第2章 第14部 第21話

 一同は、菱家に到着する。

 

 「やれやれ、結構難所でしたね……」

 

 すっかり冬景色となってしまっている菱家の邸宅の周辺は、路面も凍り付いており、運転に随分気を遣った藤だった。


 少し眠たげな芹那を先頭に、鋭児達が車を降りると、珍しく炎弥自らのお出迎えとなる。


 前回は、黒羽で会ったり、岳獅であったりなのだが、流石に鋭児が来るとなると、待ちきれなかったのだろう。

 

 「芹花さんいらっしゃい。えっと……審判をしていただいた……」


 「大原大地だ」


 「藤です」


 大地、藤の順番で、炎弥と握手をする。彼女は相変わらず手袋をしていたままだったが、握手そのものは非常に軽快で、素直な物であった。

 

 それから、鋭児を見ると、炎弥は両手を広げて待つ。


 「目……どう?」


 鋭児は声を掛けると同時に、両手を広手待つ彼女を、そっと抱きしめ至近距離で、ワイレッドに染まったその目を見つめる。


 「凄く調子良い。視界も明るいし、黒野君もよく見えるよ」


 「ゴメンな。どうしても、強い力を使うと、影響出ちゃうんだ」


 それを聞くと、炎弥は首を全力で左右に振る。見えないと思っていた目が見えるようになったことは、彼女にとって奇跡に等しい。

 

 「さ、皆さん入って!」

 

 鋭児との抱擁も名残惜しいが、何時までも客人を待たせるわけには行かない。


 炎弥は一度鋭児から離れ、軽い足取りで先頭を歩く。


 そして、いつもなら出迎え役を買って出る岳獅が、玄関出待っており、芹花達が玄関に入ると、ぺこりと頭を下げる。


 「黒羽さんは?」


 芹花が彼の顔がないことを気に掛ける。それは、前回の神妙な面持ちがあったからだ。


 「ああ、征嵐もなんだか、弓道部の顧問とかに目覚めちゃって。神楽さんは凄く怒っていたけど、やることが出来るっていいことだよね」


 そして、依沢もまた、学校の保険医という仕事があるため、本日はこの場にいないということだ。


 「コタツを出したんだ!取りあえず。皆で温まろうよ」


 本当に嬉しそうだ。勿論鋭児が自分の家に、こうも早く訪れるとは思ってもいなかったというのもあるが、こうして武家誰かが態々この時期に尋ねてくると言うことが、彼女にとって嬉しいらしい。


 何とも無邪気である。


 そんな炎弥を見ると、岳獅の顔もふと緩んでしまう。

 

 そして、お竹がスリッパを出す。


 「ご案内致します」

 

 と、丁寧に頭を下げて、先に行く炎弥の後を彼女が歩く。

 

 「掘り炬燵なんだ」

 

 余り広い部屋でもなく、客間と言うより完全に私室のように思えが、それでも彼女の部屋とは違い、温かみもありあり、団らんの場にはもってこいだ。

 

 そしてコタツと言っても、随分大きな作りだ。


 それは恐らく、こうして家族で囲むためなのだろう。炎弥の場合は、風林火山の面々や、お竹であったりと、そんなところだ。


 ただ今日は来客の優先である。

 

 「黒野君!」

 

 炎弥は、早速自分の真横に来るように、コタツに入ると同時に、隣の席を叩く。


 これほど楽しみにされては、どうしようも無い。


 そして、正面には芹花と聖が座る。


 「お竹さん!お茶お願い!」


 「はいはい。お客様の前ですよ。もう少ししゃんとしてくださいな」


 そう言って、お竹は台所に向かうのだった。

 

 そして、火縄がぶらぶらと、襖の閉められていない部屋の前を通り過ぎる。

 

 「さっぶ……」

 

 冬でも、肌にシャツを一枚引っかけているだけの火縄の格好の方が余程寒いだろうと炎弥は思うのだが、藤と大地の正面が空いてしまっている。

 

 「火縄!ちょうどいい。小梅ちゃんも、連れてきて!」

 

 「はい?」

 

 そう言って、誘われたのは火縄と小梅とい少女だった。彼女はお竹の孫娘だそうだ。他聞に漏れず、両親は呪いの影響で死んでしまったとのことだ。

 

 岳獅は呼ばれれば来るが、このときの炎弥の行動には大して深い意味などない。


 ただ、余りに場違いな状況に、小梅はすっかりと硬直してしまっている、素朴でかわいらしい猩々で、恐らく炎弥と年も変わらないか、僅かに年下か?といったところだ。


 女中姿であることから、お竹共々、炎弥の身の回りを世話をしているのだろうということが、一目で分かる。

 

 そして、お茶も用意され、ミカンを一口二口と食べたところで、芹那はもう一度お茶で口を整えて、湯飲みを置く。

 

 「炎弥さん、幾つかおたずねしたいことがあるのです」


 「うん。分かってる」

 

 そう言っている間も、鋭児はミカンを剥い一欠片ずつに分けている。炎弥が食べやすくするためだ。

 

 「一つはあの、天帝確殺という技なのですが……」


 「ああ……あれ……ね。うん、お察しの通り、あれは天帝、つまり卑弥呼様の命を奪うため、つまり強力な防御も貫き、敵を倒すための技だよ」


 炎弥は淡々と答える。その事に嘘は無いのだし、隠しても仕方が無い。

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