第1章 第5部 第23話
そして、二回戦第五試合が始まる。
舞台には圧倒的な強さを見せた磨熊と真っ白な巫女姿の少女が一人向かい合っている。
「全く……お前等。そんなにオレを目の敵にせんでもいいだろう?」
「日向が出てこない以上、アンタをここで倒さないと、面白みもなにもないじゃない」
大河が全力を出す前に、倒されてしまったというのが彼女の認識であるが、それも磨熊戦のために、余力を残して置きたかった一心のことだろうと、予想立てる。
ただ同時に黒野鋭児という存在が思った以上だったことも確かで、流石は不知火老人がゲストに招いた男だという認識は生まれ始めていた。
磨熊と対戦するのは、
ただ、誰が出てきたとしても、自分のやることは変わらないと、磨熊は不遜な笑みを浮かべ、余裕を持ち、彼女を迎え撃つ体勢をとるのであった。
神楽は距離を置き、両手を正面に構え、そこに六芒星を描く。しかもほんの一瞬である。
聖属性は光を扱い、印を組むのはどの属性よりも早い。しかしその分描かれるのも一瞬である。彼女は閃光を焚くようにして、連続で磨熊にその光を放つ。
その印は、磨熊の服に焼き付き、穴を空けてしまうのだ。
「あ~?お前、またそれかよ!衣装安くないんだぞ!」
「知らないわよ!」
磨熊には全く効いていないというわけではないのだ。照射された部分は赤くなって熱を帯びているし、直撃を受けると、磨熊もほんの僅かに、体をのけぞらせるのだ。
しかし、磨熊も何時までも撃たれているわけではない。
体中に力を込め、周囲に気を張り巡らせるのだ。すると彼の周りは、赤く光り出すのだ。
すると、神楽の光は磨熊に届かなくなる。
そうなると、今度は、閃光を焚くのではなく、光を手の内側に収束させ、光弾にしてそれを放つのだ。
これには、磨熊も打撃で叩き落とす対応を取る。両手に十分な気を集中させているのだ。
聖属性の基本は加護である。相対する属性には、必然的にマイナス作用を齎す事になるが、それ以外に、相手を束縛する効果は無い。
よって、磨熊も彼女の攻撃を迷いなく受ける事が出来るのだが、質量を持たない光弾を叩き落とすその芸当は正直異常であり、磨熊の気が洗練されている証拠でもある。
気で発せられた力を気の力で叩き落としているといった具合だ。
磨熊がある程度、光弾を叩き落とすことになれてくる隙を突いて、突如神楽は突進し、主塔を作り、次々に磨熊に斬りかかる。
「お?お?」
磨熊は至近距離でそれを凌ぐが、彼女の手刀の切れ味は予想を超えているようで、彼の肌に傷を付け始める。
「流石庵野よりは、手強いな!」
神楽の攻撃に、磨熊は落ち着いて一歩ずつ下がるが、ほんの僅かな隙を見つけ、彼は回し蹴りをする。
「ふん!」
磨熊の蹴りが、神楽の頭部を掠めようとした瞬間、神楽は体を引き、バク転をしながら、大幅に距離を空けるのだった。
磨熊の蹴りの軌道が揺らいでいる。滞留するほどの凄まじい熱量がそこにある事が解る。そんな蹴りを食らおうものなら消し炭になり兼ねない。
仮に受け止められても、磨熊の力で場外まで吹き飛ばされてしまうのは間違い無い。
神楽は流れる冷や汗を袖で拭き、次の攻撃のタイミングを見計らう。
しかし、なかなか付け入る隙が見つからない。
「じゃぁ……」
磨熊はニヤリと笑う。
今までも彼は、豪快に見え、差ほど動きを見せなかった。どちらかというと、悠然と待ち構えており、本来炎の能力者である運動量の高い戦い方をしていないのだ。
いきなりトップスピードで、一気に神楽に詰め寄る。
余りに急激な速度差に、神楽は戸惑うが、これを咄嗟に躱し、大きく迂回するように、磨熊の背に周り込むのだが、彼は直ぐさま振り返り、又もや詰め寄る。
まるで鋼鉄の塊のような、磨熊の拳を懸命に躱し続けるが、それで手一杯である。
動きは豪快で、乱雑に見えるが、その速度は非常に早く、一撃でも当たれば、致命的なダメージは、免れないのは、誰の目から見ても、明らかだった。
絶妙なスリルとプレッシャーを与え続けるのが、磨熊の戦い方であり、神楽が何時それに負けてしまうのかと、観客は目を見張っているが、残念ながら二人の戦いを、直接目の当たりにしているのは、不知火老人と蛇草、それに数人の観客である。
その中には、今大会の参加者ではない闘士や、不知火家の者達も当然いたりするが、本当に点々としている程度だ。
「あやつの戦い方は、相変わらずじゃのう」
不知火老人は、磨熊の戦い方は豪快で、確かにその破壊力は魅力的だが、少々力を持て余しているようにも見えた。
「今度、私がお相手しましょうか?」
「ふむ。蛇草ちゃんの闘士姿も魅力的じゃのう。美女が大男を翻弄する姿も、さぞ面白かろうが、磨熊ではちと、荷が重すぎるかのう……」
それは、蛇草と磨熊では、蛇草の方が強いと明言しているようなものであるが、あくまでも私的な会話である。それに、贔屓目をしたところで、事実は変わらない。
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