第2章 第10部 第10話

 「いや、するでしょ。黒野さんも、日向さんも、正直溶鉱炉みたいなもんすよ?」

 

 つまり快晴にはそれが解るのである。ということは、彼も能力者である。


 そして、快晴は背中を見せる。

彼の背中には、中央に丸い痣、その周りに輪が一つあり、放射状に幾つか筋が入っている。 


 「太陽?炎系?」


 「違うっすよ。日輪。太陽ですけど、聖属性です。髪は染めてます。みどりの奴もね」


 「てか、黒野さんやばいですよ。なんでそんな何重も呪い掛かってるんですか……それが一番ヤバイですよ」


 「ああ、コレ?これは宿題だよ。別に動きを阻害するようにはなっていなんだけどね……」

 

 鋭児はアリスの得意満面な笑顔を思い出しつつ、苦笑いをする。

 「宿題って……」


 確かに鋭児がそれを苦痛に思っていないところからすると、彼に掛かっている制約はそういうものではないのだろうと、快晴も理解する。


 「てか、随分喋るな」


 「いったでしょ。ヤバイ人だと思ったんですよ。やり過ごすのが一番だって思ったけど。みどりの奴は、脳天気だから……」


 「はは……」


 脳天気でアグレッシブだということで、鋭児はついつい囲炉裏を思い出してしまうのだ。


 鋭児達が、湯に浸かり始めている頃。

 焔達も、衣類を脱ぎ始めていた。


 その時、焔もミコの胸に、鳳凰の痣があることに気がつくのだ。

 

 「ミコ……それ……」


 焔は気にせずにはいられない。


 「あ……これですか?ウチのお婆さまからの代ですかね。遺伝みたいです」


 「ふぅん……」


 焔は、興味深げにその痣をさらりと撫でる。


 「日向様……くすぐったいです……」


 「ああ……うん」


 だが、焔の関心は収まらず、ミコの言葉に対してはどこか、心ここにあらずと言ったところだ。


 「その……日向様も、胸の谷間に……」


 ミコは、自己主張の激しい焔のバストの間に、寄せてしまえば、隠れてしまうのでは無いかという谷間に際どい位置に、白く射貫かれた鳳凰が有ることを知る。


 「ああ、これは治療痕みたいなもんだよ。言っただろ?オレ去年からだぶっ壊したときによ……まぁなんつうか、鋭児の奴が、命がけで……助けてくれたときに……よ」


 焔はそこまでいって、少し心が震えた。


 鋭児がどれほどの思いで、自分に命を注ぎ込んだのかを、改めて知るのだった。


 そうだ、鋭児は頭髪が真っ白に燃え尽きるほどに、吹雪に止められて漸くそれをやめるほどに、血の一滴が枯れんばかりに、必死に自分を救ったのだ。


 「なるほど……黒野さんはコレを助けるために……」


 そう言って、みどりは焔の後ろから、彼女のバストを持ち上げ、たゆたゆと、その感触を確かめるのである。


 「で……ナニ食べたら……こんなに育つ訳です?」


 「はは、くすぐってぇよ。まぁ、肉だ肉。肉に限るな!」


 「そして、男の肉も沢山食べると……」


 みどりは、鋭児と焔の昼間の行為の意味を知っている。そして、目の前で、弄ばれる焔の両房を見て、ミコは思わずドキドキとしてしまう。

 

 焔達が互いに身体を洗い合うと、一気に騒がしくなる。


 当然鋭児達にもそれが伝わり始める。

 

 「鋭児!いるか!?」


 「いるよ!」


 「よしよし……」

 

 なにをどう納得しているのか?と、鋭児はクスクスと笑い始める。

 

 「てか、みどりはオシリに、覚醒痣あるのか、珍しいな……」


 「菩提樹ですよ」


 みどりの右側のオシリには、多く扇型に広がった、菩提樹の痣が刻まれている。


 「てか……良いケツしてんな」


 「きゃはは!くすぐったいですよ!そんな……あ……あ……」

 

 「いや、ホントアンタなにしてんだって!」


 こういう所の焔は、本当に男女構わず、愛で始めるところがある。


 残念ながら、ミコやみどりの肌を覗き見る訳にもいかず、鋭児は壁越しに叱りつける事しかできない。そして焔の暴走を止める人材は、向こう側にはいない。

 

 そして妙に静かになってしまう。


 「ったく、焔サン……ちょっとは、静かにしてくださいよ!」


 「いいじゃねぇか。こちとら、胸揉み拉かれまくってんだぜ?な!?」


 どう考えても、それを誇らしく思っている焔の姿しか想像出来ない鋭児であった。そして、誰に同意を求めているのかとおもうが、そんな事をするのは、みどりくらいしかいないだろうと、今度は快晴の方が押し黙ってしまう。

 

 「ったく……」

 

 立ちかけていた鋭児は、再び湯船に浸かるのだった。

 

 「てか、なんでさん付けなんですか?自分の彼女っすよね?」


 「なんで……って、あっちの方がニコ年上だし、出会ってからコッチずっと、それで来てるから……」


 「あ……タメじゃないんすか?」


 「まぁ……学校の先輩ってのもあって、未だに焔サンだな……尊敬もしてるし……」

 

 と、そんな鋭児と快晴の会話に聴き耳を立てる女子三人である。

 

 「ふぅん……。なんか距離感あって、微妙な感じっすね」


 「そうか?」


 「ん~……」


 今まで余り、そんな風に周囲から言われたことはない。


 今では親友ポジションである康平にすら、言われたことが無い。


 「そういえば、美箏は昔から美箏だな……。吹雪サンも吹雪サンだし……」


 「って、六人も女いるって、マジなんですか!?」


 快晴としては、タチの悪い冗談で、それっぽい焔の戯言ではないか?と、半信半疑の快晴だったのだが、本人がこうして考えている素振りを見せるとなると、それは満更見栄でも冗談でもないのだと知る。

 

 「そういうお前だって、二人いるだろ?大事な人が……」


 「だ……大事って、ミコちゃんは、本当に五年ぶりだし……」

 

 そう言いつつ、快晴は声を尻すぼみにしてしまう。


 そして、みどりの事を否定はしない。

 

 「優柔不断だし、自信過剰なんて言われるかもしれないけど。なんか嫌なんだよ……」


 「自分以外の奴の女になるってのがですか?」


 「いや。ん……、オレが守らなきゃならない家族なのかな……って。なんか見えちゃうんだよ。暗雲?てのがさ、唯一アリス先輩って人だけは、オレよりも幸せになれる道があるかも……って思えるけど、今は……まだかな」


 恐らくアリスが、にこやかに手を振ることの出来る未来はあるのだろうが、それは今ではないと鋭児は思っているし、恐らく自分がいるからこそ、それが成せるのかもしれないと鋭児は思ってしまう。


 「なんか、めちゃくちゃ、自信過剰で強欲にしか聞こえないんすけど……」


 「否定出来ない……かもな」

 

 鋭児は大きく腕を伸ばして、リラックスした表情を作る。

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