第十三話  調高矣洋絃一曲(7)

 ガルシアだ、ガルシアのところへ行かなきゃあ。


 荒く息をして呼吸が止まりそうだったぁよ。


 どこを探せば良いだろぉう?


 とりあえず家だ。でも、そこもカヤネズミたちがくるかも知れないよぉ。


 ガルシアとは絶えず連絡を取ってるだろうからねぇ。


 じゃあどうするかぁ。


 おびき出すしかないね。とりあえずガルシアの家の近くへ行った。


 案の定、ガルシアは立って誰かを待っているようだったよぉ。


 きっとカヤネズミからの連絡だろうさぁ。


 まだあたしの家が襲われたことすら知らないかもしれなかったよぉ。


 ずっといたらあたしも引き渡されること確実だぁ。


「ガルシア」


 あたしは何も知らないふり、無垢な振りを装って近づいたよぉ。


「どうした、何を抱えてる?」


「ラサロから貰ったギタルラだよぉ」


「形見の品、だな」


 ガルシアは少し寂しそうな顔をした。なぜそんな表情を浮かべたのかは今も分からないよぉ。 


「ぜひ、訊いて貰いたいんだよぉ」


「練習したのか」


「うん。聴いてちょ」


 まるで弾きこなせる自信はなかったよぉ。でも、何とかしてガルシアの注意をそっちに惹きつけなきゃならない。


 惹きつけて、何をするかなんて決めてなかったけどさぁ。


 どうせ子供相手だとガルシアは完全に舐めてたんだねぇ。


「大事な形見だしなぁ……聴いてやるか」


 ガルシアは眼の端を拭ったよ。少し涙ぐんだようだったぁ。殺しておいて、それはないよってその時は思ったけどぉ、今なら何となく分かるかなぁ。


 そういうかたちの友情もあるからねぇ。


「じゃあ、こっちきて」


 あたしは空いてる方の手でガルシアの腕を引いて、遠くまで連れていこうとした。


「ここじゃダメなのか?」


 カヤネズミ連中と待ち合わせをしてるからだろぅ、ガルシアは不安そうに答えた。


「だめぇ、ここじゃぁ」


 あたしは訳を話さなかったぁよ。変に説明しちゃうと、かえって胡散臭く思えてしまうからねぇ。


 子供じみた気まぐれだと思ったのか、ガルシアは、


「しゃあねえなぁ。少しだけだぞ?」


 と言ってついてきた。


 あたしはだいぶガルシアを歩かせた。風もない、月光で銀色に光る麦畑の中へ入っていったよぉ。


 動くたんびに穂先が脇腹をこすってくすぐったくて思わず笑っちゃったぁ。それで緊張が緩んだんだよぉ。


「さあ、聴かせてくれ」


 あたしを睨み付けるように、口の端に笑みを浮かべながらガルシアは言った。

 全身が震えたぁよ。


 とっても緊張していたぁ。あたしはうまく弾けないんだぁ。


「早くしろ」


 ガルシアは焦れてきたようだったぁよ。カヤネズミ連中が来た時どっか言ってたら酷い目に遭いそうだからぁねぇ。


 あたしは更に何秒か躊躇ったあと、弾き始めたぁ。


 そしたらぁ。


 本当にあたしが奏でてるのかって思えるくらい、澄んだ、よく響く調べが奏でられるじゃあないかぁ。


 まるで、ラサロの霊がそばで弾いて暮れているかのようだったぁ。


 いんやぁ、そうに違いなかったんだぁよ。じゃなかったらぁ、あたしがあんなに弾けるはずはぁないよぉ。


 ガルシアも思わず聞き痴れていたようで、頭を前に傾げていた。


 その時だったぁよ。


――復讐をしなければならない。


 パブロの声があたしの頭の中で響いたんだぁ。


 あたしは全身の怒りを沸き立たせた。もちろん弦を爪弾きながらパブロを睨み付けたんだよぉ。


 そして、曲が最高潮に燃え上がった瞬間、演奏を止めて、ギタルラのヘッドをガルシアの喉首へ全体重を込めて押し込んだんだぁよ。

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