第2章 第15部 第11話
「そういや、もうすぐクリスマスだなぁ……」
今年の冬はまた、実家へ戻る事となるだろう。別に順位戦のことに対して気を抜いているわけではない。色々な予定を立てていかなくてはならない。
「キラ、お前はどうすんの?」
「鋭児兄にひっついてく……」
「ああ……うん」
即決だった。久しぶりに不知火老人の顔でも見に帰るのかと思ったのだが、なんだか不憫に思えてしまう。
「なんか、邪険な返事……」
「ああ、いや」
鋭児の返事は前述したとおりだ。
「ウチもそんな広いわけじゃないからなぁ。まぁ焔サンは間違い無く叔母さんにべったりだろうな……」
「美箏の母ちゃんか……」
「叔母さんは確りしているし、きっちりしているし、世話焼きな所あるし、逆に焔サンは手が掛かるし子供みたいだし、腕白だし……」
「あー……」
女子であるが男子のようでもある。それでいて手の掛かる子供っぽさと、素直さという所が、鋭児にも美箏にもない部分で、ある意味甘やかし甲斐のある相手なのだろう。
一見小煩くも、焔には其れが嬉しいのだ。
「親……かぁ……」
「キラもいないもんな……」
「まぁ爺様がいるから、親代わりっちゃそうだけど、爺様もオレや焔姉にばっかり甘くしてられるわけでもないしな。実際孫もひ孫もいるわけだし……」
「そか……そうだな」
そういう寂しさは、親を亡くした鋭児の方が、実感としてあるのだ。想像や憬れではない実体験だ。鋭児は何となく煌壮の手を握る。
「へへ……」
鋭児の気持ちの流れは、その手の温もりで解る。年が近く、悲哀の解る鋭児が自分以上にその悲しさを知ろうとしている事に、煌壮は嬉しく思う。
思わず煌壮は、鋭児に飛びつくのだった。
このあと鋭児達は、炎皇の間のリビングにに集まることとなる。
メンバーは、鋭児、康平、火雅、筧の四人である。
この集まりは、康平が提唱した、後進育成の集まりである。
此までは、下剋上方式で、積極的な勝ち抜きを重視したやり方だ。勿論それ自体に何も変わりはしないのだが、全てに置いて自己管理が求められ、また上下の繋がりのある人間がより多くその恩恵を受ける形だった。
鋭児のように出会いが決定づける局面などそう有りはしない。
勿論、遠征に出ることで、先輩の指導を得ることは出来ても、基本的に勝敗はついて回るし、指導に割いた時間の分だけ、次点との差が詰まりかねなくなる。
成績が左右される事にも繋がる。
これは現在の康平達にも当てはまる所なのだが、それでも現時点でこの四人は、早々後続に追いつかれる地位にはないというところで、どうにか維持出来てはいる。
「で?今日はどうだった?」
シャワーを浴びてさっぱりした康平が、ノートを取りつつ、それぞれの進捗を尋ねる。
「相変わらず……かな、挑戦しに来る人間と、たまにくる人間と……傍観してる人間と、まぁそれでも、観察してる奴もいるし、それぞれって感じ……」
特に鋭児は、一組を担当しており、今後を担う出世株達だ。彼等の中でも五本の指に入る人間は、矢張り向上心も、自尊心もある。
ただ鋭児の前では、その自尊心など塵にも等しいため、それは指導初日に……というより、既に煌壮が彼等と一悶着した時に、十分折られている。
そんな煌壮は、我関せずで、鋭児達の横でテレビを見ている始末だ。
「僕の所の四組は、みんな一つでも上に上がりたいから、結構真剣なんだけどね」
「三組は、上と下で若干空気違うんだよな。上ってきた奴と、上に行きたい奴と……」
筧と火雅がそれぞれ自分の受け持つクラスの様子を口にする。といっても、週一回程度の工程では、それほど濃密な進捗を得られるわけではない。
「まぁそれぞれ思惑って言うのはあるとおもうけどね。なんて言っても一年生なんだから、正直そんな雁字搦めにならなくてもいいとは、オレは思っているんだけど……」
康平は当に、そのこの学園の築き挙げてきた空気をどうにかしたいとも思っていた。
それは、これまでにもされていた話であるが、その辺りの意識改革にまでは、中々繋がっていないようだ。
「意識改革もなにも、一組の連中はそれだけで、お声が掛かると思ってるのが、問題じゃね?」
テレビを見ていた煌壮がふと、そんなことを言い出す。
「てか、康平さんも火雅さんも筧先輩も、ほぼ決定だよね?」
確かにそう言われればそうだが、彼等は煌壮の言うように胡座は書いていない。どちらかと言えば向上心がある。
「オレは、鋭児兄と千霧さんに禿びらされて、ぶっちゃけその浅はかさってのはよく解ってる。仕事ったって、一年は経験ないんだろ?今年の二年の豊穣祭みたいな、大事件味わってねーし。夢見心地なんじゃね?オレは焔姉と鋭児兄の妹分として、大門背負うって約束あるし、オレも嬉しいし。俄然モチベ高いけど……」
そう言いつつも、つい先日空回りしてしまった自分がいる。
焦りから来る、安直な手段をつい用いようとしたことは大いなる反省点である。そういう自分が顔を出したことに嫌気は差したが、逸れもまた良い教訓であり、それに戒めがあるからこそ、成長もある。
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