第2章 第15部 第9話
少し時は流れる――。
それは、二学期末に行われる、順位戦に近づいた頃だった。
鋭児は一年の指導に入っている。それは康平が提案した育成案だ。
特に鋭児と康平は、ほぼ揺るぎなくその地位を確立しているため、後進の指導に当たる事が出来るのだが、本来ならば中々厳しい中での条件だ。
ただ、鋭児、康平、火雅、三年の筧などは、自由意志でそれに参加している。
自ずと意識すれば解る事ではあるのだが、彼等は何れ部下を率いて動かなければならない立場になる者も多いからだ。
もっと細かく絞って言えば、衛士志望の人間には、避けて通る事の出来ない課題である。尤も得手不得手というものがあり、その事も考えておかなければならない。
本来、衛士となった者は各家にある指示系統に従い、学園の能力者は飽くまでも一兵卒である。
一学生である康平のそれが、此までの学園の方針を変えるというのも、反発を生む事にもなるだろうが、此まで受動的に家に従う事の多かった彼等にとっては、一つの新しい動きであるのは確かだ。しかもそれが学生側の康平の提案であり、大人達の発信ではない。
学園長がこれを良しとしたのは、矢張り時代の転換期の移ろいを見せていたからだ。
現状ではどうしても、天聖家主導というものが色濃く、夜叉家を除き四家は、どうしても衛星的な立ち回りをしていることが多い。
その体系が崩れた時の事も踏まえ、秩序を担う者達が六家と言うだけでは、どうにも頼りない。学園側の思考と、学生である康平の思考が奇しくも一致した、結果だと言える。
実質東雲家においては、霞が判断を下す事が多いが、大半は蛇草が取り仕切っており、その彼女もまた、霞との婚約を控えている。
ただ従来の意識では、二人の子は当に忌み子となる。それでは、美逆の境遇とまるで変わらない。
ただ、その筆頭である新が泰山の事件により、折れてしまったため、事実上二人にある障害は取り払われたに等しい。
決定的なのは、蛇草自ら新を助けたという事実だ。
そして今は、その反動のせいか、新が蛇草に甘え通しなのである。
余談的な恩恵としては、其れまで暇のなかった雲林院が、家族旅行などに出かける余裕が生まれた事である。
他の家では余り変化はないが、不知火家に関しては、楽観的な視点であるため、当該不安も問題もない。
他の二家については、まぁ追々と言ったところなのだろう。時代についてくるしかない。
夜叉家に関しては、天聖家と表裏一体であるため、その方針が変わるのならば、それに付き従うのだろう。このあたりは、ブレがあるようでそうでない。
基。
鋭児は一組の指導をしていた。本当に指導だ。徹底的に反応即どや、甘さの指摘である。特に男子には厳しい。というより、女子に甘すぎる。勿論手を抜いていないわけではないし、デレている訳ではない。
恐らくやりにくいのだろう。
あれだけ、女子に囲まれて生活をしている鋭児だというのに、ただそれは飽くまでも彼が信頼を置き、愛情を持っている家族だからこそ見せる表情であり、一般女子は、矢張り女子なのだ。
「鋭児兄、もっとハキハキしゃべれよ!」
煌壮が焦れる。
ただ、そうして、困りながら指導している鋭児に対して、若干距離を縮めたがっている女子は多い。
「炎皇様って、男の子も行けるて、本当ですか?」
などと、言うことを未だに聞かれてしまう始末ではあるが、指導の度に密着をして、鋭児の反応を面白がってくるのだ。
勿論それは炎弥の事である。
「おい!無視すんな。エロ姫!」
「火宮姫燐ですぅ!」
彼女の身長は煌壮より十センチ灱炉環より五センチは高い女子としてはそれなりに身長があり、確かに一年生にしてはメリハリも十分である。
だが何を隠そう、彼女こそ煌壮リンチの主犯である。
それは、なんだかどこかで聞いたような話ではあるが、それ自体には煌壮の挑発もあり、責任は半々とも言える。
だが最近は煌壮ともよく喋るようだ。
煌壮の良いところは、切り替えの早いところだ。
鼬鼠に殴られてもケロリとしているのだから、そうと決めた時の彼女の立ち直りの早さは、折り紙付きである。
現状クラスのナンバーツーであり、灱炉環が第三位と言ったところである。といったところなのだが、灱炉環と彼女が二番目をつばぜり合いをしている感じである。
そういう意味では、矢張り煌壮は群を抜いている。
ただ、フィジカルと言った部分では、煌壮は矢張り脆い。筋肉量も体格も劣っているというのがその要因である。
煌壮の特徴は、当に集約された一撃必殺の突破力だ。
そして、何より早い。身が軽い。
「揉めんなって!」
「鋭児兄が、シャキッとしねぇからだ!」
「いや、だから何も考えず、バンバン向かってきてくれた方が……」
「あーだらしねー見てらんねー!」
「ったく!。解った。お前実戦付き合えよ!」
「よしきた!」
完全に手玉に取られてしまっていると、灱炉環は苦笑いをするが、煌壮の懐きようは、周知の事実である。あの時のように、鋭児の気の流れにある、隙を生み出そうなどと考えることはなく、一つ一つ見極めを行うように、煌壮は先攻する。
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