第1章 第1部 第13話

 この学校の高等部の構造だが、中央に大きな円筒状の棟があり、地下二階から二階までが闘技場となっており、その高さは教室二つ分となっている。三階は食堂となっており、四階は多目的ホールとなっている。

 それを囲うようにそれぞれ各属性に別れた、建物が建っており、北から右回りに聖、風、火、魔、地、水と、それぞれのクラスが存在し、つまり彼らのいう、FやIなどの頭文字は、それぞれの属性の頭文字のことだ。

 校舎の一階は、保健室や教員室や実験室など、様々な施設が集まっている。ただ、三年生だけは、属性に関係のないクラス編成がされており、より実践的なクラス選別となっている。

 クラスは基本的に属性で六枠レベルの応じて四段階で分かれており、Fは炎、大地はGというふうになっており、制服の色もそれに属したカラーリングになっている。

 変則的なのは、水使い達で、風クラスと頭文字がかぶるため、氷からその頭文字を取っている。そしてその教室と繋ぐように、それぞれの寮が、併設されているという構造だ。そしてその外側大きなグランドがぐるりと取り囲むように存在しており、また、小学部、中等部、高等部、大学部と、それぞれの施設が、広大な敷地内に点在しているのだ。

 特に彼らの、体育の代わりとなる開発授業は、午後に集中しているため、更衣室ではなく、寮にある各自の部屋で着替えを済ませることとなる。一年のグランドは、Fクラスのグランドでも、最も遠い位置に有り、徒歩で十分ほど掛かる位置にある。

 「食べ過ぎたか……」

 鋭児は、カレーパンに併せて静音手製の弁当というボリュームで、普段食べている昼食から、大凡懸け離れた量の食事に、少しゲップをしながら胃の辺りを撫でなつつ、体操服姿で、グランドに向かう。羽織った上着も、ジャージのズボンも、赤色に袖の辺りや、ズボンのサイドラインに、黄色いラインが入っており、白い体操着の袖や襟首にも赤いラインで縁取られている。

 炎の使い手なのだから、赤という安直な発想だが、確かに合理的にどの属性を示しているのか、見分けることが出来る。といっても、体操服のデザインそのものは、平凡な物だ。

 「グランドは……と」

 寮には教室と繋ぐ門とは反対方向に、校庭と直接通じる門がある。プライベートな時間は、こちらの門を利用することが殆どだ。

 一年生達が寮一階廊下を行き来している。鋭児が通ると、鼬鼠二年との小競り合いを耳にした生徒達が噂している。おそらく他学級の生徒だろう、全員の顔を覚えている訳ではないが、彼のクラスでは、すでにその話題で、主役になったところである。

 一年F4のクラスメートは、彼を見ると、晃平の気配りもあってか、さりげなく視線を送ったり、挨拶をしてくれる。鋭児もそれなりに挨拶を返すのだが、正直自分でも違和感がある。なんだか憑きものが取れた感じがしないでもない。

 グランドに向かうには、校内を走る白い煉瓦造りの片側一車線の道路を隔てた向こう側に位置している。相当広い敷地であるため、校内にも車が走ることが多いし、定期的にバスも走っている。

 山間に作られたこの施設は、少し望むと、山が見えるし、以外と高低差が伺えるし、下っている道の先に見える景色がなんともキレイなのである。可成り向こうではあるが、海を望むことも出来る。そちら側には街があり、そこに普通の生活がある。ただ、なんだか其処には接点を感じず、まるで下界のように思えてしまう。

 特に、森林に囲まれたこの学園は、雑踏の多い首都である彼が住む街と比べて、可なりのギャップを感じさせた。

 Fクラス第一グランドには、Fクラスの一年生全員が集まる事になっている。その中でもF4の集合場所は、更に端の端で、クラスの筆頭である晃平は、いち早くグランドに顔を出しており、皆が集まりやすくしている。

