第十五話 光と影(8)
洞窟まで着くとカルメンはするりと中へ滑り降りた。
身体が弱っていても出来るほど、降りることは日常的な動作らしい。
幻解で作り出した縄ばしごはまだ残っていたが、ルナは中へ入ることを躊躇していた。
――頑張らないと。
登るのも大変だったが、降りるのはさらに怖い。ルナは足先を震わせながら、縄の一段目を下ろうとした。
「あたしが降ろしてやる」
ルナはふわっとズデンカに担ぎ上げられた。
「えっ!」
「よいしょっと!」
ルナを肩に担ぎながら、ズデンカはするすると縄ばしごと伝って降りた。ルナは目をつむっていた。やっぱり高いところが怖かったからだ。
「よし、もういいぜ」
地に足が着くのを感じて、ルナは目を開いた。
「あ、ありがとう」
どもりながら言った。
「感謝なんてしなくていいぞ。お前らしくもねえ」
ズデンカはそっぽを向いた。決まり悪そうに頬を掻いている。痒くもないのにだ。
「で、でも」
ルナはどもった。
――今ぐらいズデンカがいることをありがたく思ったことはない。
光と影――とはよく言ったものだ。
まさにそれを思わせるように。
正反対といえば正反対だが、どこか似ているといえば似ている二人だった。
ズデンカがいなくてはルナはやっていけないのだ。独りで生きると言うことは、あんな苦しい思いをして縄はしごを降りるようなことを一人でしなければならないことなのだから。
カルメンの存在がなければ、きっと寂しくて野垂れ死んでいたかも知れない。
ズデンカと離ればなれになるのが耐えられなくなった。ルナは何も言わず後ろからズデンカを抱きしめた。
「今日だけだぞ」
ズデンカは少しふざけて言った。
カルメンはというと流石にベッドで丸くなって眠ってしまっていた。
「すやすや、むにゃむにゃ」
首をうつむけるその様子の愛らしさにルナは思わず心の中がほっこりした。
「これからどうするんだ」
ズデンカは聞いた。
「また、旅に出るのさ」
ルナは即答した。
「ようやくお前らしくなってきたじゃねえか。これで安心だ」
ズデンカは拳を突き出した。
「パピーニには長くいすぎた気がするからね。同じところにずっといたくない」
「こいつはどうする?」
ズデンカはカルメンを指差した。
ルナの顔が一瞬だけ不安で曇った。
「わたしたちと離れたら大丈夫だろう。ハウザーもわたしなら追う目的があるけど、カルメンにはない」
「あいつらは合理的ではないことをいくらでも繰り返した。合理的だとうそぶきながらな。お前はそのことを一番よく知ってるはずだ。何をしてくるか分からないぐらいに思って置いた方がいい」
ズデンカは静かに言った。
ルナは身震いした。
戦中、スワスティカはシエラフィータ族だと雑に認定したものは収容所へ送った。祖父や祖母の代に独りでもいればそう言う扱いになったのだ。またシエラフィータ族を匿った者も厳罰に処された。
政権を失ってバラバラになっている
――どうしよう。
ルナは迷った。
以前だったら無視してすぐに出られただろう。でもカルメンには一宿一飯というか、とても世話になっていた。
「お願いも叶えてあげていないんだ。何も言わず立ち去るなんてできないよ」
「まあそうなるよな」
ズデンカは目を伏せた。
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