第2章 第14部 第16話
その時風雅のスマートフォンが鳴る。
「はい。あ?更様?え?今からですか?うーん。はいはい。解りましたよ」
風雅はスマートフォンを再びポケットにねじ込む。
「ゴメン。なんか更様が、買い物に出かけるんだって。いや、もう夜だし……仕方なし」
風雅はガッカリとしてしまう。別に更の事が嫌いなわけではない。だが、こういう衝動的なところがある事に、若干辟易としてしまう。
「最近割と掛かってくるよな?」
「そうなんだよなぁ。まぁオレ東雲家だし、当てにされるのは、全然いいんだけど……」
そう仕事だといえばそうなのだから、当然本来風雅としても、本意ではあるのだが、からかわれている気がしてならない。
「頑張れ最強~」
「もう、日向ちゃん心こもってない……」
それから、風雅はチラリと吹雪を見る。
「風雅さん。有り難う御座いました。また、お願いしますね」
息を整えながら、ニコリとする吹雪である。
すると、風雅は急に盛り上がって、飛び跳ねながらその場を後にするのである。
「風雅もむくわれないわね……」
アリスがため息がちにい彼の背中を見送るのだった。
「言ってやるな」
そして、大地がぽつりと呟くのだった。
「てか、組み手程度とはいえ、結構遠慮ないな……」
「ふふ。互いの実力は知っているもの。吹雪がこれくらいで怪我をするような娘じゃないって。あんなにデレてる風雅でも、それと此は別」
「そか……」
アリスもあえて、明言はしないが、言葉を繋げると自ずと見えてくるものがある。
正しくは、遠慮が無くとも弁えている。といったところだ。余計な所に神経を割く必要がない相手だということだ。だから加減もする必要は無いし、見誤ることもない。
そして何より、乱れることがないのだ。
途端に煌壮はシュンとしてしまう。またやってしまった、見えなくなってしまった。何より鋭児は自分を心配して、注意をしてくれたというのに、それを払って、焔の所に逃げてきてしまった。
「ふふ。私達も切り上げましょう。シャワー浴びてくるから、ここで待ってなさい」
アリスは煌壮の頭を撫でると、彼女はコクリと頷く。
そして、吹雪がヨロヨロと立ち上がりながら、焔とアリスの後ろをついて行くのだった。
「鋭児兄……怒ってるかな……」
それだけを思うと、何とも心苦しくなる煌壮だった。
「年明けには、鋭児が初の六皇戦で、オレも初の炎皇戦か……」
お互いに成すべき事がある。それは年明けであり、その足音がもう聞こえ始めているのだ。手応えがほしかった。たったそれだけのことだったのだ。
改めて自分が焦っていたことに気がつく。
「成長してねぇ……」
煌壮はその場に座り込み、ドーム式となっているグランドの天上を眺めた。
「じゃ、帰ろうぜ」
「というか、最近すっかり日向さんの住まいに一度集まるのが週感づいてしまってますね」
車を出すのは藤なのだから、焔達は送迎してもらう立場となっているため、若干皮肉交じりに聞こえてしまう。
「ただいまー」
焔を先頭に彼女のコテージに戻ると、鋭児がテーブルに何やらを並べていた。
「そろそろ、戻って来るころかなっておもってたけど」
「おお……おおおお!」
煌壮は途端に目を輝かせ始めたのである。それは着々と並べられ始めているオムライスの群れだ。しかも大きい。
「おいおい……」
まさか、全員オムライスなのか?と焔は、面食らってしまう。流石にこのメンバーの夕食にそれはないだろうと思ってしまう。
「鋭児君はやく!」
奥では美箏の声がする。鋭児はオムライスを作るのが上手にはなったが、量をこなせるほどの器用さが身についたわけではない。自分と煌壮の分程度であれば造作もないが、流石に食卓を埋め尽くすほどの量となると、一人では太刀打ち出来ないのだ。助っ人を連れてくることにしたらしい。
ちなみに、オムライスはノーマルタイプである。
「ああ、わりぃ!」
「私も手伝うわ。吹雪はゆっくりしてなさい」
アリスに促された吹雪は、やや眠たげな表情をしながらコクリと頷くのである。
鋭児は怒っていない。それが解っただけでも煌壮の気持ちは軽くなる。今までの悩みなど何のそのというところだ。
そして、オムライスが並び、アリスが追加で作った料理が並び、食卓に全員が揃った所で、美箏が煌壮を見てクスリと笑う。美箏のその様子から、自分と鋭児の顛末を彼女は知っているらしい。するとなんとも恥ずかしくなりその頬が赤く染まり、閉口してしまう。
勿論悪意はない。ばつが悪いだけだ。
結局煌壮が癇癪を起こして、焔達の所へ逃げてきた事に関しては、そのまま触れられることがなかった。
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