第2章 第1部 第13話
「向こうの爺さん達は、可成り俺を警戒してるようだが?」
それは、鋭児達がそうではないということの当てつけである。
「隠れ里だからな。正面から入ってこない人間には、尚更って所だ」
「やっぱり正面から……か」
彼はやたらとそれに拘っているようだ。
「今から、帰る所なんだ。じゃぁ……」
鋭児は絶えず、千霧と彼の間に入るようにして、極力自分が会話をするようにしていた。
決してそれが上手な会話であったかは解らないが、歩かせるにしても、千霧を先に歩かせ、背中を向けていたとしても、絶えず彼から、千霧を守るようにしている。
「おい!待てよ。つれないなぁ」
妙にとぼけた困惑で、鋭児達を引き留める。
「アンタのその様子じゃ、この村が十分に安全だと理解した上で、顔出したんだろ?」
「可愛くない小僧だなぁ」
鋭児がすでにそれを悟っていたことに、少々がっかりとしながら彼は、引き留めに掛かっていた手を下げ、少し肩幅に足を開く。
「俺たちは、ただ此所を見に来ただけなんだ。長老ともそう約束している」
そう言って、鋭児は遠巻きに見ている長老に視線を送る。
「ああ……そう」
なんとも歯ごたえのない回答だと彼は思ったらしいが、挑発のために河原の石を踏みしめるその音で、直ぐに向き直し、自然体でありながらも、戦える姿勢を見せている鋭児に、少し背中に寒気を覚えるのだった。
「けど、俺がすごく悪い奴で、あの爺さん達をどうにかするってなったら。お前さん……傍観出来るのかい?」
「だったら、とっくにそうしてるでしょうに……」
「まぁそうなんだけど……兄ちゃんの回答次第って事もあるだろ?」
「そういう……手合い……ってことか」
一宿一飯の恩というわけではないし、抑もこの里には、言葉通り、見るというシンプルな目的以上の事をする気は無かったのだ。
数日過ごし、何となく頃合いを見計らい、帰るというだけのことだったのだ。その説明は千霧からも受けており、そうして開かれるものもあるのだと、鋭児が何となくわかりかけていた矢先の出来事でもあった。
「いって良いか?」
「いいよ?何時でも」
恐らく彼は、鋭児達と違った方法で里を観察しようとしていたのだ。
それは姿を現さず、遠巻きに里の様子を伺い、調査をするというものだったのだろう。
だが、鋭児と千霧がノンビリと生活などをしているものだから、それが気になったに違いない。気になった理由としては、彼等ほどの手練れが、安穏とした日々を送っていたことに尽きる。
鋭児は俄にも動いた様子がなかった。
だというのに、男の顔が、何かに弾かれたように、若干後ろに仰け反る。
「おい!ちょ!」
そう言っている間に、二発目、三発目とヒットするのだ。
「待った!おいって!」
何が起きているのか?それは分かりかねるものだったが、千霧には鋭児が何をしているのか、理解している。
ただ、それほどの威力は無い。
厳密に言うと威力を抑えているのだ。だからこそ何が起きているのかわかりにくいものになっている。
そして、男は次の瞬間、両手を正面に出して、その手に気を込める。
すると、鋭児からの攻撃が届かなくなる。
「ほんと、待てよ!なぁ、こう……ちゃんと勝負しようぜ!食えないガキだな!」
「やだね。アンタの手の内が見えねぇし、何か仕掛けてるかもしれねぇし。大したダメージにもなってないだろ?ただ……」
「ああ?」
「アンタは、風の力が使える。髪色から闇系統だ……、得意なのは風だけど、隠し球ってのも、あり得るかもな……」
鋭児のそれは、何とも素人くさい分析だったが、それでもそれは強ち間違ってはいなかった。要するに手っ取り早く、無意識に自分の手癖がそこに出るということだ。
男は、風の力で牽制をすることがあり、それが操りやすい能力で、尤も親和性の高い力とも言える。
風の術を使うにも拘わらず、彼の頭髪は黒い。
黒いということは、闇属性を保持しているか、地属性を保持しているか、或いはそれ以外か?だ。地属性と風属性を、両方所持するような能力者は希だ。それは相反する能力だからだ。
保持している場合であっても、大半は補助的な力であり、主力ではない。
よって、風を使う彼の種族性で、地属性はあり得ないという単純な考えである。
例外はいくつか存在するが、それを言い出してしまえば切りがない。蛇草や晃平のような存在は至って希有なのである。
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