第2章 第14部 第18話
場面一転――――。アリスのスマートフォンが鳴る。
「あら、珍しい聖だわ」
彼女は席を外し、キッチンの方へと向かう。
聖とはあまり電話でやり取りをするわけではないが、こうして彼から直接連絡が掛かってくると言うことは、大体陰陽家がらみである。
そして、二人だからこそ出来る会話もある。それは決して仲睦まじいからではなく、互いの能力故といったところだ。
逆にあまり他人に聞かれるべきものではないことが含まれている事があるため、こうして気を遣うのだ。
大地もそれを解っており、聴き耳を立てに行く事もない。
彼女が戻って来るのを、大人しく待つだけである。
「黒野、腕はもう良いのか?」
時間の穴埋めに選んだ相手は鋭児である。吹雪は早々に眠りについてしまった。焔は何と無しにテレビを眺めている。
「ええ。焔サンと吹雪さんにブーストしてもらいましたんで」
「べ……便利だな……」
大地が照れを隠せないのは、二人が肌を密着させて鋭児寄り添っている姿を思わず想像してしまったかららだ。それを理解した焔は、意地悪に白い歯を溢し、歯の隙間から息を漏らすようにして笑う。
「ゴホン……、あと菱家のお嬢さんの方は?」
「炎弥ですか?目も調子いいみたいです。一安心ですね。雪の溶ける頃に……なんて言いましたが、近々覗きにい行きたいと思います」
「そうか。しかし……まぁ順位戦は兎も角、年明けには初の六皇戦だ」
「言っても、オレも二回だけしか経験ねぇけどな」
焔が口を挟んでくる。大地は鋭児の何を心配しているのかは解らないが、自分達との戦いは此までの戦いは、その力量が大きく問われる舞台となることを言いたかったのだろう。だが、それでもどれだけ多く行ったとしても、五回程度であり、大地も引退の時期が近づいている。
明らかにそれは冷やかしである。だからこそ一戦一戦が貴重なのだと大地は念を押したかったのだ。
他人にかまけている時間は余りないということだ。
「確かに気を抜くと鼬鼠さんにも怒られそうですね」
鋭児は、ブチ切れている鼬鼠をつい思い浮かべて、思わず吹き出して笑いそうになる。
「前回の六皇戦は、みんなに謝らなきゃならねぇな」
焔は今更ながら、今年初めの六皇戦においての自分の振る舞いにい大しての謝意を口にする。しかし誰もが焔の異常を察していた。アリスや聖に至っては、完全に知っていた。
そして、焔が今更のようにそれを口に出来たのは、それだけ様々なものが解決に向かい始めているからだろう。
その時にアリスが戻って来る。
「なんだったんだ?」
「明日、夜叉家に向かう事になったわ」
「聖とか?」
「ええ。例の呪いの件でね」
「そうか」
「そういうことで、早朝から出かけなければならなくなった。どう?大地泊まっていく?」
この場でそれを聞くのか?と大地は、盛大に動揺し始める。そして鋭児の方を見る。
「姉さんには、自由にしてもらうことにしてるんで……」
鋭児はさらりと流す。
「ふふ。ごめんなさいね。先にお休みするわ」
アリスはそう言って、迷い無く鋭児に近づいて彼の頬に唇を押し当てて、さらりと自分の部屋に戻っていくのであった。
「ご……ゴホン。じゃぁオレもアリスともう一杯飲んでくるかな……」
大地もそう言って席を立つのだった。
そして、大地が家を出てから、少し間を開けてから――。
「んじゃ、俺達も風呂入って寝るか?」
「はい」
さらりとしたようで、明らかに鋭児を誘う焔の視線であった。
翌日――――。
アリスと聖、そして芹花は夜叉家の屋敷に来ていた。
雅な雰囲気のある天聖家とは違い、夜叉家は非常に厳かな面持ちの和造の屋敷であった。恐らく何百年も維持されているであろ、艶やかな飴色をした柱に、大きく屋敷を囲っているであろう漆喰の壁、人里離れた場所という意味では、六家共通だが、一際空気の重い静けさに包まれていた。
夜叉家には特に、門番などはおらず、アリスが門に触れると、自然に扉が開かれ、芹花と聖は、アリスに導かれるままに中へと入る。
六家が集結するときは、殆どが天聖家か学園であり、夜叉家と天聖家では、手紙及び通信手段を持ってやり取りをすることが常で、こうして直接話す事は、余りない。
夜叉家はあまり他家と交わることがない。夜叉家の中でも頭首と部下が直接面することもあまりない。それは彼等が呪いというものを多く取り扱っていることにある。そして卑弥呼以上に顔をさらすことがない。
よって、面するといっても、彼等が応接間で顔を付き合わせたのは、黒い面布をした、黒いワンピースの痩身とした女性だ。
手の表情を読むに後期高齢者であるには間違い無い。
「ようこそ、お越し下さいました。若き天聖の頭首、そしてそのお着きの方」
聖の名を知っているはずだが、あえてそうは言わない。
「今回は、五十年ほど前から続く、武家への呪いの件について、お伺いに参ったのですが……」
「承知しております」
そして、芹花は聖に目配せをする。
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