第十一話 詐欺師の楽園(1)
――ランドルフィ王国某所
「
軍帽と軍服――旧スワスティカのもの――を身に纏い、白銀の髪を持つ男は言った。目鼻立ちは整っていて、美しい。
薄暗い部屋だ。壁は粘土で固められ、灯りはテーブルの上で列をなして光る蝋燭のみ。
男の前では黒い服を着た髭もじゃの老人が身を震わせて座っていた。両手と両脚には錠が掛けられている。錠には鎖が付けられていてテーブルに繋がっていた。
老人は著名なシエラフィータ教の導師エリファス・リトヴァクだった。ここ数年公の場には姿を見せておらず、失踪したと見なされている人物だった。
「立場の異なる相手でも、話せば分かり合える。理解することが出来る。僕たちはそういう信念で生きています」
「お前は人殺しだ! カスパー・ハウザー!」
リトヴァクは唾を飛ばしながら叫んだ。手は震え、額には青筋が浮かんでいる。
「結果として、命が損なわれることになったと言うだけですよ」
男――ハウザーは爽やかな笑顔を見せた。
「僕たちだって、シエラフィータ族とは『対話』を重ねたいと思っているのです。ただ、彼らの中の一部が普通の人々の存在を脅かす脅威になるということを知って頂ければ」
ハウザーはリトヴァクの肩に手を置いた。
「そう言ってお前らはわしらを隔離した。口にするのも憚られる方法で虐殺した!」
「ハハッ、感情的だなぁ。徳のある
ハウザーは呆れたように両手を左右に広げた。
「わしの親戚もお前らに殺されたんだぞ!」
「『対話』を重ねることは大事です。ただ、僕たちはシエラフィータ族は過激で人の話を聞かないと思っています。例えば、スワスティカの残党を狩っている
「何を!」
リトヴァクは身を起こした。錠に繋がれた鎖が大きく伸びる。痛みをこらえ、リトヴァクは再び椅子に身を沈める。
「平和な世界を求めるスワスティカは、暴力を伴う血筋を除かなきゃなりません。もちろん『対話』を重ねた上でね。行き過ぎた正義を重ねる存在は、それなりの見返りを受けることになるでしょう」
と言ってハウザーは指を鳴らすと、袖の下からメスを取り出した。
「ひっ」
ハウザーはそれを無造作にリトヴァクの手の甲に突き刺した。
「ぎゃああああああ!」
リトヴァクは泣き喚く。テーブルが大きく揺れた。
「つまらない。何体も何体も刺してもあなたがたの血は僕たちと同じだ。これが緑なら面白いのに」
その顔にハウザーは身を寄せて言った。
「安心してください。これは『対話』です。僕たちはあなたがたに理解して貰おうと思っている」
皮膚を切り裂き、指の骨を露わにさせた。
もはやまともに言葉すら発することが出来なくなったリトヴァクは、身を動かし、また鎖に遮られた。
「さて、どうしましょうか。色々な解体の仕方があります。骨の継ぎ目を一つ一つ引き剥がしていくとか」
メスを骨に食い込ませながら、ハウザーは冷たく笑った。
やがて骨を折り取り、食卓の上に無造作に投げ出した。
リトヴァクは悶え苦しんだ余り、頭を強く卓の角にぶつけた。
ハウザーはその頭を強く押さえ付け、毛刈りハサミでざくざくと髪を剃り落としていく。
「それでは確認に移りましょう」
と言って勢いよくツルツルになった頭の周りにメスを入れ、皮を引き剥いだ。
リトヴァクは物凄い力で引き離そうとするが、ハウザーは軽々と押さえつけたままでいた。
出てきた頭蓋にまたメスを突っ込むと、飛び散る血にも構わずに丸く切れ目を入れた。
もうリトヴァクは抵抗も止めていた。
脳が剥き出しになった。
「収容所にいた頃からいろいろ試しているのですが、あなたがたの脳味噌は僕らのものとは違います。これがどうにも解せない。どこか違うと言う根拠を知りたいのです」
脳の一部を切り取って掌の上に乗せ、断面を表情を消してためつすがめつしながらハウザーは言った。
何切れにも何切れにも脳を分割し、小間切れにして食卓の上へと並べた。
「あなたがたの暴力性がどこから起因するのか、ぜひ教えていただけないものでしょうか?」
とハウザーは訊いた。
「あ。もう死んじゃったか」
ハウザーは食卓へ上半身を倒したリトヴァクの遺骸の横に置いてあった布巾で手を拭いた。
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