第2章 第15部 第7話
そんな中鋭児は、黙々と食事を勧めている。
これは度々注目されるところであるのだが、額に大きな傷を持つ一件乱暴物の鋭児だが、箸使いなどはこれで中々丁寧だ。
それは鋭児の心境そのものを表していると言っても良い。それを見て、お竹はウンウンと頷く。実に良く教育されたものだと思うのである。
鋭児は始終喧嘩に巻き込まれていたが、決して祖母に対する反意などはない。彼がその拳を振るうのは、許せないからだ。
「昨日はその米粒のように、きっと彼女を上手に召したのでしょうね……」
などと、芹花がさらりとぶち込むものだから、鋭児は思わず噎せてしまう。そして炎弥は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そしてお竹はまたウンウンと頷く。そして其れを想像した小梅は、恥じらってモジモジとし始める。
「所で、大原様、例の件お忘れ無く……」
「あ……ああ。そうだな……了承した」
何のことであるのか?と一同は思うが、大地が妙に畏まっている。
一同は、菱家を後にする。炎弥が和やかに手を振るが、何とも名残惜しそうだ。そして其れは鋭児も同じである。しばらくは会えないだろう。
―― 車中 ――
「嫌な予感しかしないわ……」
芹花がぽつりと呟く。
「嫌な予感というより、仕事が増えた感じでしょ?」
「ええ……まぁね……」
藤はマイペースに運転を続けるが、助手席の大地は其れを少し気にかけていた。
「その……」
鋭児が言いにくそうに、最後部の座席から、芹花に声をかける。
「当時の卑弥呼様の話なんですが……」
「ええ。そうよ。何があったのか……」
「いやそうじゃなくて……」
「え?何?」
芹花は頭痛の種を得て尚、問題が加わろうとしていることに、若干嫌気が差していた。
本来解決だけに向かえば良い案件だった。ただその為にはお膳立てをし、香耶乃派の頭を押さえつけておかなければならない。
だから、現実だけを取り繕っただけでは、将来寝首を掻かれるのは自分なのである。
芹花の天聖家継承に関しては、本来喜ばれる所であったはずだが、母がその期を作り、自分が継承すると同時に、その期待を裏切ったのだ。
香耶乃は天上家が唯一無二であり、其れを仰ぐ天聖家が至上唯一の家系だと思っている。それそのものは以前から天聖家にあった風潮であるが、その差別主義を覆したいのだ。
そして其れは自分自身のためでもある。
「鳳家が卑弥呼様の護衛任務失敗により、叱責を受けたっていう話です。先ほどの話ですと赤銅家の名が上がっていましたが、赤銅家は何もなかったんですか?いや、何かあってほしい訳ではないですが……」
「咎は受けたはずよ。そう……それ以来赤銅家は、不知火家や六家と協力関係にありつつも、少し距離を置いた関係になっているわ。ただ、赤銅家は六家を恨んでいる訳ではないし……うん」
そう、赤銅家はどちらかというと防衛を専門にいしている。その彼等の防壁が破られる程の攻撃だったということだ。
「聖、当時の豊穣祭の様子は?」
「今回ほど派手ではなかったそうだよ。それに、赤銅家の参戦も当時より少ない。それに守備範囲が広すぎる。そして学生達もいた。あの人の性格だから、人に不安を見せるような事はしないだろうけど、実際厳しい状況だったろうね」
「でしょうね。本来対空防御に当たる者達も防壁に参加していたのだから」
それは間違い無く香耶乃の失策である。それが卑弥呼の命を危険にさらした要因であり、今回の頭首交代の一因でもある。
そして、赤銅家は自分達の力不足に一定の非を認めていると言うことだ。
「それで、なんで鳳家は取り潰しに?」
「そう……ね。ゴメンなさいね。貴方のルーツだったわね」
「いやまぁそこまでの実感はないですけど……ね。俺自分の事を知らなさすぎるんで……」
「その時、卑弥呼様の側にいたのが、貴方の曾爺様……になるのかしらね」
流石にそうなれば、生きてはいないだろうし、自分の祖母や両親ですら死んでいる。抑も自分の祖母が、自分の両親を連れて、里の外に出た理由も知りたい。
そしてその事については、村長もあまりいい顔をしなかった。だが、アリスがあの社に戦いていた事を思うと、恐らく祖母もも其れを嫌ったのではないか?と、何となくの予想が出来る。
仮に祖母が煌壮のように、非常に鋭敏な感知能力を持っていたのなら、あり得る話である。
ただ、村長は、あの社を天聖家からの賜り物だと有り難がっていた。何となくそのところから、軋轢が生まれそうな話でもある。
「あの、俺の能力の範囲ってどこまでの影響出ると思います?」
鋭児は聖に話を振る。
「ん~……。君のその能力が呪術的な意味も含めているのなら、場合によっては子々孫々にまでということも……」
聖はそこで言葉を止める。そして其れが鋭児の本来の質問である事にも気がつく。
「炎皇。話し続けてよ……」
「ああ、ええ。実は今の卑弥呼様の胸にも、焔さんや姉さんと同じように鳳凰の印が……」
「車止めて!!」
鋭児が話を続けようとした瞬間、芹花がドラーバー席のヘッドレストを掴んで、藤に指示出す。
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