第2章 第14部 第10話
車列はやがて、迎賓館へと着く。
まずは吹雪が下ろされ、彼女は一人で卑弥呼達の所へ向かう。
次へ炎弥達が下ろされ、彼女達は自分達の待機部屋へと連れて行かれることとなる。そして、鋭児達もまた同じく、自分達の控え室へとつれて行かれることとなる。
此には理由がある。
確かに個人の付き合いはいざ知らず、武家と六家は長年その溝を隔ててきた間柄である。特に今回、武家は卑弥呼誘拐を画策しており、本来なら彼等は六家にとって犯罪人といえる。
ただそれを、卑弥呼が寛大さで収めたに過ぎない。
卑弥呼がそうであるのなら、天聖家はそうであるしかない。
香耶乃のと記は文字通りそうなのだが、芹花はそれを利用したに過ぎない。勿論卑弥呼に対する中世は彼女も変わらないのだが、神格化はしていない。
要するに彼等が個別に案内されているのは、その立場故なのだ。まだそこまでの関係性は構築されている訳ではない。
そして、炎弥は車椅子ではあるが、彼等は迎賓館の小ホールで、主役二名介添人が両組二名と並び、卑弥呼を待つ。
ホールといっても十数人がテーブルを囲い会議が出来る程度の部屋だ。天上が特別高い訳でもなく、装飾なども漆喰の壁に、重厚な朱絨毯と、大将モダンな作りとなっており、シャンデリアもほんのり暖かい色味を持って、彼等を照らしている。
室内の空気はシットリとして静かで、非常に急音声の優れた空間で、厳かにしんと静まりかえっている。そう感じるのは静けさに乾きがないためだろう。
また、冬場ではあるものの、空調が機能しており、部屋の隅々まで、適温に調整されいる。
そして別室の扉が開かれ、まず吹雪が洗われ、次に芹花が顔を出し、最後に聖が現れる。
鋭児を始め一同は頭を下げる。
そして、彼等が頭を下げる卑弥呼は言葉を述べ始める。
「先日は大義でした。まさに乾坤一擲、双方の命運を賭け、全身全霊を尽くした素晴らしい試合だったと思います。よって、勝者に二つ、健闘者に一つ、報償として可能な限りの礼を尽くしたと存じますが……。まずは炎皇、貴方は何を望みますか?」
鋭児は聖の方を向くと、彼はコクリと頷く
「聖さんが知っている呪いの件です」
「……と申しますと?」
それは具体的ではない。話しそのものは聞いている。だが卑弥呼自身は彼等の言い分を聞き届けただけで、そもそもそれは事実に基づいていない。状況証拠がそう述べているに過ぎない。
「是非調べてほしいんです。何がどうなってそうなったのかを……。そしてその解決に望んでほしい」
「……」
卑弥呼は少し黙り、芹花とひそひそと話をする。
「炎皇。それでは望みが二つになってしまますが?」
芹花が手厳しいことを言う。そこは譲らない。
「構いません。それで……」
「それでは炎皇、貴方の労いにはなっていませんよ?」
卑弥呼が念を押すようにそういうのだ。余りに無欲すぎるのではいか?と言いたいのだ。
「構いません。俺には宝物が沢山ありますし。今特にほしいものも無いですし……」
鋭児は焔と煌壮の肩をスッと抱き寄せつつ、確りと吹雪と視線を合わせる。
「解りました。貴方は愛されていますね……」
卑弥呼はニコリと微笑む。それでこそ鋭児らしいのだと。試合直後に身体がバラバラになってしまった炎弥を抱きしめながら泣いていた彼を卑弥呼も知っている。それでも鋭児にも守らなければ成らない一線があった。
そこには六家であったり、学園でもあり、東雲家の名誉でもあったり、そして何より焔で気のない戦いなど出来ようはずがないのだ。
そして、卑弥呼の前で鋭児が負けることは、芹花の立場も危うくしかねなかったのだ。
「解りました。それでは菱炎弥殿、貴女の望みは?」
「具体的に……ではありませんが、武家を皆を、助けて下さい。このままじゃ皆、寄り添う家がなくなってしまう。それは余りに……寂しい……」
呪いにより人が削られ、領主として立場を奪われ百年を超えている。絆だけでは抗えない距離がある。やがて離散し屋敷は朽ちて行く。その前で呆然と立ち尽くす家臣達を思うと、炎弥は心が痛まずにはいられない。
それは何も、菱家だけの問題ではない。
いや寧ろ菱家は恵まれている方だ。神楽の米沢家も小さくはあるが、まだ纏まっており財もある。この度卑弥呼誘拐に加わった家などは、まだ結束できた方だ。
家系が漸くそれをつなぎ止めている武家も少なくない。再興を願えど、日々に追われなければならないのだ。
「解りました。ただ、敵の飼い葉桶から餌を与えられるような事になり兼ねませんよ?」
「僕が説得する。皆を、他の武家の当主と話をする。できる限り手を差し伸べてほしい」
「お約束致します」
芹花は卑弥呼と目を会わせ、互いに頷き合うのだった。
「あ!でも、当初の炎弥殿の書簡には、炎皇殿とイチャイチャ……う!」
卑弥呼が目を輝かせながら、炎弥の送られてきた書簡の中に書き加えられた望みの一つを口にしてしまうのである。そして、芹那が卑弥呼に肘鉄を強めに入れるのだった。
全員が見てはいけないものを見た素振りをするように、一斉にそっぽを向く。
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