第2章 第11部 第15話

 「で、良いんですか?天聖家の面子を潰す事になり兼ねないんですよ?卑弥呼様も……」


 「涙に暮れている方を放ってはおけません。それにその……呪いという事を私は存じておりませんので、語って頂けると嬉しいのですが……」

 

 鋭児達は、白色灯の灯る、バス停にまでやってくる。


 朽ち果てそうな木製の覆いに、ベンチが二つ並べられており、どちらも錆が浮き、表面の塗装が剥がれている。

 

 壁にも、茶色く錆が浮き上がった、スチール製の広告枠に、いったい何時頃から張り出されているか解らないほど、色あせた広告が、黄色くくすんだアクリル版に覆われている。


 なんとも古ぼけて、そこだけ時間に置き去りにされている気がした。

 

 鋭児は一通り、自分の知っているであろう事実を、卑弥呼に話す。


 そしてそれは大凡そうなのだろうとされつつも、核心部分が解らない状態である事も含めてのことだ。

 

 「まぁ……アレだね。それだけ当時はヤバかったってことだろうね。天聖家としては、ある程度絶えず、武家の力を削いでおく必要性を感じていたってことだろうし……」


 「俄に信じがたくは思います。いいえ、私が信じたくないだけなのかも知れませんが……」


 純粋培養をされた彼女にとっては、さぞ心の痛む話だろうが、実は人の命に関わらないレベルでは、いや、厳密に言えばそうではないが、相手の力を削ぐために、絶えずシェアを奪ったり、ルールを固めてしまったり、フォーマットを作り上げてしまったりと、独占的な利益を得るために、人は絶えず他者を排斥し続けている。


 その為には何が効果的なのかなど、絶えず模索され続けている。

 

 得た結論としては、さほど人員と労力を割かず、相手に精神的打撃を与える方法をとったと言える。


 ただ、それは天聖家の手を汚さないというだけの話で、実際はそうではないのだ。


 まず黒野家の人間が、その呪いの依り代の使われていたという事実がある。

 

 自分の両親の死もそうだし、今夏の叔父夫妻の事故もそうだ。ただそれは、神楽や毘沙門一家とのやり取りで、そう推測されるだけのことで、仕掛けそのものを理解出来たわけではない。

 

 何故なら、鋭児も社の奥に入ることが出来ず、引き返すことにしたからだ。

 

 「まぁあとは聖の仕事っしょ。六皇には役割あんだからさ」

 

 「はい」

 

 鋭児は、風雅の言う六皇の役割というのは余り理解していなかったが、聖とアリスがいわゆる陰陽の関係にあり、呪術的な役割を熟し、自分達は主に高い戦闘力を求められ、その外郭を守るということくらいは、聞かされている。

 

 本来呪術というのは、夜叉家の管轄であり、天聖は破邪、風魔、浄霊などと言われる分野を担当している。そして治癒なども、そこに含まれている。


 よって、陰気を払うには、聖の能力者に限るという訳だ。


 そして聖の仕事だと言えるのは、当に天聖家が絡んでいるからである。他の第三者が踏み込める案件ではないのだ。


 最もその聖とて、許可無く動くわけにもいかない。


 だから、彼はまず禁書庫に立ち入り、伝記等に目を通す必要がある。確証を得て、事実を突きつけ諭した上で、浄化に入らなければ、さらなる禍根をの残しかねないのだ。

 

 風雅の天聖家を少し驚かせるという事も、満更悪戯だけに止まらず、その中で彼等が何らかの功績を挙げることで、その道筋を作る事にもなる。

 

 最も此を、自作自演というのだが――――。


「整理しようっか」


風雅は人差し指を立てる。


「まず、オレ達は何のためにいるのか?ってことね。ここ大事よ?色々な生き方はあるけど


 基本はやっぱり六家なんだよ。オレ達はその為にいる。学生だろうと何だろうと、いざというときには、防壁にならなきゃいけない。だから今回の事件は、高等部二年にとって良い勉強になる」


 次に中指を立てる。


 「ここだけの話よ?天聖家の傲慢さ。確かに豊穣祭は六家にとって大事な儀式だし、当然卑弥呼様にとっても大事な儀式だ。だが、武家の連中が襲ってくることは、既に聞いていた話だ。なのに、見栄のために祭典に拘りすぎてる。盛大であれば成功だというとんでもない思い違いさ。儀式は本来厳かであるべきで、なんなら各家の当主とオレ達六皇だけでいい。まぁ各家の一線級とかさ、ウチの葉草さんとか……」


 そして薬指を立てる。


 「人が多いと混乱が生じやすい。此はさっきのにも繋がるけど、重要なのは華やかさじゃない。厳かさだ。そもそも無駄で、尚且つ学生数百人にいきなり、プロとの臨戦態勢取れって?まぁ現地でみんな訓練してると思うけど、高火力のオレ達は外されて、守備の得意な大地さんは中。解るっしょ?」


 要するに、鋭児の鳳輪脚や、周囲を暴風に巻き込む素戔嗚などを使えば、余計な怪我人を出しかねないということだ。それほど人出溢れかえると言うことである。


 「そういや、風雅さんは、東雲家本家で待機してたんじゃ?」


 「だから、で駆けつけたってんでしょ?鼬鼠ちゃんなんて、学園待機だぜ?可愛そうに……」


 そう言いつつ、風雅はむくれている鼬鼠を創造しながら、悪気なく笑い始める。


 「ウチのアニキなんてのは、水芸も得意だから、しっかりと護衛の任務に就かされてるよ」


 なるほど、得手不得手があるということだ。

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