第2章 第10部 第9話
お互い何かがある。それは解りつつ、少なくともこうして何かに集う仲であれると、焔は言いたいのだ。
何より、ミコは焔のそれを見て驚かなかった。
彼女は満更自分達に関係のない人間ではないということが、鋭児にも解る。
花火を持たせて、暴れ回るのはみどりと焔である。
ミコなどはやはり提灯花火などが、静かで落ち着くのだろう。いじられているのは快晴で、彼もどちらかというと寡黙な部類であるが、ミドリの暴れっぷりにしてやれられている感じが窺える。それに加えて焔である。
「はは。アブねぇから、燥ぎ過ぎんなよ!」
こういう時鋭児はあまり騒がない。燥ぎたいのはやまやまだが、そうなると暴走する人間を止める役割がいなくなるし、今は焔が燥いでいる。
それに、どちらかというと、そういう彼女を見ているほうが楽しくもある。
「おう、鋭児!打ち上げやろうぜ!打ち上げ!」
「はいはい……」
鋭児は腰を上げる。
要するに少し離れた位置で、一番良い眺めを堪能したいのだ。
「オレやりますよ?」
幾分かではあるが、損な役回りをさせられそうな鋭児に対して、本来客である彼がすることではないと、快晴は思ったのだ。
「久しぶりに、会えたんだろ?オレはどのみち仕事できただけだし……」
鋭児は特に卑屈ではなかったが、やはり浮かれていられる状況でもないのだ。特に黒羽などは、何時どのタイミングでひょっこりと顔を出してくるか分かってものではない。
恐らく快晴やみどりに対して、彼が何かをするとも思えないのだが、鋭児が黒羽との駆け引きをはぐらかそうとすると、彼等が巻き込まれかねない。
本来彼等とも関わりを持つ事も危ないとされるのだが、この宿はそもそも蛇草が指定した宿であり、どうやら彼等は大方東雲家や不知火家の事などを知っているようである。
であるなら、豊穣祭が数日中に行われることも、聞き及んでいるに違いない。
「ほら……両手に花だろ?」
珍しく鋭児がこの手の冗談をいう。からかわれた快晴は満更でもないようで、口をと尖らせながら、ミコとみどりの所へ戻る。
「しかし……」
鋭児は思うのである。どこからこれだけの量の打ち上げ花火をかき集めてきたのか?と。
まるで、夜店の景品ではないのか?と思える量が、ずらりと並べられている。
家庭用であるため、高さも打ち上げられる花火も大きくはないが、それでも次々と打ち上げられる花火は、それなりに楽しめた。
恐らく宿泊客の中には、部屋からこれらの光景を目にすることが出来ただろうし、気になった人間は若干遠巻きに、彼等の火遊びを眺めていたりもした。
「うわ……火薬クセェなぁ」
焔は態とそれを大げさに言ってみる。勿論そうなっている理由などは、重々承知の上での事である。
「いいだろ?どうせこの後風呂入るんだし」
「そうだな……なんなら、隅々まで洗ってやろうか?」
「はは……、そう言う訳にもいかなっしょ」
ある意味、可成り本気染みた焔のその言葉に、鋭児は空笑いをする。そして、そんな焔のアピールに対して、期待の視線を向けているのはみどりで、ミコは若干ソワソワとしている。此方の方もなにか随分と期待をしているようだ。
そして別館での入浴タイムとなる。
鋭児と焔は一度汗を流すために入浴をしているが、せっかくの温泉旅館である。湯は幾度でも楽しみたいものだ。
そしてまず、湯に浸かっていたのは鋭児である。
次に顔を出したのは、快晴だった。
「お邪魔します……」
彼は、腰にタオルを巻いており、遠慮がちに顔を出し、かけ湯を始める。
「んだよ。別にミコちゃんの部屋方いっても良かったんじゃないか?」
鋭児はクスクスと笑いながら、快晴をからかってみる。
「いや、流石にダメっしょ……」
快晴は口を尖らせながら、コレには反目する。
それでも一応、別館の湯は仕切りこそされているが、奥の方で一つの湯になっているのだ。
つまり、その仕切りを越えてしまえばいつでも合流出来る状況にはなっている。
つまりは、東雲家あるいは、鼬鼠家という信頼された身内でのみ使われることが殆どなのだ。
しかも年一度の豊穣祭か、あるいは天聖家に顔を出す、その前後の時のみに使用される、実に贅沢な空間である。
そして、別館といってもここだけではない。
この場所は普段、霞や蛇草が出入りしている部屋に過ぎない。鋭児は急遽そこへ押し込められたということになる。
とはいうものの、若干蛇草の計略が外れたといっても過言ではない。
よって、その作りも大胆なものとなっており、奥が繋がっていると言うことは、当然それらが意識されてのことである。
だが、鋭児も快晴も仕切りのない奥へと行くことはなく、そこで湯を楽しむ殊にする。
それにしても、快晴から見た鋭児は、相当なものだった。
決してマッチョではないが、筋肉は隆々としている。
鋭児は元々締まった体型ではあるが、能力の開花や日々の訓練もあり、その質はますます向上していた。
更にそれを厳つくさせたのは、腕に鏤められた、舞い散る羽根の覚醒痣である。
「んな警戒しなくても……」
鋭児はまた笑う。
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