第2部 第14部 第22話

 「でも、豊穣祭では使わなかった……使えたはずです」


 「あはは。抑もあんな物騒な技使えないよ。ボクはそのためにあんなことをしたんじゃない」


 そう言って、炎弥は鋭児の差し出したミカンを彼の指ごとパクリと食べる。それが何とも楽しく嬉しそうだ。


 「それを、オレにぶっ放したわけ?」


 「黒野君だって、ヒドイ技使ったじゃないか。アレで義手が壊れちゃったんだから」


 「お前だって、オレの腕の骨折ったからお相子……」


 鋭児はけろりとしてそういう。


 「言い換えれば、炎皇の鳳輪脚はそうしないと、相殺仕切れなかった……と?」


 聖が補足を入れる。


 「うん。あれは凄かった。怖かったけど、けどゾクゾクもした」


 炎弥がそういうのを聞くと、聖は芹花の方をチラリと見る。すると芹花は、スッと視線を外すのである。


 「あれは、炎弥さんが開発した技ではありませんよね?」


 芹花がそう聞くと、炎弥は落ち着いて穏やかに一つ頷く。何を聞きたいのかは今だ理解しているわけではなかったが、確かにそれは自分にとっても重要な事だ。何故なら炎弥は花から卑弥呼を殺す気などはなく、拉致と言っても、所管を渡すチャンスがほしかっただけなのだ。


 自分達の願いを聞き入れてほしかっただけなのである。


 「うん」


 その間も鋭児は、まるで餌やりをするように、炎弥にミカンを食べさせる。そしてそれを小梅は、若干羨ましそうに見つめている。

 

 「あの技は、曾爺様が前回の襲撃で使った技だよ」

 

 炎弥はさらりとその事実を言う。此は彼が開き直っているわけではなく、その事実は変えられないからだ。これから呪いを解こうとしてくれている芹花に、美辞麗句だけを並べたくはなかったのだ。


 穏やかな雰囲気の中にも、一つしんと静まりかえったものがあった。

 

 「そうですか。その事で、何か伝記などはありませんか?」


 「ん~……それなら、お竹さんのほうが詳しいかもしれないね。火縄、お竹さんと交代。あと、鍋が食べたい……」


 「ええ!?いや、もう一個ミカン……」


 「早く!」


 「分かりましたよ……ったく。大将は人使い荒いんだから……」

 

 火縄は、ブツブツと言いながら立ち上がるのだった。

 

 「火縄はああ見えて、結構料理上手いんだよ」

 

 要するに、台所番がお竹から、火縄に変わったといった具合だ。

 

 「さて……随分古い話となりますが……」

 

 お竹は、掘りごたつだというのに、正座をして、一つ思案をする。何から話して良いやらと、そんな具合である。


 「私は当時の風林火山の一角を担っておりました所、当時の御舘様も同じく、武家の未来を憂い嘆いておられまして……」


 お竹は一つ一つ当時のことを思い出しながら、語り始める。

 

 ―――― お竹の語り ――――

 

 当時の武家はまだ呪いなどというものに、苛まれてはおりませんでしたが、それでも徐々に衰退し始めた武家の勢力に、どの家もその将来を危惧しておりました。


 当時の、御舘様もその一人で御座います。


 武家も今よりはもう少し、交流もありましたし、日に日に細る力に、耐えかねたのでしょう。


 そのうち、幾つかの家が、まとまりなく、各の思惑の下に権力を取り戻さんと、蜂起しました。ですが、卑弥呼を祀る天聖家の守りは思いの他か堅く、その時既に、武家と六家の間には、今ほどではなくとも、その武力に開きを見せておりました。


 御舘様は、憂いを持っておられましたが、それも定めと腹に据え、余生を過ごすつもりで折られたのでしょう。


 それでも、まだ菱家や、毘沙門一家などは、恵まれた方。


 もはや家の体すら成せぬ武家などは、本当に惨めなものでした。代々受け継いだ屋敷は朽ち果て、土地を投げ食い扶とし、散り散りになり、音沙汰も無くなった次第で御座います。


 そんな者達が、拳を突き上げた所で、それは負け犬の棟吠え、蚊の鳴く声ほどにもなりませぬ。


 それでも武士たる者の意地なのでしょう。


 玉砕と知りながら、散発的に仕掛けられた戦は、全て門前で打ち払われました。

 

 何が尤も無様なのか……。

 

 天聖家は哀れな捨て犬を見下ろし、ただ追い払うように、相手にせず、彼等に死に場所すら与えなかったのです。

 

 御舘様は、耐えかねたのでしょう。


 死に場所すら得られず、ただ朽ちて行く武家の有様に……。

 

 我らも卑弥呼そのものには、恨みも御座いませんでしたが、矢張りその威たる象徴であるかの者を撃たねば、一矢報いたと言えず、であるならそれを最後の花道とし、各地の武家に呼びかけました。

 

 しかし、ただ声を出したとて、此までと変わらず、天聖の防壁の前に、数だけの我々がじり貧のなるのは明白。


 そこで御舘様は、ある技を習得されたのです。


 その技は、ただ一度きり、その為だけに編み出された秘術で御座います。

 

 それが、天帝確殺で御座います。

 

 尤も、警護が煩雑となり、年に数度、卑弥呼が奥の殿から、姿を晒す豊穣祭が、矢張り尤も我らにとって好機で御座いました。

 

 案の定、警備は乱れ、我らは乱戦に持ち込む事が聞いたので御座います。

 

 期は訪れ、我らは勝利を確信致しました。

 

 そして、天帝確殺を放たれた御舘様の龍脈は潰れ、その手から技が放たれることはなくなりましたが……そう。確かに貫いたので御座います、加勢した赤銅家の防壁を打ち破り、そして卑弥呼の胸を……。

 

 ―――― 終わり ――――

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