第2章 第3部 第19話

 ただ、学長の部屋を出てから、一つ何かが異なる事を知る。

 天聖家は傷物を嫌っており、本当なら鋭児は疎ましい存在だと言うことになる。

 「大叔母様が、今でも実権を握ってらっしゃるのよ。天聖家は」

 「ああ……」

 アリスの説明に鋭児がそれを納得する。

 世の中色々在るものだと、そんな部分に関しては妙に冷めた感情を持っている鋭児だった。

 

 「じゃぁオレ、煌壮を連れてそっち向かいますんで」

 「そうね。準備してまっているわ」

 

 鋭児と、アリス達は、一度その場で分かれることにする。

 勿論互いのいた場所へと送迎されることになる。

 

 そして、場面は鋭児達が去った学長の部屋となる。

 「どうでしたかな?」

 「特殊な力を持っているという以外は、吹雪も彼も普通の少年少女でしょう。もう我々の口を出す時代でもないでしょうし……」

 「そうはいうてもな……」

 彼らを何時までも古い時代の決まりで抑え着ける事もできない。だからといって、一騎当千に等しい彼らのような能力者が、自由闊達に生きる事ができるほど、世の中寛容でも自由でもない。

 「殿上人様が、傷や痣を酷く嫌うようになられたのは、先々代の頃からとなり、母もそれに準じておりますが、その理由も定かではなく。ただ天聖家に仕える者には、執拗なほど美が求められるようになりました」

 吹雪が天聖家に見初められたのは、まさにその美しい容姿であると、彼女は言いたいのである。そしてその相手として傷のある鋭児は、飾るに相応しくないというわけだ。

 ただ、その理由は彼女もわからないのである。

 いえるのは、根拠のない仕来りや、時代遅れの慣習などは、そろそろ終わりを告げるべきなのではないか?と、いうことだ。

 ただ、それに反して彼女が未だに中世日本を意識するるような出で立ちを通しているのは、彼女自身が逆らうことの出来ない力があるからだ。

 「あまり過ぎた事をおっしゃられますと。お母上様の耳に届いてしまいますぞ」

 「そう……ですね」

 学長はまだ理解のある方ではあるが、彼は思うのだ、どれだけ時代が変わったと言っても、では、箍の外れた能力者は、誰が管理をするのか?と。

 結局彼らを誰かが束ね、その力を制御しなくてはならない。

 

 時代の変化を感じつつも、残された課題は未だ多い。 帰宅後、鋭児は煌壮を連れ、再び焔の元へと戻る。

 「ほら!やっぱり赤飯じゃねぇか!」

 自分を中心とした祝い事だとして、煌壮は嬉々として声を上げているが、そのセンスはいかがなものか?と鋭児は、若干頭痛気味になる。

 「女の子が、階段を一つ上ったのだから、やはり赤飯でしょ?」

 当然こういう若干タチの悪い冗談を絡めるのは、アリスである。

 

 そして、いつも足代わりに使われている大地だが、この日はさすがに顔を出していないようだ。勿論アリスが声をかけていないからだが、そもそも煌壮にとって目出度いからというだけで、本来特に祝う事でもなく、ごく個人的なイベントである。

 現に鋭児の時は、慌ただしかったといえ、歓喜とまではいかず、焔と吹雪にその将来性を確信させたに過ぎなかった。

 

 そもそも煌壮が正しく自分のケアをしているかどうか気になっていた鋭児が神村と話をしたことで発覚した事実である。

 「女子はやっぱり球のような肌であることが望ましいし、覚醒痣なんて本来求めるもんじゃないんだけど、煌壮ちゃんの励みになるだろうからって、ね?鋭児」

 「だから、ソレ言うなって」

 鋭児としては、自然に煌壮が祝福されている流にしたかったのだ。勿論焔も鋭児もそれに関して、偽りではないのだが、本来肩の一つでも叩いてやればよいだけの話だったのだ。

 鋭児の後を継ぐと決めた煌壮にとって、それは一人前に近づく一つの証であり、闘士として焔を目標にしているため、それは彼女自身自分の成長を実感出来る一節だった。

 「鋭児兄……」

 若干瞳を潤ませて、見上げる煌壮の視線に、鋭児は照れて顔を背けてしまう。

 「まぁ、妹いたらこんなんなのかなって思うとさ……」

 

 「へへへ!」

 鋭児は背中を向けたままだったが、その背中にしがみつく煌壮はいつも通りやんちゃな笑みを浮かべていた。

 今日ばかりは、煌壮が主役であり、仕方がないと焔も吹雪も互いを見合って、クスリと笑うのである。

 

 そしてこの一週間後、煌壮の順位戦が始まるのである。

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