第四十話 仮面の孔(1)
ゴルダヴァ国最北辺キシュ付近――
何度も旅の途中で、スワスティカ残党から襲撃を受けているのだから当然だ。
しかも、今乗っている汽車は通行予定の
場所がわかっていると言うことはこれから攻撃を受けるかも知れない。
元スワスティカ親衛部長のカスパー・ハウザーが新たに編成した『詐欺師の楽園』のメンバーは五人だという。
ズデンカは頭の中で整理してみた。
席次一、ヘクトル・パニッツァ。ズデンカは中立国ラミュにいたとき交戦した。たちまちのうちに視界を奪う能力には苦戦させられたものだ。吸血鬼のコレクションを行っているという、ズデンカから言わせれば変態だ。
席次二、ゲオルク・ブレヒト。ランドルフィ王国パピーニで交戦した。銃の名手で炎を使う能力者で、なんとか撃退することが出来た。その際に両腕を失っているが、その後も銃で攻撃されたことがあるので生きていると思われる。
席次三、ルツィドール・バッソンピエール。メンバーの中では一番執拗にルナ一行を付け狙ってくる。今まで三回は交戦していた。道具を使ってくることが多く、パニッツァと組んで襲ってきて吸血鬼を切り刻む聖剣を使われたときは大変だった。ついさっき列車を攻撃してきた。
席次四、イヴァン・コワコフスキ。ラミュの首都デュレンマット襲撃事件を起こした張本人だ。少年の姿だったが実年齢はわからない。敗北後、仲間のブレヒトと思われる者に銃で撃ち抜かれて死亡した。
席次五の名前や情報は、まだわからない。
つまり、この五人目がいつ攻撃してくるかもわからないのだ。撃退したとは言え、他の連中も列車を狙っている可能性は高い。
特にブレヒトに不意打ちで狙撃されるとルナも同行するナイフ投げのカミーユ・ボレルもなすすべがないだろう。
常住坐臥、警戒は怠っていられない。
だが主人のルナはいっこうに暢気だ。
ズデンカが窓を閉じて、パイプ喫煙こそ止めさせたが、また執筆を再開してペンスタンドを脇に置き、紙を何枚も独特な文字で埋めていく。
「もう次の駅で降りないか?」
ズデンカは訊いた。できるだけ早く汽車から離れないといけない。
「うーん、もっと書いてたいんだけどなぁ」
ルナは邪魔そうに言った。
「ゴルダヴァならどこで降りてもいい。まあ、あたしが生まれたのは南部だけどな」
ズデンカはルナにどこで生まれたのか具体的には言っていない。
別に教えてもいいのだが、何となく告げないで終わっていた。
だがつい故郷について喋ってしまったのはまずかったなと思った。
「ふむふむ。南部なんだ。それは初耳だ」
紙一面を文字で埋めてしまったルナがペンをスタンドへ置いて、インクが乾くのを待ちながらズデンカを見詰めて言った。
「だからどうした。あたしだって無から生まれた訳じゃない」
「でも、君は秘密主義を通していたじゃないか」
「ふん!」
ズデンカは黙った。
「まあ、もう坐っているのも飽きたからね。降りようか」
ルナは言った。
「カミーユもそれでいいか?」
ズデンカは確認した。
「はっ、はい! どこへなりとでもついていきます」
カミーユはしゃちこばって立ち上がり、敬礼をして見せた。
ふざけたのか天然かはわからない。
くすりとルナが笑っている。
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