第1章 第6部 第27話

 「それで?」

 話を切り出したのは、吹雪だった。

 「まぁ……焔サンの事なんだがな……」

 「ふぅ……ん」

 中間試験の事をまだ気にしているのか?と、吹雪は思うのだが、それを何時までも卑屈に思う重吾でもないだろうと、少々考えるが、確かに解らないでもない。

 如何せん焔らしくないということなのだ。

 「焔は頑固だもんね……言わないって言ったら、言わないんだから」

 焔が言いたく無いことを、吹雪は聞きはしない。というより、聞いたところではぐらかしたり、頑なに口を閉ざすといったところである。

 「やりたいようにしか、やれない性格だから……」

 そして、続けてそう言う。

 「かもしれないが……」

 どうしようも無い違和感がある。

 「オレも一度、不知火家に顔を出してみるよ。当主様にも顔を出せと言われているし……」

 重吾がそう思うようになったのは、矢張りクラス二位という結果を手にしたからである。力を付けることは大事だが、それ以上はどうしようも無い差がある。

 それは諦めでも何でも無く、確かな現実なのだ。

 「ゴメンね。肝心な時に何時も役にたてなくて」

 吹雪はなんとも寂しそうにニコリと笑うのである。

 「何を言っているんだ。雹堂は、焔サンが暴走した時に、助けてくれた。皆お前に感謝してるよ」

 「大事な人に……誰も傷ついてほしくないだけだから……」

 そう言って、吹雪はもう一度寂しそうに笑う。大事な人とは勿論焔の事である。周囲が傷つく事がどうでも良いと行っているのではない。

 そうして傷つけて、尚傷つくのは焔なのだ。焔がどうしようも無く鋭児を打ちのめそうとした解きも、身を挺してそれを止めようとしたのは吹雪である。

 「兎に角。この週末にでも行ってくる」

 「うん……お願いね」

 そう言って、重吾と吹雪は別れ、吹雪は自室へと戻って行くのだった。そして、部屋に着くと同時に、そこへしゃがみ込んでしまうのである。

 「ダメだな……私……」

 吹雪も嫌な空気を感じていなかった訳ではないのだ。何もない振りをして、明るく努めているが、重吾の一言で、その騒めきをハッキリと思い出してしまうのである。

 それでも、焔が何かを思い前に突き進もうとしているというのに、その歩みをどうして自分が止めることが出来ようかと、彼女は踏みとどまり、親友である彼女の背中に手を伸ばしながらも、その肩を掴み、踏みとどまらせる事が出来ないのである。

 彼女を振り向かせ、何を考えているのかと問い質したところで、彼女は恐らく「何もない」と、一言発して口を閉じ、躊躇いなく背中を見せてるだけなのだ。


 吹雪は一通り思い悩むと、ぱしっと自分の両頬を強く叩き、スクリと立ち上がる。

 「私に出来ることは、焔が元気に前を向いて歩けるように、ご飯を作って上げる事!それに……鋭児君も……」

 と、ついでに惚気も入る吹雪であった。そして、電話を掛ける。

 ただし、電話に出たのはアリスであり、その後鋭児に伝えられると同時に、何故か彼女もその相伴に預かることになるのであった。

 

 重吾が不知火家に行く日、彼は赤羽と共に出向くことになった。

 赤羽の理由は、定期診断ということだ。

 炎の能力者は、その能力が身体に影響しやすいことから、時折赤羽のように、心臓への負担に耐えられない者が出るということから、炎を司る不知火家としては、矢張りそういった者達に対するケアは、他家よりも手厚くしている。

 赤羽は、月きに数度、しばらくは経過を見る事になり、ちょうどその日となるため、そこへ重吾が同乗することとなる。

 基本的には、赤羽の心臓の事も公には出来ないのだが、それでも単純にリハビリといわれれば、彼はまだギプスの取れていない腕をアピールするだけのことだ。

 「珍しいね。吾壁が不知火家だなんて」

 「まぁちょっとな……お前には悪いが、目標のFクラス二位に到達した。不本意だが……」

 「そうか……」

 複雑な話である。ただ、二人とも炎属性の上位でり、赤羽家は抑も不知火家に帰属しているため、順位とは無関係に、不知火家に仕えるのだが、重吾は特に名家ではない。それどころか、彼自身は施設出であり、その血統は不明だ。

 そういう彼が、学年二位という状況はかなり希なのだ。

 赤羽は少し、車窓の外を眺める。ただ悔しいとは思わなかった。いや悔しいわけではないが、命を落とすと言うことを考えれば、いくらでも取り返しの付くことである。


 二人が不知火家に到着早々出迎えてくれたのは、現当主である不知火旺盛しらぬいさかるである。

 「よう!やっと顔を出したか!」

 そう言うと、旺盛は重吾の肩を強く掴み、揺するようにして彼の来訪を歓迎する。

 「昇太少年!腕の具合はどうだ?ん?」

 そして又もや遠慮無く、赤羽の肩をぐいと掴み、彼も揺するように歓迎する。これではどちらが能力者か解らないほど、彼の挨拶は力強い。

 将来有望な少年二人を連れ、旺盛は邸内に足を運ぶ。

 

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