フレンドシップ 2
「ヨオ」
キイチの事務所に久々の訪問。彼の名はカネキチ。両親がお金好きだったのだ。当然彼も金好き。もちろん楽して稼ぎたい。よって株に手をつけた。それが失敗のもと。大暴落ののちに、闇金。今は居場所を転々として、炊き出しに並ぶ。
「カネ。久しぶりだな」
「ああ、色々あってなあ。色々ありすぎた。いつかアニメーション映画にして欲しいくらいだよ」
「なんでアニメ限定なんだ」
「とにかく大変だったあ」
「それは俺もさ」
「ま、生きているからまだ良いけどな。ああ、あと、コーヒーおくれ」
「いいよ」
キイチはキッチンに向かう。
「あのコーヒー不味いんだよなあ」
「うるさいなあ」
キイチはそれでもコーヒーを淹れてくれる。悪いやつじゃあない。
「はいよ」
キイチは机にコップを置く。真夏に熱々のコーヒーを出すのがキイチである。悪気はない。
「熱いし不味いし最悪だな」
カネ、的確な講評。
「うるさいなあ。それでなんの用?」
「たとえばねえ、小学生を思い浮かべてくれ」
「小学生ねえ」
「その小学生が、お使いを頼まれたとする」
「小学生ってのは低学年? 高学年?」
「どっちでもいい。お好きな方を。それで、その小学生はお金をもらって、お店に行こうとする。でもその間で、コンビニを見つける。そして、お菓子を買って食べてしまう。お使いに使うはずの金を使って」
「良くないな」
「そこで、君が通りかかる。泣く小学生。さあ、君はどうする」
「無視する」
「おい! 血も涙もないんか」
「だって関係ないし、それに、全面的にその小学生が悪い」
「おいおい、若気の至りも考慮して」
「小学生も馬鹿じゃない」
「でも若いよ」
「いつまでも若いわけではないという現実を」
「突きつけるな! 大人は子どもに夢を見せてやれ」
「うるさいなあ。それで、これなんの話? 性格診断かなにか?」
「診断、人間失格」
「失格は言い過ぎよ」
「お金貸してくれ」
「この流れで?」
間抜け二人の会話は続く。カネはどうしてもお金が欲しい。
「この前、可愛い子と知り合いになってさあ。紹介するからさあ」
「嫌だ。お前とは趣味が合わない」
「俺、綺麗な石ころ持ってるよ」
「あんまり馬鹿にするなよ」
「あー、どうしたら貸してくれるんだ。くれよ。お金」
「やだよ。俺もないよ。逆にくれよ」
「逆ってなんだよ。ちくしょう。お金欲しいよお」
そんな二人に来訪者。ヒデだ。
「朗報。幸運の女神ならぬ幸運の髭男」
「ギャンブル髭野郎」
「おいおい、今は首謀者Hと呼べ」
「馬鹿Hの間違いだろ」
「何言ってやがる。俺、都道府県30個くらい言えるぜ?」
「都道府県100個くらいなかったっけ?」
「馬鹿。もっとあるよ」
「そんなことより」
ヒデは大きな紙を机に広げた。銀行の見取り図だ。
「何、これ」
「あー、俺こういう図とか無理なのよ」
「こういう話がある。昔読んだ話。多分ホームズ。ネタバレありで」
「ハア」
「銀行までトンネルを掘るんだ。夜通しね。そうすれば、誰にも気が付かれずに銀行に侵入できる。完全犯罪ってやつ。最高だろ? 最高のギャンブル」
「面倒くさそうだな」
「面倒くさそうだ」
「同じこと言うなら口を開くな、カネ」
「嫌だね」
「さてこの完璧な計画こそが、我々に残されたこの世知辛い世界を生き抜く唯一の術だ」
「ヒデも困ってるの?」
「ああ。昨日で素寒貧」
「じゃあ、やろう」
カネは即答。渋ったのはキイチの方。
「どうだろうなあ。犯罪じゃないか」
「俺は認めないから大丈夫」
「何、その理屈」
「馬鹿っぽいなあ」
「実際馬鹿さ。同じ馬鹿ならどかんと一発ってね」
「聞いたことねえ」
ヒデは大きく振りかぶって、架空のボールを遠くへ投げた。
「俺らは9回裏。ツーアウト、ツーストライク。ここから起死回生。どんな球が来ようとも、全力でバットを振るだけだ!」
「その例えを言うのなら、なんでバッターやらないの」
「わからん。ノリだ。それが大事」
「馬鹿だなあ」
「やろうぜ。この事務所の地下を掘ってさ」
「え、ここでやるの」
「当たり前よ」
「当たり前なの?」
そういう訳で、銀行トンネル作戦は始動した。
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