第2章 第11部 第14話

 「ちょっと、ベタベタしすぎなんじゃぁ……」

 

 「征嵐は黙ってて!あと黒野君が警戒するから、近づくの禁止!」


 「そ!御舘様、それはないんじゃ!?俺は、鋭児君ホントに気にいってるんですよ!?」

 

 「男のアンタに言われても嬉しかねぇよ。気持ち悪い」

 

 その一方で炎弥に妙に優しい鋭児に対して、彼は別に良いのか?と、風雅はツッコミを入れてしまいたくなる。


 一方鋭児に手を握られて、妙に嬉しそうにしている表情の炎弥が妙に艶めかしい。

 

 「で?卑弥呼様、どう成されるおつもりで?」


 風雅は何か妙案がありそうな卑弥呼の話を聞くことにする。

 

 「あ、はい。せめて、私の元に辿り着いて下さい。その時にまでに、手立ては考えておきたいともいますが……。あと、聖皇と氷皇にも、ちゃんと伝えておかくては……」


 自分が言を発すれば、誰も手出しが出来なくなる。それだけはハッキリと解っていることだ。

 

 「大丈夫ですか?まぁ実際。さっきも言ったけど、吹雪ちゃん相手てのは、オタク等じゃ分が悪すぎる。茶番無しじゃ、吹雪ちゃん突破は無理だろうねぇ」


 風雅は、あまりに突発的な卑弥呼の発案に一抹の不安を覚えなくもない。尤も、その辺りは聖当たりがカバーするだろうとは思っているが――――。


 「そんなに……強いのか?その人は……」

 

 炎弥は自分に自信はある方だ。だが、鋭児の技を見て、更に天海風雅はそれより強いと聞く、その彼が認める相手だとすると、余りに壁が厚い。なにより現時点で自分達の目論見は、半分崩れてしまっている。

 

 もとより警戒された中を突破する算段ではあったのだが、拒絶されたまま卑弥呼に近づこうとすると、間違い無く彼女は待避し、守護者が彼女を守り、さらにその外周を守りに入るだろうことは、容易に想像の出来る展開だ。

 

 其処に至るは、意地の他ない。もとより半ば死に場所を求めるために、決起したようなものである。

 

 「僕らはどのみちどうにかして、そこまでの道は切り開かなきゃならないってことだね……」

 

 鋭児に手を摩ってもらいながら、炎弥は考える。


 今当に一縷の望みが見えた瞬間でもあった。少なくとも彼女は会話の意思がある。それでも手助けは難しい。物事は自然で成らなくてはならないし、当の本人は儀式の真っ最中であるため、手助けなど出来ようはずもない。 炎弥が返答を考えている間、鋭児は開かれることのない炎弥の左まぶたを幾度となく撫で、また頬に触れる。

 

 「ね、ねえ鋭児君。ちょっと、ウチの御舘様触りすぎじゃない!?」

 

 急に黒羽がソワソワとし出す。そして炎弥もそれをすんなりと受け入れてしまっている。

 

 「かわいそうだろ……こんな怪我して、今朝も痛がってた……、手も酷い……」

 

 中性的な美男子の炎弥と、鋭い眼差しの鋭児が、視線が交わされる。そして炎弥は頬を赤らめて視線を逸らしつつも、鋭児の掌の感触を堪能している。


 一方の鋭児は、治癒に専念しているため、炎弥のそれに気を配る余裕はない。

 

 そんな怪しい二人の様子を、卑弥呼はソワソワとしながら、何かの間違いを期待し始める。

 

 「鋭児君は、ついにそっちの領域にまで手を出し始めたのか……」

 

 「と……兎に角、聖属性の能力者でもなかなか大変なだ。炎の能力者の鋭児君に、そう簡単に治せるもんじゃぁ……」

 

 黒羽は急に子を見守る親のように、ソワソワとし始めるのだった。

 



 「顔は今朝に比べて、血行も良くなってるし、筋肉も柔らかいし……、時間掛ければ、痛く無くなるんじゃないかな……」


 「黒野君の……堅くて確りしてて……おっきくて気持ちいい……」


 ウットリしている炎弥はますます怪しい。鋭児には全くそんな意思はないのだが、炎弥はその掌に頬ずりし始める。

 

 「とと……兎に角!」

 

 可成り怪しい雰囲気になり始めている炎弥を、黒羽は引き剥がす。可成りの焦り具合だ。


 「信じるぞ!信じて良いんだな!」

 

 黒羽に引き剥がされた炎弥は、頬を膨らませて、機嫌を損ねてしまう。

 

 「八百万の神に誓って」

 「兎に角オレ達は、当初の計画通り神殿に突っ込む!怪我人くらいは了解してくれよ!」

 

 「ちょっと!征嵐!」

 

 そう言うと、黒羽は炎弥をお姫様抱っこをして、ひとっ飛びにその場を去ってしまうのだった。

 

 「あ……アレですか!?今のがBLというものなのですか!?炎皇殿は、守備範囲が広いのですね!!」

 

 卑弥呼は興奮しながら、目をキラキラとさせる。彼女の私生活を知らない風雅は、なかなかの腐女子ぶりを発揮しようとしている卑弥呼に驚きを隠せない。

 

 「え?ただ治療してただけっすけど……」

 

 「いや、あの炎弥っての、完全に鋭児君にやられてた……てか、なんで鋭児君なわけ!?吹雪ちゃんといい、千霧さんといい!」


 勿論彼等の炎弥に対しての認識は男である。しかしながら妙に嫉妬してしまう風雅だった。


 「いや、知りませんよ!」

 

 緊迫した場面から、一転して妙な空気になってしまったことに、鋭児は戸惑うのだが、卑弥呼が誰の影響でそういう方面に興味を持ちだしたのか、大凡の理解が出来てしまうだけに。余り強く彼女にそれを追求することが出来なくなってしまう。

 

 「俺は、鼬鼠さんと一戦した時の風雅さんは、結構イイ男に思えましたけどね」

 

 なぜ、普段から締まりのある漢字ではないのか?と鋭児は、その後に続く語尾をあえて濁し、風雅をおだてているニュアンスを取る。

 それは、皆が何となく逝っている事である。勿論焔の家で度々行われるアリスとの飲み会の場でも、大地が漏らしている小言である。

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