第2章 第14部 第9話
「鋭児が悪いな」
「そうだよ!黒野君が悪い!」
「え?俺が!?」
「な?気がついたらいつの間にか、体の方が先におきちまってて。いや……そうじゃねぇな……」
焔のそれを聞くと、吹雪はさらにうれし恥ずかしそうにする。
「目が覚めた瞬間、絶頂直前だった……なんてな?」
焔はそう言って炎弥をチラリと見ると、炎弥はワナワナと震えだし止まらなくなっている。
「はぁぁ……」
そして大いに落ち込むのである。
朝から何という会話をしているのかと鋭児は若干引き気味になってしまう。
「いや……そんなホイホイと……」
「ホイホイ女作ってるテメェの出る幕はねぇ!」
「いや……」
確かに反論する余地はない。それでも矢張り同意があっての色恋だと鋭児は思っている。いくら炎弥がその気だったとして、それが許されていたとしても、鋭児としては矢張りもう一つ二つ、時間がほしいところだった。
それに炎弥にはしてやりたいことが他にもある。
「所で大将、眼帯してっけど顔はもうあらったのか?」
「あ。うん。黒野君と一緒に歯磨きした」
「そかそか。俺も飯食ったら顔洗うかな……」
そして、彼女達は四人で朝食を食べる。
この後は、再び卑弥呼達と会い、授与式がある。
鋭児と炎弥の授与式は、卑弥呼が宿泊している迎賓館で執り行われることとなり、吹雪もそこまで同行するのだが、その後彼女は主賓側で参加することとなる。
鋭児は付添人として焔と煌壮を連れて行くこととした。
それは武家側が、炎弥、岳獅、依沢と三名であるため、数あわせをした格好だ。
炎弥は、改めて彼女の正装というべき、黒い軍服に身を包む。軍帽もすっかり綺麗になっており、というよりか新品である。
「流石に、肩章とかは、流用だけどな」
要するに、一晩で仕立てられたと言うわけだ。
「へぇ……ピカピカだ……生地もいい……前のけっこう良い生地つかってたんだよ?」
自分の為にここまでしてくれるのかと、炎弥はいたく感激をしていた。それが芹花の心づくしであることは言うまでもない。
「ちゃんと、術式も編み込まれて耐久力も高くなってるし」
「鋭児兄。連れてきたぞ?」
そういって煌壮は、依沢と岳獅を炎皇の間に連れてくる。
そして、依沢はすっかり新しい衣服に身を包み、車椅子に腰掛けている炎弥を見つけると、足早に駆け寄り……。
「若……卒業はされたのですか?」
そうボソボソとそしてニヤニヤとしながら、秘め事は度だったのかと尋ねたのだ。
だが炎弥は強ばって引きつった笑顔を作ったまま、気まずそうに視線を逸らすのだった。
「黒野君?若になにかご不満でも!?」
「あ……いや。寝顔が可愛すぎて、流石にちょっと、あれからずっと寝ていたし……」
「男なら、そこはたたき起こしてでも……いやそうじゃないわね……目が覚めたらアレの直前でしたってのも……」
どうもなかなか、狂った思考の持ち主ばかりらしいと、鋭児は引き気味になる。そして、依沢のその思考に岳獅もついて行けないようだ。
「なんだか……その済まない。御舘愛が強すぎてだな……」
「はぁ……」
「どのみち、その件は一度持ち帰らせてくれないか?なにせ孫のように御舘様を可愛がっている人もいるし、まぁそれもそのうちに君が顔を出したときにでも、御舘様と相談してほしい……」
岳獅はかなり照れを交えながら、炎弥と鋭児の関係を深めるように促す。
「まぁ……確かに、角が立つ……か。お前案外そういう嗅覚あるよな」
焔は鋭児の肩を遠慮なしに、ポンポンと叩き何故か誇らしくしているのだ。
「じゃ……じゃぁベッドも新調する……。お金も少し出来たし……」
炎弥がブツブツと顔を真っ赤にしながら、早速段取りを考え始める。
一同は、卑弥呼の待つ迎賓館へと向かう。
どうやら今回芹花は送迎に当たらないようだ。あくまで主催者として、現地で待つらしい。送迎はそれぞれのグループごとに分かれ、吹雪は先導車へと乗り込み、その辺りから既に行動が別とのことだ。
理由としては、到着後にそれぞれが向かう場所が多少異なるためだ。
といっても鋭児達と炎弥達は控え室が分けられているという程度のもので、本来炎弥が止まる場所は炎皇の部屋ですらなかった。
それはあくまで彼女の希望に添われただけの結果である。
ここにきて、炎弥は少し緊張の色を見え始める。
そう、漸くここまでこぎ着けたのだ。いくら鋭児達と和気藹々としていても、勝者は鋭児であり、その彼の口から発せらられる言葉で、全てが決まってしまうのである。
そう考えれば、打ち合わせなどしておくべきだったとも思うが、それは炎弥の本意では無い。勿論信じているからこそそう思える余裕が俄に出来ているのかもしれないが、ニュアンス一つで、取られる意味合いもまた異なる。
それに、鋭児がこの事に語らなくとも、自分にも一つ報償を受ける権利が与えられている。そう心配することは何もない。何もだ。
それでも、炎弥の中では鋭児が自分の味方であり続けてほしいという気持ちがあり、その考えが浅ましいとは思いつつも、何故かそれが一番希望に近いと思ったのだ。
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