第十三話  調高矣洋絃一曲(6)

 復讐。


「殺した者は、殺した者の家族によって殺されねばならん」


 それは分かってたぁよ。


 でも、あたしがやるなんてぇ。


「あたしがやらなきゃなのぉ?」


 震えながらそう訊いたよぉ。


「そうだ。お前がやるんだ」


「……」


 あたしは言葉もなかったぁ。他に兄弟はいっぱいいるんだし、って言おうとしたら。


「事実を知るのはお前しかおらず、わしは動くことが出来ない。だからお前がやるのだ」


 ってパブロは言った。


 確かに、一番適任なのはあたしだ。


 気持ちが定まらないまま自分の部屋に帰ったよ。


 ベッドに横になってゆっくり考えた。


 復讐なんて出来る訳がないよ。


 でも、部屋の隅に立て掛けられていたギタルラを見るたびに、ラサロの顔が思い出されてきた。


――聴かせてあげたかったなぁ。


 後悔の思いと悲しさが湧き上がってきたぁよ。家中が悲しみに包まれる中で、絶望すら感じていたのは多分あたしだけだろうねぇ。


 どんなに喜んで聴いてくれたことだろぉ。ラサロだったら間違いないさぁ。今でも思い出すと胸が苦しくなるよぉ。


 思いきって立ち上がり、ギタルラを取って奏で始めたぁ。


 でも、相変わらず変な音しか出せなかったんだよぉ。


 そうこうするうちに周りが騒がしくなり始めてきたぁ。


 地上の家を壊しているらしく、トンカチか何かで激しく叩く音が響いてきたんだ。


 あたしはギタルラを手に持って走った。


 続いて、騒がしい音が聞こえた。誰かが上の穴からこちらへ降りてこようとしてたんだぁよ。


 カヤネズミの連中だった。家の中に入ってきたんだぁよお。


 遠くだから、幸いあたしは気付かれてないようだった。


 きっと、ガルシアが呼んだに違いないよぉ。跡形もなくラサロの家族を消してやろうとしたんだろうさぁ。


 例の篝火を片手に、家族を探しながら。


 見つかった兄弟は首根っこを掴まれて引き出されて部屋からたぁよ。


 あたしは見つからないように奴らがいるのとは逆の道へ走ったぁよ。 


 脱出口はこっちの方が良く知ってるからねぇ。


 でも、パブロは。


 パブロがいなきゃ、これからぁあたしはどうくらしていきゃぁいいのぉ。


 あたしが走り降りていった道の途中で、パブロは杖を突きながら立っていた。


 あたしがカヤネズミどもが来たと告げようとしたら、


「行きなさい」


 って自分の後ろを指差した。


「でもぉ、独りだとぉ」


「独りでも、復讐を成し遂げるんだ。それが我が家の掟なのだから」


 パブロはもうそれしか言わなかったよぉ。パブロにとって大事なのは家だぁ。あたしも、その道具に過ぎないことは分かっていたよぉ。


 ラサロは違ったぁよ。


 そのラサロを殺したやつを、今度はあたしが殺さなきゃならないんだよぉ。


 出来る訳がないって分かりきっていたよぉ。


 「行きなさい」


 パブロは何度もあたしを急かしたぁ。 


 あたしはもう何も言わず駈け出すしかなかったよぉ。


 パブロとはそれっきりさぁ。


 他の兄弟たちも気付いたのか後から走ってくる奴らがいたけどぉ、カヤネズミかも知れないし、振り返るのも惜しくて突っ走ったんだよぉ。


 どっちにしてもそれから先はもう二度と会ってないからねぇ。


 あたしは子供を作らなかったけどぉ、もしかしたら、どこかでパブロの血筋が続いているのかもねぇ。


 あの掟が、守られているのかも知れない。


 そう考えると、嫌なようなぁ、嬉しいようなぁ、変な気がするんだよぉ。


 さぁ、話を戻すよぉ。


 走りに走って、目的の場所まではたどり着けたんだぁ。


 脱出口から出てしまえば、もうこっちのもんだよ。


 隠すために被されている草の葉をどけて、あたしはギタルラを抱えて月光の元を駆け抜けたんだぁ。

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