第2章 第16部 第5話

 そうすると、なかなかのインテリぶりを発揮する藤の姿に、小梅も感心してしまうのだ。確かに何れ自分がこの屋敷を負かされるとしても、現代人としてのスキルも身につけなくては、より効率的に仕事も熟せない。


 「藤さん」


 「なんです?」


 「そう言うのってやっぱり、食料庫の管理なんかも出来ちゃったりするんですか?」


 「そうですねぇ。今はタブレットもありますから、より手軽ですね。ラップトップだとどうしても、重さもありバランスも悪いですし……あと、ネットワーク環境もなくてはなりませんね。幸いここは電波も届きますし……。まぁ、高い通信状況とは言えませんが、軽くインターネットを接続したり、メールを送信するには困りませんし」


 「そう……ですね」


 確かに自分達もスマートフォンを使っているのだから、それくらいは至極当然の知識ではあるのだが、返事のやり取りくらいしか、利用をしたことがない。


 それは此までの興味の範疇外だったし、同年代の子供達も、特にネットゲームや動画視聴などがメインで、藤のようにスマートな使い方をしているものも少ない。


 火縄達も特に、会話以上の利用をしていないし、彼等の指裁きはお世辞にもスマートとは言えない。唯一依沢が熟れている感じはするが、それでも菱家に居るときは、炎弥の世話ばかりを妬いているので、余りそういう素振りは見せない。


 「それって……」


 藤は隠す事も無く、その文章を見せている。だから小梅も自ずとその内容を知ることが出来てしまうのだ。


 「ええ」


 藤が打ち込んでいるのは、炎弥の短期留学の提案である。そうなれば、自ずと誰かが世話係として同行せざるを得なくなる。


 ただそれ自体は表向きの理由だ。勿論そのこと自体は、小梅には理解出来ないことで、彼女からして見れば、炎弥に修学経験がない事への配慮としか見る事が出来なかった。


 菱家の主は矢張り炎弥であり、自分達は彼女を支えるべき存在なのだという認識がある。


 全ての生活が、塩冶中心なのだ。

 それは勿論、六家にも通ずるところがあり、藤も理解出来ないことではない。


 ただ、自分達には学園という場が与えられており、修学には何の問題も無い。その当たりが武家と大きく異なっているといえた。


 「おっと、プリンターが必要ですね。私の意見だけを一方的に送ったとしても、お竹さんがなんと仰るか解りませんし、炎弥さんが戻られ次第、ご相談下さい。車から取ってきます」


 そして用意されたプリンターは簡易式のもので、まるで太いチョコレートバーのような形状をしており、一枚の紙を給紙して、のんびりとそれを吐き出し始める。


 「あとは、芹花さんと、ウチの頭脳集団にでも宛てておきますかね。あとは炎皇に……と」


 頭脳集団とは、康平、美箏、聖といったところだ。


 ただ聖イコール芹花というところがあるので、ここでは康平と美箏となる。

 

 「後は時期ですが……その、僕がお尋ねしてよい案件かどうかは解りませんが、礼のお詫び行脚の進捗は?」


 「ええ。それなのですが、矢張り何軒かは頑なな意思を示しており、難航しており、全てが順調であるとは言いがたいのだそうです。ただ、赤銅家の方々の送迎が非常に手厚く、とても双方対立した後には思えないほど、丁寧なものだったそうです。それに、各家にずいぶんな見舞金も送られたそうで……」


 恐らくそれを手配したのは芹花だろう。天聖家は、蓄えのない家ではないが、それでも対応が悪ければ、それは相手に対する侮蔑にしかならない。恐らく呪いの解除に対する注力も伝えられているはずだ。


 「ですので、大半は予想以上に快諾を得ることが出来、春先までと思っていた予定にも、随分余裕が出来たみたいです」


 「そうですか……」


 流石に金銭的な話の流れまでは、大地にも自分にも流れてくることはないのだろうと、富士は思うのだが、不知火家と東雲家が動けば、水原も高峯も特に異論はないのだろう。


 芹花が動くとなれば、当然夜叉家としても判ずるところではない。


 乱れはありつつも、矢張り六家の中において、天聖家の方針は周囲を動かし、それは自分達の中心であるのだということだ。

 

 基本的に大地のフォローをするのが自分の勤めだと思っていた藤にとっては、菱家一行が戻ってくるまで、この屋敷にて、臨時の家庭教師の真似事も兼ねて、久しぶりに単独の活動となるのだった。

 

 一方藤のメールを受け取った聖は、その夜改めて、芹花と話し合うこととなった。特にそれ自体は他愛もない提案だし、菱家が承諾すればあとは、学園長との掛け合いだし、例えそこで許可が下りないとしても、さほどの障害とはならない。


 そもそも、学園には一クラス十五人の原則があり、美箏においては、完全に特例だと言えた。彼女が高等部唯一のクラス十六人目の生徒という扱いであり、そうなったのは抑もが彼女の特異性からだ。


 他の能力者であれば、スカウトから漏れれば、それまでの話ではあるのだが、闇属性の人間画情緒を失うと、社会的に多大な害を引き起こす可能性がある。


 どのみち悪事を働けば討伐対象となるのだが、彼女が厄介なのは黒野鋭児と血縁であり、また今では、公然の秘密と化しているが、当然アリスとも血縁である。


 このクラスの人間が学園に翻意を見せるような結果となれば、それこそ甚大な被害となる。


 であるなら、このような特例など、さほど問題にする事ではない。

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