尽くす」
フランツは無情に言った。
「でも、騒ぎを起こしたらこちらに向かってきますよ。連中は俊敏です。戦闘訓練もされてますし」
「もちろん、ただ焼くんじゃない。お前の出番だオドラデク」
「ぼくぅ?」
オドラデクは不思議そうに答えた。
「セストを焚きつけてアメリーゴを殺させろ。あるいはアメリーゴがセストを殺すのでもどっちでも良い。騒ぎとともに俺が篝火に斬り込んでやる」
「さらっと仰りますけどねぇ」
オドラデクは不満そうだ。
「アメリーゴの女の話をすればいい。必要であればそいつを殺してお前が成り代わりアメリーゴを誘惑しろ」
フランツは電報のように無機質な声で答えを返した。
「めんどくさいなあ。それにしてもフランツさん、今宵はやたら血に飢えてますね?」
オドラデクは不満そうな声を上げたがその後は黙ったということは作業に従事し始めたのだろう。
「フランツ、我はどうすればいい」
ファキイルが訊いてきた。
「もし、逃げ出す小人がいたらその際は頼む」
「それだけで良いのか」
相変わらず表情は変えないがフランツにはファキイルが不満そうなのがわかった。
「スワスティカにいたやつらは全員滅ぼす。俺がやる。それだけだ」
フランツは手短に言った。
時間がまたしばらく経過する。
入り乱れる小人たちの踊りが一段と激しさを増したとき、大きな叫び声が上がった。
「やりました! やりました! アメリーゴさんがセストさんに斬りつけられ、セストさんを殺害しましたぁ!」
オドラデクが嬉々として声を上げる。
踊りを見物していた小人たちが驚いて家の中に入っていく。
「いまだ」
フランツは『薔薇王』を抜き放った。闇の中でも刀身は白く輝く。
フランツは突進して踊る小人の胴を左右に切り離した。
血を噴き出しながら足だけが走っていってやがて横へ倒れる。
驚いた小人たちだがマンツィーノの指導が行き届いていたのか、すぐに短刀を抜いて斬り掛かってくる。
フランツは斬りに斬った。
脇腹を刺される。だが気にもしなかった。
刀の柄で小人の頭ごと叩きつぶす。
逃げ出した連中もいたがファキイルの掩護で真っ二つにされた。
――十人殺した。
血まみれになりながらもフランツは数えていた。
残るは二十人。女と子供を抜けば十人ちょっと。
――勝てる。
フランツは木の枝を篝火に近付け炎を着けた後、家に向かって走り出した。
と、オドラデクが目指す家の中から出てきた。
「おうい、フランツさぁん」
と手を振る後ろからその腕が切られた。
小人たちが三名ばかり襲ってきたようだ。その手には手斧が光っていた。
だが、オドラデクの腕はすぐに再生する。
「バレちゃいましたよぉ。さすがアメリーゴさんだ。カルロが偽者だってすぐに気付きましたね」
そのままオドラデクはフランツの元へ走り寄った。
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