第2章 第15部
第2章 第15部 第1話
菱家での夕食となる。
ガスコンロに乗せられた鍋は、再びコトコトと音を立て始める、やがて小さくグツグツと、煮込まれ始める。
仕上げ直前まで、仕上げられたその鍋から、やがて深みのある赤味噌の香りと、食材の香りが入り交じった、甘辛く香ばしい香りが、湯気に乗って鼻腔を擽るのだ。
菱家の邸内は、確かに暖房器具となる、火鉢や炬燵などもああるし、一応に近大回収され、エアコンもあるが、如何せん建物の作りが古く、どうしても津々と冷える冬場になると、どこかしら寒さを感じてしまうのである。
意識せずとも、それは手足が感じており、そこはかとなく冷えているのだ。
鋭児や炎弥などの炎の能力者は、自らの属性の性もあり、さほどそれを感じることも無く、体温も高く保持しているが、他の能力者、特に地と風の能力者は、体温の感知に関しては普通の人間と余り変わる事も無く、その寒さの認識は十分出来ている。
だがそれだけに、鍋の旨みは格別である、
その点においては、鋭児も炎弥も、冬というものを認識していないわけではないので、さほど変わりはしないのだが、矢張り一入というものがある。
特に大地などは、妙にグルメ番組の進行役のように、ウンウンと関心して頷いている。
その横では、藤がもの静かに食べており、特に食通でもなく、物の好き嫌いを言う彼ではないため、それは一見して解り憎くはあるが、表情を見ているとそれが好みに合っていることは、鋭児にも解る。
「美味しいでしょ?」
と、鋭児の横では炎弥がご機嫌だ。彼女は始終鋭児に話しかける。
そんな彼女を見ていると来た甲斐があるものだと鋭児は思う。
「ふむ……」
お竹はピンとくる、小梅がしきりに鍋を気にしているが、問題はそうではない。
確かに接客は大事だし、小梅は実によく気を配ってくれている。家族同士であれば炎弥も恐らく、小梅を遠慮無く座らせることをしただろう。
火縄は恐らく追加食材の準備をしているだろうし、古い感覚の人間としては、逆に思えるが、聖が芹花を世話をし、鋭児が炎弥の世話をしている。
鋭児が炎弥に世話を焼くのは、彼女の両手のことがあるからだ。それは鋭児の気遣いを見ていれば解るし、炎弥も完全に鋭児に甘えてしまっている。
これは、炎弥を負かした鋭児であるからこそだ。でなければ頭首としてもっと背筋を伸ばしてもらわなければならない。
だが一つ違う風景がそこにある、大地と藤だけがそうではない。男二人並んでのそれは、矢張りバランスが悪い。
「地の御仁、給仕は私がしますので、どうぞ此方の席へ、如何ですか?」
「お婆さま、給仕は私が、お前はその方の給仕に専念しなさい。あまり埃を立てるものでもありません」
本来は、給仕に勤しむ彼女に関心すべきところなのだが、このときはそうだったのだ。
そして、食事中に席替えをすることなども、本来余り行儀のよいことではない。
小梅はそれを妙に思いながらも、お竹にぺこりと頭を下げる。
「お、それでは頼みましょうか……」
自分のことは自分でする、余り他人の世話になりたがらない大地が、このときは妙に聞き分けよくしかもぎこちない様子で、席を移るのである。
「おや?気を遣わなくてもよろしいのですよ?」
「いえ、それでは宜しくお願い致します」
「そうですか?ではお願いします」
藤はすぐにその配置に気がつく。要するにバランスの問題なのだと。
小梅は先ほどまで大地が座っていた、藤の隣の席にチョコンと座り、肉や野菜をバランス良く取り、それを藤に食べてもらうのである。
そのたびに、藤がニコリと小梅に微笑みかける。そして藤もまた時折、小梅のリクエストを聞き、交互に給仕し合う形となっている。
ただそれは社交辞令的な笑みに過ぎない。
一番賑やかなのは、矢張り炎弥だろう。
鋭児に対して、次に何を食べようか?と二人で相談しあいながら、食べている。
「藤さん。そんなに食べて大丈夫なんですか?この後、火縄って人と一戦するんでしょ?」
鋭児は若干冷やかしを交えながら、何も気にせずパクパクと食べている藤を見て言う。
「そうなのか?」
自分が外に出た間の出来事だ。大地はいつの間に?と思うのだが、藤は澄まして笑うだけである。
「問題ありませんよ。そんなに、炎皇は肉がなくなるのを心配してるんですか?」
「はは。若干あるかも」
「ふふ。少し日向さんに似てきましたか?」
鋭児はそういう卑しい性格をしているわけではないと、藤は思っているが、なんとなくそういう言い回しが、それを感じさせたのだ。
炎弥も焔の事を少し思い出す。
「そういえば、日向さんてオッパイおっきいよね!」
そして急にそんなことを思い出す。すると、大地は途端に噎せ始める。
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