第2章 第15部 第12話

 「確かに……。火雅は今どう?嫌な聞き方するけど、オレと鋭児が頭の上にいて……」


 「そりゃ、凹んだよ。お前のことは何時までもF4にいて、酔狂だとは思ってたけど、考えのある奴だってのは知ってたから、驚きはしなかったけど、黒野はなぁ……」


 「なんか……ゴメン」


 「ああいや。でも、皇になる奴ってのは、やっぱそうなんだろうなってのが解ったし、別にオレが弱くなったわけでもないし、此ばっかりはねぇ。前向きに行くしかないっしょ?周りの人等は、其れがどれだけ特別な存在かってのが、解ってるみたい……まぁ、もうトーナメントで学年一位になれそうにないってのが、唯一気持ち的にネックだなぁ。康平なら、万一だまし討ち出来そうに思うんだけど」


 「はは。そうはさせないかな。オレだって静音さんの手前、そこは落とせないし……」


 「あはは。惚気?あーやだやだ!。で、筧先輩の方は?」


 「まぁきっちりやれば、大丈夫かな?これでも、焔先輩には、褒められた方だし」


 「そりゃ、焔サンに挑むだけでも、十分根性ある方だと思うな。オレも筧先輩のそういう折れないトコ、尊敬してますよ」


 「ホントに?黒野君妙に気を遣うところるからなぁ。お世辞は要らないよ」


 筧は静かに笑うのだった。


 「どのみち、芽が出るのは来年になりそうだな」


 康平は、少々疲れた様子で、はっと息を吐くのだった。


 「芽が出るっていうよりか、傍観してた人と、取り組んでいた人の差っていうのが、はっきり出るって意味で、結構残酷な事になりそうだけどね。ボクは今年で高等部は卒業だし……、また揉まれる側に逆戻りだ」


 そして筧もため息をつくのである。


 ただ、大学部に行くと、トーナメントという形はなく、ますます自主的な立ち回りが求められる。そしてペースも自主的なものに負かされている。


 そして決定的に違うのは、焔や風雅のように一度皇を経験した者においては、それが除外され、いわゆる悠々自適といやつである。


 当然鋭児も皇座についているため、大学での生活は自ずと、自らの研鑽になるだろう。

 

 「そうなると、また協力してくれる人が必要なんだけど……」

 

 すると、自然に全員の視線が、煌壮の後頭部に集まるのである。


 「やだ、面倒くせぇ」


 そして即答するのである。これには、一同苦笑いである。確かに、今年来年と炎皇に挑戦する煌壮にとっては、厄介事である。


 「週一なら、焔サンにでも頼んでみるかな……」


 「そうだなぁ、焔先輩なら、確かだし……」


 鋭児は、さらりとそちらの選択肢を選ぶ。確かに焔なら、鋭児と康平で頭を下げにゆけば、何だかんだと引き受けてくれるだろう。


 「って!もうちょい、粘れよ!煌壮さんにもっと、頼れよ!」


 「いや、お前どっちなんだよ!」


 鋭児は突っ込まずにはいられない。


 「まぁでも真面目な話、キラにはもうちょっと自分を磨くことに時間を使ってほしいかな。って、オレもそうなんだけどさ」


 「そうそう。鋭児は大分借金あるからな。オレに!」


 「借金て……感謝してるから、こうして付き合ってるだろ?まぁなんか、オレもこの学園のなんてか、妙なエリート意識ってのは、問題あると思うし……」


 「エリート……か」


 「いや、厚木家の御曹司がそこでため息着く?」


 火雅は、呆れて物が言えなくなる。


 「はは……まぁ。厚木家の末弟だよ。家督や柵から遠い分、気楽ではあるし、その分こうして好きな事してられるけどね」


 「家……か。ボクは一般の出だから、そういう重苦しさは解らないかな」


 筧は腰を上げる。


 「それじゃ、疲れたからお暇するよ」


 「そいじゃ、オレも風呂入って寝るかな!」


 火雅も其れを機に腰を上げるのだった。

 

 「オレはもうちょっと、鋭児と話していくよ」

 

 康平と鋭児は、腰を据えたまま、二人が出て行くのを見送るのだった。

 

 「で、例の呪いの件、どうなったんだ?」


 「今、聖さんが色々調べ回ってる所だって」


 「ふぅん。さっと解いて終わりって訳にはいかないのか?」


 「それ自体は出来そうなんだけど、もう少し待ってほしって。なんだか天聖の婆さんが、ぐうの音も出ない状態で解きたいらしい」


 「ぐうの音……か。要するに、要するに、旧体制派を完全に潰してしまいたいわけか」


 「俺としては、炎弥の願いが叶えば何だっていいんだけど、何せ姉さんが近づくのを嫌がるほどの場所だし、俺には呪いを解くなんてことは出来ないから。任せるしかないんだけどね」


 「でも、次の呪いが発動したら?」


 「うん……」


 鋭児も其れは考えたのだ。しかし呪いが掛かるとき、必ず自分の一族の誰かが死に至っている。命を使って不幸をばらまくのだ。


 要するに呪いを増幅させるための媒体を必要とするということだ。

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