 「よう。晃平。また、下っ端の頭やってんの?」

 と、他のクラスの生徒が、晃平をからかって、手を振って通り過ぎて行く。晃平へのイヤミは、そのままクラスへの、侮辱へと繋がるが、晃平は苦笑いをしながら、その生徒を見送る。

 だが、鋭児は視線を鋭くして、ジロリと彼の背中を睨む。そのときの鋭児は、祖母を失う直前までに存在した彼なのだ。相当鋭い目つきである。

 鋭児は一歩前に出る。

 「よせよ。言わせとけ」

 晃平は鋭児の腕を強く掴み止めるのだった。目を閉じて、メガネを中心を左手の中指で軽く持ち上げ、かけ直し、落ち着いた様子でもある。

 「お前の何が解ってんだよ。あのヤロウ……」

 「止めろって。少なくとも昨日今日のお前より、付き合いはあるよ……」

 晃平は動じない。鋭児の気は収まらなかったし、煮えくりかえった腸も収まりがつかない。しかし、晃平の言うことも尤もなのだ。その言葉以上に、自分の気持ちを表に出すことは、道理に値しない。

 「解ったよ」

 鋭児は晃平の腕を振り払って、拳を収めた。

 「お前、そんな顔するんだな……」

 晃平が冷静に、鋭児に対してそう言う。晃平は冷静だ。その言葉には刺がない。ただ鋭児の一面を見た。それだけの表現だった。

 「許せねぇんだよ。理不尽な気がして……、そいつの価値無視したような言いぐさがよ」

 「そうだな……」

 鋭児のいう理不尽とは、晃平の性格的な器量に対する扱いが不当だという意味だ。何か一つのベクトルのみの思考で、それを軽視された気がしたのだ。

 その時、まるでヌーの大移動が通り過ぎるのか?という、重低音の足音がバタバタと土煙を上げながら、遙か向こう側から、鋭児の方に向かって突進してくる。

 「鋭児はいるかーーーーー!」

 可成りの怒声であるが、間違いなく焔の声だ。鋭児の中ではすでに、間違いなく騒がしさナンバーワンの焔だ。それにしても、相当の声量で、声がエコーしている。

 「焔筆頭……だ……」

 「炎皇様だ……」

 一年達が、彼女の存在にざわめく。

 「エーーイーージーーー……!!」

 焔は、雑音を一切無視して、鋭児に駆け寄ると同時に、肩で息を切らせながら、下から鋭児を睨みあげる。

 「な……なんすか……先輩」

 「テメェ!放課後、食堂に来い!ゼッテェ、ボッコボコにしてやっからな!!!」

 と、鋭児を指し、怒り心頭で啖呵を切って背を向け、蟹股で地面を踏みしめながら、戻っていく。

 何が起こったのだろうか?炎皇が自らご指名で、処刑宣言をしてゆく。しかも格下の相手に向かってのそれは、相当に珍しいことである。よほどの逆鱗に触れたのだろうと、周囲は一線を引いた視線で鋭児を見る。

 「な……何したんだよ。お前……」

 土曜日の夜から日曜日の朝まで、焔が鋭児の部屋に入り浸っていた出来事は、すでに一年の中では、密かに広まっている話である。もちろんそれが、鼬鼠との小競り合いからの流れであることも、周知の事実だ。

 ある意味鋭児は、ドリームボーイのはずだったのだが、月曜の昼には、処刑宣言だ。しかし、それは周囲が推測する以上に、鋭児本人が理解不能で無根の事実である。

 「訳……わかんねぇ」

 理不尽だ。だが、焔の暴君ぶりは、すこし鋭児の感じる理不尽さとは違う。気に入らなければ、竜にでも牙をむく鋭児だが、焔に対してはそんな気が起きない。

 「なんで、食堂なんだ?」

 と、晃平がもう一つの疑問を聞くが、鋭児にも全く理解が出来ない。処刑宣言なら間違いなく闘技場の方が、場に相応しい。

 二人は取り付く島もないほどの、唐突な焔に対して、途方に暮れる気分だった。

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