第1章 第7部 第18話

 「焔さん!」

 鋭児は、まだ他の六皇達と集まっている焔に向かい声を掛ける。

 「今日はスカートじゃないんですね」

 「ああ?お前、見せる必要のない相手にスカートなんか穿くかよ」

 「っすよね」

 「心配すんな。お前の時は、バッチリキメておいてやるからよ」

 「わかりました!」

 そう言う鋭児は、妙に清々しい笑みを浮かべているし、焔も鋭児の期待に応えるように、凜々しく涼しい笑みを浮かべるのである。

 何のやり取りなのか?と、大地は思う。

 「なんだ?」

 「いや、焔サンは好きでもない男に、スカートの中身見せないって話です」

 「はぁ?」

 「いや、何でも無いです。それでは失礼します」

 鋭児は一人ニヤニヤしながら、その場を去るのである。

 

 「日向と黒野が相思相愛というのは知っているが、態々言うことじゃないだろう……その……なんだ」

 と、舞台の上に戻ってきた大地が若干言葉を濁しながら、審判を含む六皇の所まで、戻って来る。

 「仕切ってわりぃが、明日アリス先輩が顔ださずに鋭児がそそれを審判に伝えた時点で、吹雪の勝利で異論はねぇな?」

 「ああ……ないよ。アレはアリスの特性だからね」

 聖はそれを理解し、焔に特に反論はしなかった。

 「オレもない」

 「オレもー」

 と、大地に続き、なぜかボロボロになっている風雅もそれに賛同する。当事者になる吹雪は特に返事はないが、多数決で決まることになる。

 「私も、来年の六皇戦は、考えちゃおっかなぁ」

 と、若干ズレたことを言い出し始める吹雪だが、その意味を知っている焔は、歯の隙間から息を漏らすようにして、意地悪な笑いをするのである。

 

 ただ、解散間際に。

 「明日、ちゃんとツラだせよ。聖先輩」

 「解ってるよ」

 そんな、殺気だったやり取りがあるのだった。

 

 その後、聖と大地の試合が行われるが、聖の手刀は非常に殺傷能力が高く、大地が堅固な防御力を誇ったとしても、一点にその力を込められてしまうと、それもまるで紙切れのように切り裂かれてしまう。

 可成りの粘りを見せたが、それでも最後には、背後を取られ、首元に手刀を突き付けられ、大地のギブアップとなる結果となる。

 残りの対戦相手は、風雅のみだが、彼はこの時点ですでに三敗目である。

 それを感じてか、大地は、舞台の上で天を見上げ、大きく息を吹くのであった。

 「まだまだ、修行が足りない……か」

 ストイックという訳ではないが、大地はこの中でも勤勉な部類である。ある意味風雅とは対局にある。

 三敗はしているが、別段大地が弱い訳ではない、相性というのもあるが、抑も聖は強いのだ。吹雪も強いと言えるのだが、彼女は完全に相性で大地を押し切ったと言える。

 彼女の戦いは、大地の生存時間というものを人質に取った戦い方で、非常に際どい勝ち方であったが、それでも大地がその程度で、直ぐに倒れてしまう相手ではないことを理解しているし、彼のセコンドには藤がいる。

 大地の危機には、必ず彼が正しい判断をすると睨んだからこその仕掛けでもあったのだ。

 対して焔は、余り相性が良いとは言えない、速度では大地を上回り、翻弄することは出来るが、打撃系の彼女は、大地の防御力の前では、効果のある攻撃を打ち出すことが出来ない事が多い。

 苦戦を強いられることがあり、大地がスタミナ勝ちをすることも非常に多い。

 聖も勝つには勝ったが、決して正面から大地を相手にしたわけではないし、彼のスタミナ切れを狙った戦いではない。翻弄し、殺傷能力の高い攻撃で、彼をギブアップさせたとうことになる。

 逆に見切られ、彼に反撃を受けると痛い目を見るのは聖の方となる。

 これで中々に際どい駆け引きだったのだ。

 ただ、三敗目という結果を受けて、大地が一つ多く負け越す形となる。

 ただ、アリスの一敗だけは、なんとも言えない。誰も解らないし、あの半球対で何が起こったのかは、それこそ「知る人ぞ知る」と言う所で、説明しがたい負け方だ。

 そして口にも出来ない。

 

 鋭児は部屋に戻る。

 「勉強になるっつーか、派手な技を出す暇もねぇんだなきっと」

 というのが、鋭児の結論である。ただ、吹雪に負けた風雅の戦いにしろ、大地とアリスの試合にしろ、何で負けたのか理解しがたい、理解しても苦笑しか出来ない負け方が、二戦もあるし、風雅に至っては、焔に勝ちを譲る始末である。

 矢張り聖が一番真面目に戦っているようだ。

 ただ、淡々としたところがある。

 「あの人が、一光さん殺したってのが、なんか信じられねぇな」

 

 淡々として、穏やかなそうな聖が、どうして一光を殺さなければならなかったのか?というのは、鋭児には解りかねる所だったが、焔が、聖との戦いをどうするのかを考えると、少々不安に胸が苦しくなる思いである。

 ただ、今の自分は彼女の側にはおらず、その事について気持ちを分かち合うことも出来ない。

 鋭児は、溜息をつくのだった。

 そして、穏やかに眠っているアリスの側にまで来ると、彼女の額に手を触れる。

 確かに体温は安定しているし、すやすやと健やかに眠っているようにしか見えない。

 「今頃、お伽の国にでもいってんのな」

 鋭児には、明日の六皇戦で、アリスが目覚めなかった場合、それを告げるという役目を担っている。それ自体は大した役目だとも思わないが、もしアリスがそれを読んでの自分の招集ならば、彼女は何処まで見通しているのだろうと鋭児は不思議に思ってしまうのである。

 もし彼女がより深い、より遠い、より正確な未来予測などを口にし始めた場合、彼女は眠りにどれだけの代償を払わなければならないのだろうと、考えずにはいられない。

 「二日以上目覚まさないと……ヤバイな」

 脱水症状などを考えると、何かしらの処置を施さなければならないのではないか?と思う。

 仮死状態だったとしても、エネルギーを消費している事は間違い無い。

 とりあえず、一日は眠らせておくとして、大会後にも焔や吹雪に相談することとする。

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